◆ スペイン史史料紹介 ◆

 

※スペインの中等教育で副教材として用いられている歴史資料集(José Hernández, Flora Ayuso, & Marina Requero, Bachillerato 2.º Historia de España:

Fuentes documentales, Madrid: Akal, 2003)より、いくつかを紹介していきます。(各タイトルに付したページ番号は前掲書のもの)

 

アル・マンスールによるサンティアゴ遠征(La campaña de al-Mansur contra Santiago, p. 19

 アル・マンスールはその時代、最大の権力を握った。キリスト教諸王との戦いにおいてアッラーの守護を得て、ガリシアの町サンティアゴへと行進した。

サンティアゴは、スペインと大陸の近隣地域の最も重要なキリスト教の聖地である。サンティアゴ教会は、我々のカーバのようなものである(中略)

 アル・マンスールはその町に夏の遠征を向け、387ChumadaⅡの23日の土曜日(99773)にコルドバを出発した。それは48番目の遠征であっ

(中略)

 (様々な波乱の後、イスラム教徒たちは)Xaban2(810)サンティアゴの誇り高い町を前にして野営をしていた。全住民は町を去っており、イ

スラム教徒たちはそこにある全ての富を自分たちの物とした。そして、建物、防壁、教会を破壊したので、それらは跡形もなくなった。しかしながら、聖

人の墓を守る為にアル・マンスールによって配置された衛兵たちは、その墓がいかなる被害も受けないように防いだ。しかし、頑丈に建てられた町にそびえ

立つ全ての美しい城館は粉々になり、前日にそれらが存在したと破壊後には思えなかった。破壊はXaban2日の水曜に続く二日間に行われた。軍隊は続

けて近隣地域を征服し、大海へ向かうサン・マンカス半島まで到達した。そこは、その時までいかなるイスラム教徒も到達したことがなく、そこの住民の

足によってでしか踏み入れられていなかった先端地点であった(中略)

 サンティアゴにおいて、アル・マンスールは聖人の墓の所に座っている一人の年老いた修道士にしか出会わなかった。彼は修道士にこう尋ねた。「なぜあ

なたはここにいるのですか?」「聖ヤコブを敬うためです。」と修道士は答えた。そして、勝者は彼をそっとしておくように命じた。

 

◆サンティアゴ騎士団に与えられた特権(特許状)(1181Un privilegio otorgado a la Orden de Santiago (1181), p. 29

キリストの十字架の敵の傲慢な行いを抑制し、イスパニアにおいてキリストの名の栄光を広める為に特別に創設されたサンティアゴ騎士団が私の王国に起

源を持つこと、本騎士団の団長ペドロ・フェルナンデスとあなたの同志たちが、未だに総会の本拠地となる場所や集まったり最も厳粛な全体集会を開催する

ことの出来る本部を持たないこと、そして私の王国に今述べた本部を設立することをあなた方が固く約束したことを考慮した理由から、私フェルナンド王

2世)は息子アルフォンソ王と共に、王国内において、騎士団の総会の本拠地とし、騎士団長ペドロ・フェルナンデスとその同志たちと同様に相続者たち

が永遠に所有することの出来る本部の為に、バルドゥエルナとビジャファフィラの土地の寄贈文書を作成する。我々の王国に総会の本拠地、要するに、騎士

団の本部を創設するという目的を持ってこれを行う。この理由によって、世襲の権利と王国の特権と共にあなた方に寄贈する。よって、バルドゥエルナにお

いては、皇帝である私の父が死んだ際にサンチャ王女が所有していた全てのもの、そして私フェルナンド王が前記の谷において継承した全てのものを所有す

ることが出来る。そして、ビジャファフィラにおいても、私の父が死んだ時にそうであったように今日も未だに王室財産に属している全てのものを、その土

地の全ての人間、農場、家、牧草地、牧場、川、山、泉、耕作された土地、されてない土地、そして、あなたとその相続者が見つけた最近のもののみではな

く古いものも含む、範囲内における他の全ての財産や所有物と共に所有することが出来る。

そして、全ての義務と国王税を免除されたこれら全ての世襲財産をあなた方に与える。よって、あなた方はそれらを所有し、売却し、変えることが出来、

また、自由に所有している他の土地と同様に、それらを前記の本部の為に、あなた方にとって最良の形で利用することが出来る。そして今後、王室代官、法

の執行吏、王室または外部のその他の人間など、いかなる人間も、これらの所有地に暴力をもって侵入したり、何らかを略奪したり、譲渡したりしてはなら

ない、ということに留意して本寄贈を行う。

 この文書は、レオン、ガリシア、アストゥリアス、エストレマドゥラ(中略)の王フェルナンドの治世である1219(西暦1181)54日、サラマンカに

おいて作成された。

 

1481年セビーリャにおける異端判決式(Auto de fe en Sevilla en 1481, p. 40)

 それから数日で、都市の中心人物であり最も裕福な者であった三名が火刑に処された。一人はディエゴ・デ・スサンであり、彼の財産は一千万マラベディ

相当であったと言われており、偉大なラビであったが、キリスト教徒として死んだようである。残りの二人はマヌエル・サウリ、そしてバルトロメ・デ・ト

ラルバであった。また、彼らの中で最も中心的な人物の一人であり、多くの人々を武装させるだけの武器を家に持っていた、教会の官財役であり教会の参事

会長であったペドロ・フェルナンデス・ベナデバ、そして長い間司法判事であり大卒官僚であったフアン・フェルナンド・アルボラシア、そしてその他大勢

の非常に重要で非常に裕福な者たちが捕えられた。彼らもまた火刑となり、決して恩恵も財産も火刑には役に立たなかった。こういうわけで、コンベルソ(

告解した人々)は皆、非常に脅え、怖がった。そして都市や大司教区から逃げた。セビーリャでは、逃げれば死罪、という刑が科され、都市の入口には番人

が置かれた。沢山の者が捕えられ、彼らのいる場所はなくなった。そして多くは領主の土地やポルトガル、モーロ人の土地へ逃げた。

 

皇帝とルター(El emperador y Lutero, p. 48

 私は、私の指導者たちが今日までに築き上げたものすべてを、守り抜く用意があり、そのように決意している。たった一人の修道士の意見がキリスト教

界全体の意見と対立するとき、過ちに陥っているのは、かの修道士の方のはずだということは当然である。修道士の意見によれば、キリスト教界全体が数百

年にわたって過ちに陥っており、いまなお過ち続けている、ということになる。この問題に決着をつけるために、私は、私の支配地、私の身体と血、私の命

と救いに賭けて、件の伝統を守ることを決意した。もし私たちの時代と世代において、異端だけでなく、異端の疑いや私たちのキリスト教の衰退さえ、私た

ちの無為無策のせいで起こるようなことがあれば、私も、また格別な特権と特別に卓越せる地位によって、カトリック信仰の防御者、守護者たるべく指名さ

れた、高貴にして忠実なるドイツ国民たるあなたもともに、神の不興を被ることであろう。そして同じく、私たちと私たちの子孫は、永遠の恥辱を被るはず

である。

 私たちすべての面前で昨日ルターが行った恥ずべき返答を受けた後、私はいま、このルターとその誤った教えに対する訴訟の遅延に助力したのを悔いてい

ることを表明するものである。私たちは、もはやこれ以上、どのような事態になっても、彼に耳を傾けることはないと決意した。彼は直ちに地元に護送され

ることとする。彼は金輪際、その毒々しい教えでもって民衆に対して説教したり、惑わしたり、また民衆をして叛乱に駆り立てたりすることを許されない。

 

◆サアベドラ・イ・ファハルドによる、危機の原因(Las causas de la crisis, según Saavedra y Fajardo, p. 57

 人々が収入以上のものを約束したので、華美や国王の華美は増大し、給金、俸給をあてにして、王国のそのほかの支出を増加させた。それらは、悪しく管

理され、保たれたものであり、多くの消費にとって十分ではなかった。また、それらは借金、為替、高利によるものだった。必要性を増し、費用のかかる地

方税を強いた。最も打撃的だったのは、貨幣の変質である。フェリペ三世は5ベリョン貨幣の価値を二倍にした。(...)私たちスペイン人は、外国が価値のな

い素材への刻印を与えたものに目をつけたのである。そしてそれで商業を行い、銅をスペインの沿岸へ持っていき、銀や金、その他の商品を引き出した。

 世界の最も遠く離れた部分からスペインへと、莫大な尽力を費やし、危険を犯すことによって、ダイアモンド、真珠、香料、その他多くの富を持ってき

た。それ以上先に進むことなく、私たちは労働以外の利益を得ている。これらをヨーロッパ、アフリカ、アジアの地域へと運ぶことで、ジェノヴァ人へ銀や

金を引き渡し、私たちは取引の代金を支払った。スペインから、絹、羊毛、鋼鉄、鉄やその他多くの素材が出ていき、異なった形に細工を施して戻ってきた。

同じものを運送料と加工料による高価な値段で買い、したがって、他の国民たちの才知の部分を負担しているのだ。なのでわが国民は同じことをしないため、

多くの必要性に苦しんだからである。(...)そしてこの国では畑を開拓したり、手工業の技術の訓練、商業や商いなどに励もうとしなかった。

 

◆諸王国の統一にかんするオリバーレス伯侯の進言(El Gran Memorial del conde-duque de 1625: la unidad de los reinos, p. 61)

 国王陛下。あなた様の王国のもっとも重要な案件は、あなた様がスペイン国王となられることです。すなわち、陛下、あなた様がポルトガル、アラゴン、

バレンシアの国王、バルセローナ伯爵であることに満足されず、スペインを構成するこれらの王国をカスティーリャの形式と法にのっとって治められるよう

に、(私の)熟慮を重ねた内密の進言を受けつつお考えになり、お働きになることです。国境、つまり異なる税制によって分かたれている全ての地にいかなる

差異もないように、カスティーリャでもアラゴンでもポルトガルでも、陛下のお望みのところで議会を開催できるようにし、そして諸地方出身の大臣を各所へ

と区別なく招き入れることができるようにするのでございます。また、上記の諸地方の参事会員、陪審員団、議員団、諮問会議といったものの権威と権限を要

する体質において、それらが統治に有害であったり王の権威の目障りである場合、そのすべてに適した手段がありえるのでございます。陛下、もし本案件をお

成し遂げになられた暁には、あなた様は世界でもっとも強大なる君主へとおなりになることでしょう(後略)。

 陛下、あなた様にその機会を提供しうる道は、3つございます(後略)。

 第一の、そしてもっとも達成が困難ではございますが、最善のものとなりうる道といたしましては、陛下、それはカスティーリャに組み込まんとするかの諸

王国の諸侯へと恩顧をお与えになり、カスティーリャの者たちとかれこれの諸王国の者たちとの間に婚姻を結ばせることでございます。そして、この婚姻を以

て彼等がほとんどこの地の者となるように、利益を供しつつも甘言によって彼等に便宜を図ることでございます。というのは、カスティーリャの官職および顕

職へと彼等を受け入れることによって、かの諸王国が持つ諸特権への彼等の思いは忘れ去られるのでございます。そして彼等がこの王国の諸特権を同じように

享受しはじめることによって、この非常に有益にして必要な合従が穏便に整えられるでございましょう。

 第二の道は、陛下が大艦隊と閑中の者どもとをお従えになる際には、これらの行使が穏便になされるようご配慮なさることでございます。多大なる武力をも

たらしめる権力を陛下のご知性とご尽力を以てご自身のものとしながらも、軍隊と権力に関することは偶然の仕業として、ご自身とのご関係は可能な限りお包

み隠しになるのです。

 第三の道は、それはあまり正当なる方法を以てではございませんが最も効果的な道でございましょう。すなわち、私が申し上げたこの武力を手にした陛下ご

自身が、その威力をもたらしめるべき王国へと赴き、何か大規模な民衆暴動が起こるようお仕向けになり、このことを口実に人々に介入するのでございます。

そしてさらには、常なる平穏と今後の予防を口実に、新たなる征服として、その地の諸法をカスティーリャの諸法へと合致するようお取り決めになりお定めに

なるのでございます。そしてこれと同様の手段で、他の諸王国においてもそれをお成し遂げになるべく、お足をお運びになることでございます。

 

1812年憲法(抄)(Algunos artículos de la Constitución de 1812, p. 80

第1条 スペイン国民共同体とは両半球のスペイン国民の集合体である。

第2条 スペイン国民共同体は自由で独立し、いかなる家門もしくは個人の家産ではなく、またそうあってはならない。

 第3条 主権はその本質において国民に存する。ゆえに、基本法の制定権はただ国民のみが有する。

第4条 国民共同体は賢明かつ公正な諸法により、それを構成する全ての個人の、市民としての自由、所有権、その他の正統な諸権利を保持し、保守する

義務を負う。

 第6条 祖国愛とは全てのスペイン国民にとって最も重要な義務の1つである。公正であり公益に供することもまた然りである。

12条 スペイン国民共同体の宗教は、使徒伝承にしてローマの、唯一の真実たるカトリックであり、未来永劫そうあり続ける。国民共同体はそれを賢明

かつ公正な諸法で守り、その他のいかなる祭祀も禁ずる。

 第14条 スペイン国民共同体の政体は、適切に世襲された王政とする。

 第15条 立法権は国王とともに議会に存する。

 第16条 執行権は国王に存する。

 第17条 民事および刑事の訴訟における司法権は、法が置く裁判所に存する。

 第27条 議会は国民共同体の代表たる全議員から成り、彼等は別途述べる形式に則って市民により任命される。

 第168条 国王は神聖にして不可侵の存在であり、(政治において)不問責とする。

 第172条 以下の事項において、国王の権限は制限される。

第1項 国王はいかなる理由をもってしても、憲法の示す期間と場合における議会の開催を妨害、中断もしくは解散させることができない[後略]。

  第2項 国王は議会の同意なくして王国を不在にすることはできない[後略]。

  第3項 国王は自らの権限およびその他の諸特権の放棄、もしくは何らかの方法による譲渡をおこなうことはできない[後略]。

  第5項 国王は議会の同意なくして、いかなる他国とも軍事的同盟および特別の通商条約を締結することはできない。

  第7項 国王は議会の同意なくして国民の財産を譲渡することはできない。

  第8項 国王はその直接性、間接性を問わず、恣意によって税を課すことはできない[後略]。

  第11項 国王は何人からその自由を奪うことも、恣意によって懲罰を課すこともできない[後略]。

12項 国王は、婚姻を結ぶにあたり、その承認を得るべく議会への報告を事前におこなわなければならない。

これを欠いた場合、退位するものとみなされる。

225条 全ての王命には当該部門の大臣による署名を要する。この要件を欠いた王命の遂行は、裁判所であろうとも公人であろうともそれをおこなう

ことはできない。

226条 憲法もしくは諸法に反して王命を認可した大臣は、国王がそう命じたという弁解の余地無く、議会に対しその責任を負うものとする。

 

領主制廃止令(1811年)(Decreto de abolición de los señoríos (1811), p. 81

 よき政府をつくり、人口を増加させ、スペイン王国を繁栄させることの妨げとなりかねない弊害を解消することを願い、当議会は以下のように布告する。

一、今日より、裁判領主所領はすべて、いかなる類のものであれ、国民に帰属するものとする。

二、すべての司法官、およびその他の公職者の任命は、王領地の村落において行われているのと同じ方法で実施される。

四、領民としての臣従をあらわす肩書きは廃止される。また、物納による貢租であれ、人的な貢租[賦役]であれ、領主裁判権にもとづく貢租は廃止される。

ただし、不可侵の所有権にもとづき、自由意思による契約で定められたものは除外する。

五、土地領主所領は今日より、個人の所有権にもとづくものとされ、その性質から国民に帰属すべきものではなければ、あるいは合意された諸条件を満た

していないということがなければ、[補償をうける]取得資格となるであろう。

六、同様に、土地の利用、借地、センソ契約などのために、いわゆる領主―領民間で交わされた契約や取り決めは、今日より、個人間での契約と解される

こととなろう。

七、おなじく領主所領に起源をもつ、狩猟、漁労、かまど、粉ひき場、および水利、森林、その他の利用にかかわる、独占権とよばれるもろもろの特権は

廃止される。これらは、[王国]共通法にもとづき、また各村落で定める自治体規約にもとづき、村落の自由な使用に供される。

十四、今後、領民を治める領主を称すること、領主裁判権を行使すること、領主役人を任命すること、あるいは本法令において言及した特権や権利を行使

することは、何人たりとも許されない。これらのことを行った者は、上記の諸事例にかかわる補償をうける権利を喪失する。

摂政会議は上記内容を承認し、その実行と、本法令の印刷、出版、普及に必要な措置を講ずる。カディスにて公布。181186日。

 

◆宗教問題についての憲法制定議会におけるアサーニャの演説(1931

Discurso de Azaña en las Cortes Constituyentes sobre la cuestión religiosa (1931), p. 118

 政治的革命、すなわち王朝の追放と公的な自由の復活は、非常に重要な課題となっている。誰がそれを疑おうか。だが、それは、スペインの国家と社会を

根こそぎ変えなければならないとする他の問題を提案し、言明するにすぎなかった。私の限られた理解力からしても、こうした問題は、とりわけ3つである。

地方自治の問題、所有権の改革という最も緊急性を要する社会問題、さらに、いわゆる宗教問題である。宗教問題は、実際のところ、不可避で厳しいあらゆ

る結果を伴う国家の世俗化の導入である。共和国は、これらの問題のうち何一つとして作り上げられていない。

 議員諸君、こうした問題各々は、公的な意識のなかで、避けられず、しかも消すことのできない前提を持っている。ここに来て、議会という組織のなかで扱

われる場合に、政治問題となるのだ。私は、先に挙げた2つの問題については(ここでは)述べない。宗教問題と呼ばれる問題について述べる。この問題の前

提は、いまや政治問題であり、私はこのように表明する。すなわち、スペインは、カトリックではなくなった。それに伴う政治問題は、スペイン国民が新しく

歴史的なこうした局面に適応するような国家を組織することである。

 議員諸君、私はそれを宗教問題と呼ぶことを認めることはできない。真の宗教問題とは、個人の良心という範囲を超えることはない。なぜならば、(真の宗教

問題は)われわれの運命の神秘についての問いが作られ、答えられる場である、個人の良心の中にあるからだ。