朝鮮将棋



1. 朝鮮将棋のあらまし

朝鮮将棋の図 (1) 概要
 将棋のルーツはインドにあるといわれるが、日本に将棋があるように朝鮮にも朝鮮独自の将棋がある。朝鮮語で「cang-ki チャンギ」と呼ばれる朝鮮将棋である。駒の名称や数、盤の形などから推測して、その直接の起源は中国将棋だと思われる。

(2) 駒の数と種類
 駒は片側各16個、総計32個の駒で勝負を競う。駒の形は正8角柱である。王将に当たる駒は一方が「漢」、他方が「楚」という駒だ。ということは、朝鮮将棋は項羽と劉邦の戦いを模しているのであろうか。とまれ、朝鮮将棋なのに題材が古代中国というところが面白い。「漢・楚」以外に歩兵に当たる「兵・卒」も双方で名称が違う駒である。もちろん、名称が違うだけで働きは全く同じである。駒の種類は「漢・楚」「兵・卒」のほかに「士」「車」「象」「馬」「包」がある。「象」という駒があるのが面白い。将棋発祥の地インドを彷彿とさせてくれる。「包」は朝鮮将棋で特に動きがユニークで、ゲームに変化を与えている。なお、駒の字は漢側が赤の楷書で書かれており、楚側が青の草書で書かれている。
 将棋盤はマス目が正方形の場合もあるが、多くは横長の盤が用いられる。駒はマス目の中に置くのではなく、線の交点に置く。これは中国将棋や囲碁とも共通するもので、将棋盤や碁盤が城市をかたどり、線が城の道路を表しているためらしい。盤の中央上下に×印があるが、この部分は王宮を表している。「漢・楚」と「士」はこの王宮から出られない。王様とその取り巻きは常に王宮にいるという理屈であり、これまた中国将棋と共通している。また、「包」と「兵・卒」が最初に置かれる場所には、線の交点に小さく×印がつけられている。
 駒の並べ方は図のとおりである。王宮の中央に「漢・楚」を配置し、その斜め下に「士」を配置する。「士」から外側に向かって「馬」「象」「車」を配置するのだが、「馬」と「象」の位置は入れ替えてもよい。図では「馬・象 ― 馬・象」となっているが、「馬・象 ― 象・馬」でもいいし「象・馬 ― 馬・象」でもいい。昔のルールでは「馬・象 ― 馬・象」「象・馬 ― 象・馬」のみが認められ、なおかつ同じ筋に相手方の同種の駒を置かないようにしていたとのことである(亡父の談)。つまり、こちらが「馬・象 ― 馬・象」と置いたら相手方は(こちらから見て)「象・馬 ― 象・馬」と置かねばならなかった。

(3) 勝負の流れ
 勝負は上級者あるいは目上が漢側となり、楚側が先手となって行なわれる。取った駒は再び使うことはできない。このルールは中国将棋やチェスと同じである。また敵陣に入っても「成り」はなく、まったく同じ動きをする。漢・楚を詰めれば勝ちとなるが、双方の駒が少なくなり手詰まりとなるときは引き分けとなる。
 王手をするときは「チャン(cang)」あるいは「チャングン(cang-kwun)」と叫ぶ。漢字で書くと「将」「将軍」である。必ず叫ばなければならないわけではないが、叫んだほうが場の興が盛り上がること請け合いである。

(4) 中国将棋との比較
中国将棋の図  中国将棋(象棋)は朝鮮将棋と非常によく似ている。駒の数や名称、配置までもが中国将棋と朝鮮将棋はそっくりである。中国将棋の王将は赤側が「帥」、青側が「将」である。「士」「象」は帥側が「仕」「相」という名前になっており、朝鮮将棋の「包」に当たる駒は将側が「砲」、帥側が「炮」である。「包」はもともと投石器を模したものであろうから、中国将棋の名称のほうが的確ではある。
 中国将棋は両陣の間に「河界」と呼ばれる境界がある。「楚河漢界」とも呼ばれるところを見ると、中国将棋も朝鮮将棋と同様に「漢」と「楚」の戦いのようである。中国将棋では「象・相」は河界を越えて敵陣に踏み入ることができない。象が本当に川を渡ることができないわけではあるまいが、まあユニークなルールではある。
 駒の並べ方のうち、「馬」と「象」の位置は、中国将棋では「馬・象 ― 象・馬」と配置しなければならないことになっている。また、取った駒が使えないこと、「成り」がないことも朝鮮将棋と共通しているが、「兵・卒」は河界を越えて敵陣に入ると動きが変わるのが、言ってみれば「成り」であろうか。個々の駒の動きは朝鮮将棋とは似て非なるもので、両者は意外と異なった動きをする。

2. 駒の名称と動かし方

(1) 漢(han ハン)・楚(cho チョ)および士(sa サ)
 漢と楚は合わせて「宮(kwung クン)」ということもある。漢・楚および士は王宮の中を線に沿って1つだけ進むことができる。線が斜めに延びている場合は斜め方向にも進める。よって、王宮の中央にいる場合は8方向いずれにも1つ進めることになる。逆に線が斜めに延びていない場合は斜め方向に進むことはできない。漢・楚・士はあくまで王宮の中だけを進むので、決して王宮の外に出ることはできない。
漢・楚・士
車 馬 象 (2) 車(cha チャ)
 車は日本将棋の飛車と同じく、前後左右にどこまでも進むことができる。ただし、王宮内にいる場合、斜め方向に線が延びていれば、王宮内を斜め方向に進むことができる。このルールは中国将棋にもない、朝鮮将棋独自のルールである。

(3) 馬(ma マ)
 北では「マ(mal)」とも言う。いわゆる八方桂馬飛びで、「日の字に進む」という言い方で表現する。進み方は1つ直進して1つ斜めに進むので、その途中に他の駒があるときはその方向に進むことができない。この点、日本将棋の桂馬が間に駒があっても飛び越えて行けるのとは異なる。

(4) 象(sang サン)
 1つ直進して2つ斜めに進む特異な進み方をし、「用の字に進む」と表現される駒である。いうなれば、馬の斜め方向の進路をさらに1つ先に進むことになる。馬と同じく、進路の途中に他の駒があるときはその方向に進むことができない。
 なお、中国将棋の象は斜め方向に2つ進み、なおかつ河界を越えて相手陣地に侵入することができないが、朝鮮将棋は河界がないので象はどこへでも進むことができる。

包 兵・卒 (5) 包(pho ポ)
 最も特異な動き方をする駒である。まず進む方向だが、これは車と同じく前後左右の方向にどこまでも進め、かつ王宮内にいる場合、線が斜めに延びていれば王宮内のその方向へ進める。ただし、そのまま進むことのできない点が車と異なる。この駒は、進行方向に駒があるときにのみ、その駒を飛び越えてどこまでも進むことができるのである。この駒のことを「包の脚」と呼ぶ。飛び越える駒、すなわち「包の脚」は味方のものでも敵のものでも構わないが、とにかく駒を飛び越えなければ進むことができないのである。飛び越える駒は必ず1つで、2つ以上の駒を飛び越えて進むことはできない。さらに包は、味方の包であれ敵方の包であれ、包を飛び越えることができず、また包で敵方の包を取ることもできない。

(6) 兵(pyeng ピョン)・卒(col チョ)
 線に従って前と左右に1つずつ進むことができる。敵陣の王宮にいる場合、線が斜め方向に延びていれば、その方向にも1つ進むことができる。


3. その他のルール

 ピチャン(pik-cang)と呼ばれるルールがある。これは中国将棋の「対面笑」に当たるルールで、双方の王将が他の駒を挟まずして互いに向き合うことができないというものである。ただし、中国将棋の「対面笑」は詰みと同等の指し手で、指した側の負けとなるが、朝鮮将棋のピチャンは王将が向き合った時点で次に指す側がピチャンを回避しなければ引き分けとなる。


4. 一般的な指し手

 朝鮮将棋で有用な駒は車と馬、それに包である。だからこれらの駒をたくさん取られてしまうと、敗色が濃くなってしまう。また、兵・卒は単独でいると非常に弱いため、なるべく隣同士に置くことが望ましい。
 序盤の指し手として多いのは、(1) 車の道を開ける、(2) 包を王の頭に置く、(3) 王を下げて士を王の頭に出す、などである。(1)は車の頭の兵・卒を横に進めて道を開ける。そうすれば車の道が開くと同時に兵・卒が隣り合わせになって防御にも好都合となる。(2)はまず馬を出して包の道を作り、包を王の前に持ってくる。こうすれば王宮の守りをすると同時に、いざというときに相手の王宮に包を飛び込ませることもできるわけである。(3)は王をかくまう戦術だ。(2)のように敵の包が中央に踊り出てきたとき、王が裸でいると危険なので士で防御する。
指し手1 指し手2
 攻防の際に有用な駒は車・馬・包である。この3種類の駒は敵に取られないように注意しなければならない。特に包は「脚」がなければ動けないので、常に「脚」を配備するようこころがけることが大切だ。象は動きがダイナミックな割には小回りが効かず、思ったより役に立たない。敵陣突入のための捨て駒としてよく使われる。兵・卒は単独でいると非常に無力なので、序盤のうちに隣同士に寄せておくのが得策かもしれない。


5. 簡単な詰将棋
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