要旨

「比較表現『AはBより~』再考―参照点(reference point)の観点から考える―」

本稿は、日本語教育の立場から、比較表現「AはBより~」について再考することを目的とする。「AはBより~」は、日本語教育では初級段階で取り上げられる文型の一つだが、同じく二者間の比較表現とされる「AのほうがBより~」などとの違いが、これまで必ずしもわかりやすい形で示されてきていない。本稿では、「AはBより~」における「B」が、「A」について述べる際の「参照点」(reference point)として機能していると考えられる点に着目し、この文型が文型たる意味を最もよく発揮できる状況・文脈について考察した。「AはBより~」は、典型的には、聞き手が十分な情報を持っていない「A」について、話し手が、よりわかりやすい、認知的に際立った「B」を参照点として持ち出し、それとの比較を手がかりとして述べるものと考えられる。さらに、この観点から、日本語教育の現場でこれを教える際の具体的な文脈設定の例を提示した。

キーワード:
比較表現、参照点(reference point)、日本語教育、初級文型、状況・文脈