昨今のラーメンブームの中でもその最大有力候補だったのが、いわゆる「とんこつしょうゆ」といわれるスープのものである。本会総裁も一時期はそういったものを好んで食べていたが、そのジレンマというのは、豚の脂(他の肉でもそうだが)にはうまみ成分が含まれており、たっぷりとあったほうが客受けがいい、つまり「こってりしていてうまい」のである。しかし、残ったスープが冷えると、その脂分が固形化して現れるわけで、その形相にぎょっとした人もいるのではないだろうか。当然、このような「こってり」なラーメンを食べた後は、胃がもたれるし、アイスとかが食べたくなるわけだ。うまみ成分を抽出した化学調味料を使うこともできるが、それでは面白くない。そんなわけで次第に本会総裁は、魚介類をベースとした醤油ラーメンに興味を移すようになった。コクと香りと透明感。この三つが私の中でラーメンを語る際に重要な項目となっていたが、これらを満たすのは、「喜多方」と呼ばれる醤油ラーメンなど、一部のものにとどまっていた。
そんななか、友人に連れられて来たこの店は、当初はまったく予想していなかったが(失礼)、そこで食べたラーメンは、それまでの価値観を一転させるようなものであったのだ。そう、それを例えるなら投打を兼ね備えた阪神のムーアのようなラーメンだった。(言うまでもなく、本会総裁は阪神ファンである。) このラーメンは、分類上は先に述べた「とんこつしょうゆ」なのだが、普通の大味なものとは一線を画していて、とんこつのうまみがぎゅっと閉じ込められていながら、それでいて胃にもたれるようなギトギトさがない。いわば、「こってり」であることの個性を強調し、苦手分野を極力まで抑えたような感がある。本会総裁は看板メニューの「赤煙突ラーメン」を食べたが、「黒煉瓦ラーメン」も独創的かつ個性的な、おいしいラーメンであることは想像に難くない。
さらにトッピングで、「煮たまご」と「チャーシュー」を頼んだが、これも名脇役といった感じでよかった。とある先輩の持論で、「店主が太っているラーメン屋はチャーシューがうまい」というものがあったが、ここの店は反例の筆頭例だろう。先輩は「チャーシューの研究を重ねていれば自然と太ってくるもんだ」と言いたかったのかも知れない。(厳密に言えば反例ではないのだが。)さて、ラーメン屋のチャーシューに対する持論というのは、以下のようなものだ。すなわち、「チャーシューを食べればその店のやる気がわかる」である。「赤煙突」のチャーシューは、一口食べた瞬間にある種の衝撃のようなものに襲われた。一言でいうならば、「ジューシー」。さんまに塩を振って炭火で焼いたような、そんな至高の秋の味覚を思い起こさせるかのような、豚肉の味覚の凝縮感だった。一口食べて「こやつできるな」と思ってしまった。