◇◆ 卒業論文を書くために  @これから始める ◆◇

 

学部34年生向けの立石先生のゼミで(ほぼ)お話しされる内容です。

これから卒論を約1年かけて書いていくにあたって、何をどのように進めていったらよいのか、どのような点に注意したらよいのか、等々、

いくつかのステップに分けて解説していきます。

卒論を実際に書き始めるまでの準備作業の流れを、大まかに頭に入れていきましょう。

 

【1】テーマ設定

「卒論を書く」ことは、まずテーマを決めるところから始まります。漠然とでもよいので、自分はどの時代に関心があるのか、どのような出来事・人物等に関心があるのか、などなど、自分の関心のありかをはっきりさせることから始めるとよいと思います。そのための手がかりとして、たとえば次の2点。

1. 概説書を通読する

基本的な知識を得るという大事な意味のあるステップです。興味を持った点をとにかく拾い上げてみてください。

『新版世界各国史』(山川出版社)

『世界歴史大系』(山川出版社)(イギリス史、フランス史、アメリカ史、ドイツ史、ロシア史) etc.

2. シリーズものを読んでみる

最近の問題関心を知るために。例えばこんなものがあります。

『岩波講座世界歴史』(岩波書店)

『シリーズ・世界史への問い』(岩波書店)

『講座世界史』(東京大学出版会) etc.

 

【2】文献リストの作成

テーマがぼんやりとでも決まったら、それに関係する文献(本や論文)をリストアップします。そのテーマについて勉強するために、読むべき本を自分で探していきます。

読むか読まないかは別にして、とりあえず、テーマに関係ありそうなものをできるだけたくさんあげてみることがまずは大切です。

では、どのようにすれば文献を探せるのか。次の4つの方法が考えられます。

1.研究案内書でさがす

望田幸男ほか編『西洋近代史研究入門』(名古屋大学出版会)

佐藤彰一ほか編『西洋中世史研究入門』(名古屋大学出版会) etc.

この二つがメジャーです。国別・テーマ別に編集してあります。日本語で読める主要研究が網羅されていて、大変便利です。

大学図書館等にも入っていますが、新しい研究が追加されている新版のほうを見るようにしたほうがよいでしょう。

 

2.雑誌でさがす

日本語の歴史学の主な雑誌… 『史学雑誌』 『歴史学研究』 『西洋史学』 『歴史評論』 etc.

外国語の雑誌も… 英語のものなら、Past & Present  English Historical Review  American Historical Review etc.

なかでも、『史学雑誌』の毎年5月号は、「回顧と展望」という特集号です。その前年に発表された本や論文が全て載っています。

自分のテーマに関係する文献を探して、遡って10年分くらい見てみるとよいでしょう。

ここのところどのような研究がなされているのか、どのような問題関心で研究されているのか、などがわかります。

巻末の史学文献目録も要チェックです。毎年1, 5, 9が、西洋史特集です。

 

3. ネットでさがす @OPAC

      図書館の所蔵図書を、オンラインで検索できます(こういうシステムのことをOPACといいます)。

OPACは、借りたい本があらかじめわかっているときに使えるだけではありません。

自分の卒論のテーマに関連する本にはどのようなものがあるか、探してみたいというときにも使えます。

テーマのキーワードをいくつか考えてみて、それを「キーワード検索」(書名にその言葉が含まれているものが検索できる)にかけてみるとか、

「件名検索」(内容的に関連のあるものが検索できる)にかけてみるとか、さまざまな方法があります。

まずは、外語大附属図書館のOPACからあたってみましょう

詳しい検索方法については、「利用の手引き」をよく読んでください。

 

◇ほかの大学の図書館も、それぞれのホームページでOPACを公開しています。けれども、ひとつひとつの大学図書館のOPACをあたるのは大変です。

そこで、全国の大学図書館等の所蔵図書・所蔵雑誌をいちどに検索することのできる、このサイトを利用します。

NACSIS Webcat

Webcatにも「利用の手引き」がありますので、はじめて使うときにはここを読むとよいでしょう。効率的な検索方法がわかります。

経験上、「フリーワード」検索を使うと、ヒット数が一番多くなるように思われます。

 

◇ほかにも、ネットで文献検索のできるサイトはたくさんあります。

OPACだけでなく、ネット書店のページも文献検索に使うことができます。「リンク集」にまとめました。

 

4. ネットでさがす A雑誌論文の検索

OPACでは、本は検索できますが、雑誌や論集に載った論文までは検索できません。

日本語の論文なら、NACSIS-ELS で、キーワードや著者名から検索できます。

英語の雑誌論文が検索できるサイトもあります。

ProQuest (一部の論文ダウンロード可能)

JSTOR (全論文ダウンロード可能) など

 

※ ネットでさがす…注意点

OPACにせよ、そのほかの文献検索サイトにせよ、ネットを使うと労少なくして膨大なデータを収集できるというメリットがあります。

ただしこれにはデメリットもあります。

数だけはたくさん集めることができますが、そのぶん、卒論のテーマとは無関係なものをたくさんつかまされてしまうリスクもあるのです。

いろいろな検索方法を試してみるとか、当たりの多くなりそうなキーワードを考え出すとかして、自分の必要な文献がうまくでてくるよう工夫してみてください。

 

5. 先行研究の参考文献からさがす

上記1〜4の方法を試してみると、自分の卒論のテーマにある程度近い仕事をしていそうな研究者がわかってくると思います。

(この人(たち)の研究のことを、自分のテーマの「先行研究」といいます。)

そうしたら、先行研究をできるだけ読んでみます。まずは自分がいちばん楽に読める言語のものから読むほうが、作業が早くはかどるのでよいでしょう。

とくに、最近発表された先行研究では、かならず最新の研究成果が踏まえられているはずです。

 

先行研究ではどのような文献が参照されているか、論文なら脚注を、本なら巻末の参考文献表をチェックします。

自分のテーマに近い人の仕事に役立っている文献である以上、自分にとっても役立つ可能性が高いと見込めます。

こうして、先行研究の参考文献を読んでみて、さらにその文献の参考文献を読んでみる… というふうに、

芋づる式に次々文献を辿っていくと、自分のテーマにまったく無関係なものにあたる可能性が低いので、比較的精度が高い文献検索法だと言えます。

 

6.文献リスト作成上の注意点

@チェックした文献は、まめにメモしておくこと(メモすべき必須事項は、「卒業論文を書くために B最後の仕上げ」参照のこと)。

A文献のメモは、紙にでもパソコンの上にでも、自分の使いよいようにとっておいてください。

文献リスト作成用のソフトはありますが、フランス語・スペイン語特有の文字を使うと、文字化けしてしまうようです。WordExcelなどでもじゅうぶん代用可能。

 

【3】リサーチ

1. 文献の入手

 文献検索をしてリストアップした本や論文が図書館にない場合…

(ア)    相互貸借(大学図書館同士で本を貸し借りする。郵送料実費)

(イ)     文献複写(大学図書館を通じて、論文や本の一部などのコピーを依頼できる。郵送料+コピー代:相手方の図書館により異なる)

(ウ)    紹介状(自分で直接よその大学図書館などに赴いて、本を見るなりコピーするなりするために、図書館に紹介状を書いてもらう)

(エ)    国内にない場合…取り寄せ

2.ノートの取り方(自分に合った方法を見つけてください!)

どこに何が書いてあるかを記したり、全体の要旨を書いておいたり、後々引用することを見越して原文を書き写しておいたりするときに‥

@ノートやルーズリーフ Aカード Bパソコン C本に直接書き込み

※@〜Bいずれの方法でも、後で見返せるように、出典(著者名、文献のタイトル、ページ)を必ず記しておくこと。

※こうしたノートとは別に、研究の進行状況を記す雑記帳をつけるのがオススメ。いつ相互貸借の申し込みをしたか、などの事務的な確認に役立つ+疑問点・考えたこと・判ったことなど、何でも記しておけば、のちのち何かと役立つ+自分のあゆみが記したものがあると、執筆中に行き詰まったとき、なぜか精神的な支えになってくれる。

※なお、元の文を言い換えせずにそのまま引用するときは、必ず「 」に入れること。

 

6.   読む際の心掛け

註に注目(【2】4. 参照のこと)❶読む順番は、一般書→専門書、単行本→論文、日本語→外国語 がお勧め。B自分のテーマに関係する日本語(or自分がいちばん楽に読める言語)の文献には、全て目を通すことを目標にしましょう。

そうすることで、そのテーマに関する研究史を把握できるようになります。外国語文献は、さしあたり主要なものから読むようにします。

 

          

         「わからない」が大事:その文献を読んで何がわからなかったか、その文献のどこに問題点があるのか見つけるように。批判的に読むコト。※論文とは、今まで誰も明らかにしてこなかったことを発表するためのもの。卒業論文とて同じ。先行研究の問題点を見つけだすことは、自分が明らかにしたい疑問点(未だ解明されていない<わたしの問い>)の照準を、はっきりさせることにつながる。

         著者の立場に注意:その文献が学界の中で占めている位置を掴む。著者はどのような反対意見を想定しているか?その著者の立場を私達はどう批判できるか?などと考えてみること。手がかりは、多くの場合「はじめに」や「あとがき」にある。

         <わたしの問い>をいつも頭の片隅に:文献を読み進めるほどに、テーマそのものや<問い>は徐々に変わってくるもの。自分の抱く疑問点が変われば、その文献から見えてくることも変わってくる。重要な文献は、しばらく時をおいてから見直してみると、新たな点に気づくことがあるかもしれない。何度か読んでみると良いのでは。

 

【4】執筆

1. まずは全体の構成から

(a)         <わたしの問い>をはっきりさせる…簡潔な一文にまとめてみよう。

(b)         章別編成作り…全体が有機的なつながりをもっていて、スムーズに論が進んでいくものが理想的。わかったことを全て押し込もうとすると無理&無駄が出る。枝葉の情報は泣く泣く切ろう。あくまで自分の問いに即し、それへの答えに至るまでの道順をスマートに描くつもりで。

                はじめに(序文)

                【本文】第1章 第1節

                        第2節

                        第3節

                    第2章 第1節

                   ・・・・・・・・・

                おわりに(結論)

(c)         書けるところから書いていく

 

2. 「はじめに」で書かなくてはならないこと

(a)         <わたしの問い>:この論文全体で何を明らかにしようとしているのか。問題点を提示する。

(b)         視点と方法:その問題点に対し、どのような視点からアプローチするのか。どのような方法で論証していくのか。

(c)         研究史:これまでの研究では、この論文で扱う問いはどのように論じられてきたのか。

(d)         論文全体の構成:これからの各章・各節で、何を論じていくのか。おおまかに予告する。

3. 「おわりに」で書かなくてはならないこと

(a)         要約:本文で明らかになったことを今一度おさらい。

(b)         今後の展望:この論文では明らかにできなかった点、あるいは、この論文で明らかになったことを通じて、さらに見えてきた新たな疑問点を示す。

※どんな名人でも、ひとつの論文やひとつの著作だけで全てを明らかにすることは、おそらくできない。論文は、作者だけの閉ざされた世界の中だけで完結してしまうことなく、他の誰かがその問いを引き続き考えていけるようでなくてはならない。ひとつの論文の終わりが、次なる研究の始まりになれるよう、論文は読者へ向けて開かれてあるべき。そのために、今後の展望を示すことに加えて、参考文献を明記しこちらの手の内をあかすことが肝要。

 

【5】参考文献(典拠)の書き方

1. 註の必要な場合

 @典拠を示すとき A本文の補足的説明をするとき

 B本文の全体の流れからは逸れるけれど、指摘しておきたいことがあるとき

 

2. 註や参考文献表での書誌情報の書き方

スタンダードはない!専門分野ごと・国ごとに表記のルールは微妙に異なる。

a.           信頼のおける研究者の書き方を忠実に真似する。それがその専門分野で流通している書式であるはず。

b.           マニュアルを用いる。Chicago Manual, MLA, Turabian Styleなど、書誌情報の書式マニュアルが出版されているのでそれを利用。英語圏に比べて日本では文献の書式が体系だってマニュアル化されていないが、例えば 斉藤孝『学術論文の技法』(日本エディタースクール出版部、1977年)が参考に。この類の本は様々あるようなので、探してみては。

c.            重要なのは、論文全体がひとつの書き方で統一されていること。

 

3. 一例(ごく基本的な規則)

【外国語文献】参考文献表では著者名をfamily name, (first name:イニシアルでも可) の順に記し、アルファベット順に並べる。註で同じ著者を二度目以降にあげる場合は、family nameのみでよい。

@本

書名はイタリックで。出版地と発行年は必須。出版社は任意だが、記す場合は(例1)のように出版地の後に。英語の文献はタイトルの各語(and, of, theなどの小さな言葉が文頭以外の場所にある場合を除いて)の頭文字を大文字にする(例1)。フランス語・イタリア語・スペイン語の文献は固有名詞の頭文字のみを大文字にする(例2)。

(例1)  Rosen, C., The Classical Style, New York, W. W. Norton & Co., 1971.

2)  Agulhon, M., Les métamorphoses de Marianne. L’imagerie et la symbolique républicaines de 1914 à nos jours, Paris, 2001.

※参照したページが1ページだけなら(例)p. 12 とし、

 数ページにわたるなら(例)pp. 12-18 。

 

A雑誌などに収められた論文

雑誌名はイタリックで。論文名は ”でくくっても、くくらなくともよい。なお“ ”内の引用符は ‘ ’を用いる。

Bertho, C., “L’invention de la Bretagne. Genèse sociale d’un stereotype,” Actes de la Recherche en Sciences Sociales, 35 (1980), pp. 45-62.

 

B論文集などの単行本に収められた論文

言語を問わずin~ と記す。フランス語の場合、dans~ とも。

(例)Haimson, L.H., “The Parties and the State: The Evolution of Political Attitudes,” In M. Cherniavsky, ed., The Structure of Russian History: Interpretive Essays (New York, 1970), pp. 309-340. 

 

C複数の著者による文献

二人目以降に記す著者は、first name (or initial), family name の順で。

(例)McCauley, M., and P. Waldron, The Emergence of the Russian State, London, 1988.

 

【日本語文献】外国語文献の規則に準ずる。

@本

書名は『 』でくくる。その前後に句読点は不要。出版地は東京や京都であることが多いため記入は任意だが、出版社名と発行年は必須。

(例)柴田三千雄『近代世界と民衆運動』岩波書店、1983年。

註では出版情報を( )に入れるのもよし。註を付した箇所で参照したページは、できるだけ具体的に記す。

(例)柴田三千雄『近代世界と民衆運動』(岩波書店、1983年)、23-27頁。

 

A雑誌などに収められた論文

論文名は「 」、雑誌名は『 』でくくる。マイナーな雑誌や紀要には出版社名や大学名を記しておく方が親切。

(例)北原敦「日常的実践の歴史学へ—喜安朗氏の近業によせて—」『思想』

   848号、1995年。

 

B論文集などの単行本に収められた論文

「〜所収」と記す。ただし、註で具体的なページを示す場合は不要。

(例)二宮宏之「フランス絶対王政の統治構造」吉岡昭彦・成瀬治編『近代

   国家形成の諸問題』木鐸社、1978年所収。

 

4. 註で用いられるおもな略号

@同じ著者による文献を連続してあげる場合

Id., “Histoire et ethnologie,” Annales E.S.C., 6 (Novembre-Décembre, 1983), pp. 1217-1231.

 Id. =Idemの略。略さずにIdemのままでもよいが、略す際にはピリオド必要。

 日本語文献の場合は著者名の箇所を 同 とする。

 

A同じ文献を連続してあげる場合

(例)Ibid. , pp. 1220-1223.

Ibid. =Ibidem の略。略す際にはピリオドを入れる。

日本語文献 本の場合は  (例)同書、 11-18 頁。 

      論文の場合は (例)同論文、213-215頁。

 

B別の文献をあげた後、少し前に引いた文献を再びあげる場合

Lévi-Strauss, op. cit, p. 1218.

日本語文献 本の場合  (例)、前掲書、34頁。

      論文の場合 (例)、前掲論文、14-19頁。

op. cit.とイタリックにしてもよい。なおop. cit. = opere citato。ピリオド必須。

 

C別の文献をあげた後、少し前に引いた文献と全く同じ箇所をあげる場合

Lévi-Strauss, loc. cit.

loc. cit. とイタリックにしてもよい。なおloc. cit. = loco citato。ピリオド必須。

 

5. 註で略号を使わない場合

タイトル冒頭の数語だけを記して省略する。(例1)のように初出時に、以降省略することを断わっておく。

(例1)Locke, Ralph P., Music, Musicians, and the Saint-Simonians, Chicago, University of Chicago Press, 1986.[以下、Locke, Music, Musiciansと略す]

すると後出の註では、(例2)のように書ける。

(例2)Locke, Music, Musicians, pp. 25-30.

略号を使わない方法だと、書いた後になって本文の構成を大幅に変えたときでもフォローが容易で、便利。