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2011年6-7月 月次レポート(中村隆之 フランス)

短期派遣EUROPA月次報告書6‐7月

中村隆之(東京外国語大学リサーチフェロー/フランス社会科学高等研究院)


 本年6月に2010年度短期派遣EUROPAのプログラム終了に伴い、報告会にて成果報告を発表後、同月24日から、2011年度短期派遣EUROPAのプログラムの一環で、派遣国フランスに再び滞在しております。2010年度から引き続き、フランス社会科学高等研究院(パリ)に客員研究員の身分で所属し、前年度の研究を発展的に引き継ぐ新たな課題「フランスにおける文学と反植民地主義 カリブ海出身フランス語作家研究 1930年代----1980年代」に取り組む所存です。関係各位にこの場を借りて改めて感謝申し上げます。
 6月下旬から7月にかけてのパリは総じて天候が悪く、雨と曇りの日々が続きました。このため、外出を控え、この間に取り組むべき課題に勤しむ日々となりました。7月に主に取り組んだのは、本研究課題でも重要な位置を占めるマルティニック出身の作家パトリック・シャモワゾー(1953--)の最新の日本語訳『カリブ海偽典』(塚本昌則訳、紀伊国屋書店、2010年)の書評論文を執筆することです(学術系商業誌に発表予定)。今年1月の月次報告書に記載したとおり、この1000頁にもおよぶ小説に関してはすでに一度読んでおりましたが、今回原稿を準備するにあたって、本書の原書はもちろんのこと、その他のシャモワゾー作品を収集・読解しました。特にこの作家の文学観を知るにあたって重要な評論『支配された国で書く』(Ecrire en pays dominé, Gallimard, 1997)を読み込むとともに、第一小説『七つの不幸の年代記』(Chronique des sept misères, Gallimard, 1986)をはじめとしたその他の小説と関連資料にも目を通し、原稿用紙20枚から30枚ほどの分量で、この小説の豊かな世界をいかに評するかということに苦心する日々を過ごしました。
 この論文を準備する一方、大詩人エメ・セゼールの訳書(共訳)の校正を行いました。本書は、マルティニック出身の大詩人の晩年の声を伝えたインタビューを中心に、対談相手のフランソワーズ・ヴェルジェス(フランス語圏の著名なポストコロニアル研究者)のセゼール論を付したもので、文学を反植民地主義とのかかわりで考えるさいにも大変重要な書であると私は捉えています。
 このような次第で、7月は主に自宅での作業に集中しましたが、二点ほど報告すべき活動を行いました。
 ひとつは、5月のエクサンプロヴァンスにおけるフランス語圏の学術コロックで知りあった、マルティニック出身のカリブ海文学研究者アニー・ドミニク・クルティウス氏にパリで面会したことです。現在アイオワ大学で教えるクルティウス氏からは、フランスとアメリカ合衆国におけるカリブ海文学研究の動向について話を伺うことができました。総じて当該分野の研究は、合衆国の方が活発であるという印象を受けました。
 いまひとつは、ケブランリ美術館で7月24日まで開催されていたマリのドゴン族の企画展を見学したことです。民族学的観点から見た場合には充実した企画であったといえると思われます。フランスの植民地問題を考える場合、ある民族の生活や儀礼にまつわるモノの収集(収奪)の記録としても、こうした企画展を観ることは重要であると考えます。この問題に関連して書いた評論「『プレザンス・アフリケーヌ』の記録映画----彫像の「死」が問うもの----」がアフリカ文学研究会会報『MWENGE』第41号に掲載されました。本研究課題に関連する成果のひとつとしてここにご報告いたします。

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