四柱推命の部屋


 「朝鮮語研究室」になぜ「四柱推命の部屋」があるのかと言われる方もいらっしゃるだろうが、朝鮮と四柱推命は実は切っても切れない関係にある。例えば、何か運の悪いことが身に起こったりすると、韓国人は「パルチャがよくない」という。「パルチャ」とは漢字語で、「八字」と書く。この「八字」とは「四柱八字」の略であるが、これこそが四柱推命と関わり深い単語なのである。

目次
1. 四柱推命の歴史
2. 四柱推命とはどんな占いか
3. 朝鮮と四柱推命のおかしな関係
4. 韓国で四柱推命を占ってもらう


 1. 四柱推命の歴史 

 四柱推命は算命術・命理学などとも呼ばれ、陰陽五行説に基づく占いである。いや、実は「占いである」と断言するのは、若干の語弊があるかもしれない。というのは、陰陽説・五行説とも中国哲学の中心的存在であり、歴代の中国の哲人はみな陰陽五行説に深い造詣があったからである。いうなれば、陰陽五行を通して人の命(めい)を推察する四柱推命は、1つの「学」として永きにわたり存在しつづけていたと言うこともできよう。
 陰陽説は四書五経の1つである『易経』に代表されるように、森羅万象は陰と陽の2つの要素から成り立つという理論であり、五行説は万物は木・火・土・金・水の5つの要素から成り立つという理論である。この2つの理論を組み合わせだものが陰陽五行説であり、それを人の命に適用したものが四柱推命である。四柱とは生まれた年・月・日・時間の4つの柱を指す。つまり、四柱推命とは「生年月日時で人の運命を推し測るもの」ということになる。
 算命術の始まりは漢代のころとされ、『白虎通義』・『論衡』などの書物にその嚆矢がみられる。『論衡』の著者である王充は算命術史上の重要人物である。戦国時代の鬼谷子(現代でも「鬼谷子算命術」というものがある)などがその先駆といわれることもあるが、これらは後世の仮託と見るのがよさそうだ。このころの算命術はまだあまり整備されておらず、生まれ日のみで占うのが主流だったらしい。これが唐の時代に入ると、西域からの新しい暦法の伝播などにより、算命術が質的に向上し、李虚中らが生年月日をもとに占う方法を確立し、現在の四柱推命の基礎を確立した。
 その後、宋の徐子平という人が唐の算命術をさらに発展・体系化させ、生年月日時をもとに生まれ日を基準とする占いを立て、これが現代に引き継がれて四柱推命になった。彼の書とされる『淵海子平』は四柱推命において代表的な古典の1つである。

 2. 四柱推命とはどんな占いか 

2.1 四柱推命の基本事項

 十干十二支というものがある。略して干支(かんし)ともいう。十干とは甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸のことであり、十二支はお馴染みの子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥のことである。これを組み合わせて時間を表すことができ、1999年は己卯に当たる。同じく月・日・時も干支で表すことができるが、生まれた年月日時を干支で表し、これをもとにその人の命を推すのが、日本でいう「四柱推命」である。韓国では単に「四柱」という。そして、生まれた年・月・日・時を十干十二支で表すと都合8文字になることから、韓国ではその人の運勢を「(四柱)八字」と呼ぶのである。
 干支はそれぞれが陰陽・五行に割り当てられている。四柱推命では生まれ日の干支を基準に、他の干支との陰陽と五行の関係を見て占う。


相生・相剋 ところで、五行は相生(そうしょう)と相剋(そうこく)という関係がある。木・火・土・金・水は木―火、火―土、土―金、金―水、水―木という隣同士の関係はよい関係とされ、木―土、火―金、土―水、金―木、水―火という1つ跳びの関係はよくない関係とされる。この関係を基本的な判断として占っていくわけである。
 例えば、1999年1月1日午後2時に生まれた人の生年月日時の干支は次のようになる。

 
 生まれ日の干(日干)は戊である。この戊を基準に他の干支との関係を見るわけである。月柱の支は陽木の甲で相剋、日柱の支は陽金の申で相生というように。干の相生相剋の関係は、陰陽の違いと併せて、以下のような特別な名前で呼ばれる。   これらは日本では「通変星」、「変通星」などと呼ばれることが多いが、韓国ではふつう「六神」という(10種類あるのになぜか「六神」という)。これを四柱八字に付け加えていく。支には隠された干(蔵干)があるとされ、その蔵干に付け加える。また、支には日干との関係から、十二運星と呼ばれるものがつく。運気の強弱を表すとされる。

 
 劫
 財
 偏
 官
 比
 肩
天干



 


 


地支
 劫
 財
 食
 神
 正
 財
 偏
 官
蔵干
 こうしてできた表は「命式(めいしき)」と呼ばれ、占いをする上での基本図となる。四柱推命ではこの外に、各柱にさまざまな吉凶を見る神殺という星をつけるがあまり信憑性がなく、「ヘボ占い師ほど神殺に頼る」などとも言われる。また、干支のくっつき具合、離れ具合で吉凶を見る合・刑・冲・破・害や、10年ごとの運を見る大運などもあるが、煩雑になるので省略する。

2.2 四柱推命の占い方

 占いは日干と生まれ月の支(月支)、そして月支の蔵干(これを元命という)を中心に鑑定される。日干が重要なのは、さまざまな星を出すのに日干を基準としたことからも分かる。月支が重要なのは、生まれ月が生まれ日と関係が深いとされるからである。このことは生まれ日が月令(月の指令)を受けるとされるからである。
 各柱は次のような意味を持っている。

 従って、年柱の星まわりがよければ幼少年期の運がよかったり、祖先や父母の徳があると判断し、星まわりが悪ければその逆と見る。
 また、通変星や十二運星も各々固有の意味を持っている。例えば、比肩は兄弟・友人など自分と近い人を表し、我が強く独立心が旺盛なことを表すといった具合である。もし年柱に比肩があれば、祖先・父母からの独立を表すということで、家業を継がないとか分家すると見る。
 しかし、四柱推命の難しいところは、そのように個々の星だけを見て通り一遍の判断をすることができないところだ。つまるところ、四柱八字の相互関係を見極めて、総合的に判断しなければならないのである。一般的に悪い星といわれるものでも、命式によってはよい方向に作用したり、逆によい星といわれるものでも、場合によっては悪く作用してしまうこともある。この難解さが、多くの占い師を四柱推命から遠ざけていると言われる。

 3. 朝鮮と四柱推命のおかしな関係 

 韓国で占いといえば、もっぱらこの四柱推命である。何しろ、「占いを見る」というのを「四柱を見る」と表現するのだから、その人気のほどを推し測ることができよう。ソウル鍾路のパゴダ公園の前に夜な夜な出現する占い師は、どれもみな「四柱ジェンイ(四柱師)」である。韓国の四柱熱がどれほどか知りたければ、とりあえず本屋に行ってみるとよい。ソウル一の本屋である教保文庫へ行くと、2コーナーほどが占いの本で埋められている。それでも飽きたらず、平積みの「四柱コーナー」まであるという有様だ。しかも表示板には「易学」というたいそうな名前がつけられている。四柱コーナーには常時十数人の人が何やら熱心に四柱の本を読んでいて、中には座り込んでいる人までいる。
 四柱から出た慣用句も少なくない。波乱万丈の人を見ては「八字が荒い」といい、性格が激しい人を見ては「駅馬殺が挟まっている」といい、放蕩息子を見ては「桃華殺がある」といい、仲のいいカップルを見ては「宮合がいい」といい、一日いいことがないと「日辰がよくない」などという。「駅馬殺」や「桃華殺」は神殺の名称であり、どちらもいい意味では用いない。「宮合」とは「命宮が合う」という意味で、命宮が合うと相性がいいとされる。また、韓国では結婚する者(ふつう男)が相手の家に「四柱単子」と呼ばれる四柱八字を書き記した短冊を送り、前もって相性を見たり人となりを推し測ったりする。だから、韓国人はこの時のために、自分の生まれた時間までしっかりと知っている。このように韓国人の生活は、四柱推命なしには語れない(?)のである。
 朱子学の祖である朱熹も陰陽五行・算命術への造詣が深く、朱子学を国教とした李氏朝鮮もその影響を強く受けている。朝鮮と四柱推命のかかわりは、民衆レベルのみならず国家レベルでも深いのである。ハングル公布の書である『訓民正音』の制字解の冒頭には、「天地の道理はひとえに陰陽五行のみである」と記されている。朝鮮と四柱推命はまさに「切っても切れない」関係といえよう。

 4. 韓国で四柱推命を占ってもらう 

 繁華街に出れば街頭に占い師が出ている。日本ならば黒っぽい服を着た易者が机を立てて座っていようが、韓国ではふつうのおじさんがテントを張って客を待っている。中には朝鮮服(パジ・チョゴリ)に立派なひげをたたえた老人が悠々と構えていることもある。通りすがりに中を覗き込むと、「おいでおいで」と手をこまねいたりする。相場は数万ウォン。高くふっかける人もいるが、そこは韓国、うまく交渉すれば値切ることもできるし、相性占いなどのオプションをつけてくれることもある。鍾路のパゴダ公園前、大学路に多い。街頭の占い師は「四柱を見る」といっても生年月日時の4つをしっかり見る人は少なく、生年月日の三柱で見る場合が多い。また、手相を同時に見る場合が多い。場所によっては「占い喫茶」がある。修行中の占い師が1万ウォンくらいの手ごろな値段で、お茶を出し占いをしてくれる店で、学生に人気がある。
 もっと本格的に占いたければ、「哲学館」と呼ばれる占いの館に行こう。見料は倍くらいになるが、街頭の占いよりはましだ。ただし、「占いの館」といっても、日本のようなお洒落な雰囲気を想像してはならない。多くは古びれた朝鮮家屋で、日本から行った人には何となくうさん臭そうに映るかもしれない。占い師とはいえ、韓国では「易学者」といって、それ相応の待遇を受ける「知識人」なので、哲学館も軽薄なノリではないのである。テレビに出たりして売れっ子の占い師の場合は予約が必要なときもある。有名なのは、新村汽車駅(地下鉄駅でない)の向かって左手、線路わきの一角に朝鮮家屋が密集しているが、そこが哲学館の街だ。大学路にも多い。
 なお、鑑定はもちろん朝鮮語で行なわれる。占い用語がバンバン出てくるので、朝鮮語上級者でも所々分からない単語が出てくるかも知れない。はじめは韓国人といっしょに行くのがお奨めである。
 四柱推命以外にも、韓国にはムーダンの占いなど、さまざまな土着の占いがある。興味のある人はチャレンジしてみよう。そういえば、私の祖母は花札で占いをしていたっけ。


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