要訣・朝鮮語
濃音化、鼻音化、激音化


 正直のところ、朝鮮語の音の変化はややこしい。「~化」という名前の音変化がいくつもあり、どの音がどう変化するのか、なかなか覚えづらい。これらの音変化を上手に制覇してこそ、朝鮮語をきれいに発音することができるというものである。

 1.濃音化 

 堅苦しく説明すれば、濃音化は以下のように定義することができよう。

 確かにそのとおりではあるのだが、専門用語も多くいかにも分かりづらい。言語の学習というのは、原理原則をきちんと理解するのは必須のことであるが、同時にさまざまな方便を巧みに用いて、より分かりやすい習得方法を自分自身で編み出す労力も惜しんではならない。
 例えば、上のような濃音化の定義をかみくだいて、下のように覚えてはどうだろうか。
 「口音終声」とは「鼻音終声」に対する用語であるが、口音終声の[ㅂ],[ㄷ],[ㄱ]は、どれも日本語の詰まる音「ッ」に似た響きを持っている。だから「口音終声」を「詰まる音」と覚える。また、平音は語中では有声音すなわち「濁る音」で発音されるが、濃音は語中でも無声音すなわち「濁らない音」である。よって「濃音に変化する」は単純に「濁る音(=平音)は来ない」と覚える。
 ひじょうに簡単な言い回しになってはいるが、濃音化のエッセンスはきちんと凝縮されている。このように、上手な方便を用いると、一見難しそうなものが、いとも簡単に覚えることができてしまう。
 この濃音化、実は日本語とも一脈通じるものがある。例えば「ベッド」、「バッグ」といった単語をみなさんはどのように発音しているだろうか。多くの人はおそらく「ベッ」、「バッ」のように、最後を濁音でなく清音で発音しているのではないだろうか。これは、日本語ではもともと詰まる音の後ろに濁音が来ないため、「ベッド」のような外来語もそれに従って「ベット」と発音しているのである。そして、「ベット」や「バック」の「ト」、「ク」の部分に注意して聞いてみると、この部分の発音は息が強く出る音ではない。つまり、朝鮮語風にいえば、息の強く出る激音ではなく、息が出ない濃音で発音されているのである。このように、濃音化は実は日本語もひじょうによく似たものがあるので、理屈を覚えるのも簡単だし、実際に発音するのも何ら難しくない。
 なお、念のため確認しておくが、平音は語中で有声音(濁音)になるといったが、ひとり「ㅅ」([s])だけは有声音の[z]にならず、語中でもつねに[s]のままである。


 2.鼻音化 

 鼻音化の定義は次のとおりである。  これも上にならって、やさしく言い換えよう。
 上の濃音化で、「口音終声」は「詰まる音」と覚えた。今度は鼻音終声を「‘ン’に似た音」と覚えよう。鼻音終声[ㅁ],[ㄴ],[ㅇ]は、どれも日本語の「ン」に似た響きを持っているからである。
 ナ行、マ行の前に詰まる音が来ないというのは、日本語も同じである。かりに「ナッマル」と書かれたものを発音しようとすると、とても発音しづらいのが分かる。一方「ナンマル」と書かれたものは、すんなり発音できる。要は朝鮮語も同じなのである。ㄴ(ナ行)、ㅁ(マ行)の直前に来る口音終声(詰まる音)は、鼻音終声(「ン」に似た音)で発音されるのである。


 3.激音化 

 激音化はどれも ㅎ がらみの発音変化であるが、これには2つの種類がある。1つは、終声の ㅎ にからんだ激音化、もう1つは初声の ㅎ にからんだ激音化である。
 (1)まず、終声 ㅎ に関連する激音化であるが、これは以下のようなものである。

 早い話が、終声 ㅎ は直後の音を激音に変える「激音符号」であると考えればよい。したがって、直後に平音 ㄱ,ㄷ,ㅂ,ㅈ が来れば、それぞれ激音 ㅋ,ㅌ,ㅍ,ㅊ で発音する(ただし、実際の組み合わせ上、直後に ㅂ が来ることはない)。終声 ㅎ はあくまで「符号」なので、それ自体は発音しないと考える。
 ただし、ㅅ だけは激音がないので、代わりに濃音 ㅆ になる(厳密に言えば「代わりに」というわけではないのだが、方便として「代わりに」と覚えておいてもよいだろう)。
 また、直後に ㅇ が来る場合、すなわち子音がなく母音が直後に来るときは、ㅎ は無視する。子音がないので、「激音化」のしようがない。
 それ以外の音で終声 ㅎ の直後に来うるのは、ㄴ だけである。このときは終声 ㅎ が[ㄴ]で発音される。終声 ㅎ を[ㄴ]で発音するのはこの場合しかないので、そのまま暗記してしまう(1つだけ暗記するなら簡単だろう!)。

 附.子音一覧表 

 

 歯      茎

 口の奥

平音

激音

 

 

濃音

 

鼻  音

 

 

 

流  音

 

 

 

 

 

 上の表は朝鮮語の子音の一覧表である。この表はさまざまに色分けされているが、これらの色分けは全て終声に関することがらである。具体的には次のようにして見る。  それともう一点、この表を見るうえでのポイントは、縦の列に注目することである。濃音化、鼻音化、激音化といった発音変化は、すべてこの表の縦軸で行なわれる。例えば、平音 ㅂ が濃音化するときは、同じ縦軸の ㅃ に変わり、ㅂ が鼻音化するときも、やはり同じ縦軸の ㅁ に変化する。このとき、ㅂ が ㄴ に変化するといったような、異なる縦軸への変化は原則として起こらない。だから、この子音一覧表がまるまる頭の中に入っていれば、朝鮮語の発音変化はマスターしたも同然である。

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