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国際ワークショップ「ヨーロッパ史における中心・周縁再考」を開催

2017年02月10日掲載

2017年2月4日(土)、本学府中キャンパス海外事情研究所にて、国際ワークショップ「ヨーロッパ史における中心・周縁再考」が開催されました。このワークショップは、2014年度から3年間にわたって実施された頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム「境界地域の歴史的経験の視点から構築する新しいヨーロッパ史概念」の総括研究会にあたります。本プログラムは、欧州大学院大学(イタリア・フィレンツェ)、中央ヨーロッパ大学(ハンガリー・ブダペシュト)、国際文化センター(ポーランド・クラクフ)という3つの国際的な研究組織と東京外国語大学が、相互に研究者を派遣・招聘し、国際研究ネットワークを構築することを目的として実施されました。
 今回の国際ワークショップでは、欧州大学院大学からルーシー・ライオル教授とパヴェル・コラーシ教授、中央ヨーロッパ大学からマティアス・リードル教授、バラージュ・トレンチェーニー教授、ヤン・ヘニングス准教授を迎え、本学からはスピーカーおよびディスカッサントとして、篠原琢教授、伊東剛史准教授、小田原琳講師、巽由樹子講師、鈴木健太特別研究員が登壇し、3つのセッションを行いました。

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 第1セッション「世界史・人類におけるヨーロッパの〈中心性〉」では、まず篠原教授から、アジアや、ヨーロッパで周縁と見なされている東欧などの地域で、「ヨーロッパ」という観念がいかにアイデンティティ形成に強い影響を与えたかが論じられました。ライオル教授は近年注目を集めているグローバル・ヒストリーという新しい潮流がヨーロッパ中心主義を脱却しきれていないことを指摘し、これを克服するために、移民などの移動する人々のミクロな視点から歴史を考えることを提起しました。伊東准教授は日本の「周縁」である北海道の動物園を取り上げ、人間と動物という境界を乗り越える感情的瞬間を論じました。これに対して小田原講師からは、「ヨーロッパ」という概念がもつ自己疎外的な力や、植民地という空間における境界侵犯の可能性がコメントされました。

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 第2セッション「ヨーロッパ史における〈中心−周縁−境界〉」では、歴史叙述のなかでヨーロッパを〈中心〉から一地域化するような試みが論じられました。リードル教授は、近年ヨーロッパで流行した「ヨーロッパ=中心なき文化」という議論を取り上げ、この議論はヨーロッパが他のさまざまな文化を吸収して成立しているとみなす一方、「ヨーロッパ的」と見なされるものをきわめて単純化しているという問題があると指摘しました。トレンチェーニー教授は、国家などの制度を単位とするのではなく、ネイションより小さい、ないしはそれより大きな、メゾ地域という概念を設定することの意義を述べました。ヘニングス准教授の議論は、近世ロシアとオスマン帝国の外交を取り上げ、外交官の情報収集というミクロなレベルから、首都を中心とするような外交史の見方に異議を唱えるものでした。巽講師からは、近世的な地域間関係が〈中心−周縁〉という近代の認識枠組みを脱臼させる可能性が指摘されたほか、メゾ地域という概念設定や、単純化されたヨーロッパ観がどのような政治的影響をもつかが問われました。

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 第3セッションは「ヨーロッパ史におけるコミュニズムの過去の位置」と題され、鈴木研究員からは、旧ユーゴスラヴィア連邦の崩壊とその後の諸国家についての既存の歴史的解釈(民主主義の成功と失敗)を80年代後半の大衆運動の実態から再検討する報告が、コラーシ教授からは、コミュニズムの経験がヨーロッパ史やグローバル・ヒストリーから排除されている現状について懸念が述べられました。
 その後の全体討論では、コミュニズムの歴史が忘却される一方、「ヨーロッパ」とは何かという議論がヨーロッパにおいてこれほど中心的な役割を果たすようになったのは近年のことであるということも忘却されていることが指摘されたほか、歴史のなかの宗教の役割や、歴史研究における「接続」や「ネットワーク」の重視など、一見純粋に学問的な関心や視野にもとづく対象や手法の取捨選択に際し、その背景にある政治的なものを歴史家が意識する必要性などが論じられました。

 当日は30名以上の参加者があり、スピーカー、ディスカッサントと会場を含む真摯な、充実した議論が交わされ、今後も密接な研究協力を続けていくことが確認されました。

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