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2013年1月 月次レポート(鈴木佑也 ロシア)

2013年度1月月次報告(鈴木佑也)

 今月は先月の報告で述べたとおり、2月の学術会議での研究発表の原稿と資料作成に時間を費やすことになった。この学術会議はこちらの日本学者が定期的に参加する会議であり、幸運なことにその学者の中に知り合いの先生がおり、その先生からお声を頂き参加することになった。また幸いにも、その先生が1930年代の日本における文化表象を扱っており、建築も視野に入れていることから、私の研究テーマに関心を持っていただいた。
 この会議に昨年参加したので、会議の流れとどういった内容がこの会議で関心を持たれているのかある程度は把握したつもりである。会議内容は「日本の文化と歴史」であるため、多岐に渡るが、やはり表象文化に関するものが圧倒的に多く、私の研究テーマと同時代を扱うものも多々見受けられた。懇親会に参加させていただき、その中で色々な研究者の方とお話しさせていただいたが、建築に関する報告はあまりなく、日本とソヴィエトのつながりを見る上で建築を切り口にして研究テーマに関連する時代の文化状況を探ることを副次的なテーマとして発表しようという構想が得られた。残念ながら、建築分野での直接的な二国間交流はないが、何度か報告書でも取り上げてきたがブルーノ・タウトとフランク・ロイド・ライトが1920年代と1930年代に渡り両国を訪れている。加えて両建築家ともその印象を自らの日記に記しており、当時の第三者の視点から両国の建築事情を語っているため、比較対照する上でこの二人の建築活動は重要である。
 この二人の日記と当時の二国間での反応(当時の建築雑誌、政府関連のアーカイヴ)を基に、今回の学術会議での報告書をまとめた。興味深いことに、二人はソヴィエトと日本の訪問時期が異なり、建築を巡る状況が変わっていたにもかかわらず、同じような印象を受けている。ソヴィエトであれば建築物個体ではなく、周囲の環境との調和を求める有機性というものに両建築家は着目している。一方で日本では神道に関連した宗教的建築物の清潔さと、それを基にした日本家屋の無駄のなさに注目している。二人共にモダニズム建築の代表的な建築家であるから、モダニズム建築との共通点を両国の建築に投影したということが考えられる。だが興味深いのは1920年代に自らが見いだしたそのような特性は滞在先(ライトは日本、タウトはソヴィエト)では彼らの指摘があまり問題にならず、1930年代の滞在先(ライトはソヴィエト、タウトは日本)において一定の理解を示され、彼らが唱えた考えはその国の建築運動に少なからずとも関わっていくこととなる。もちろん、単に賞賛するというだけでなく批評も加えている。だが、奇妙なことに1930年代における訪問先での着想は当時の両国における建築状況で求められていたもので、招聘の際にもそうしたことを狙って招聘された感はある。1930年代におけるこの二人の着想がいわゆる全体主義下での建築界にとって特徴的であったのか否か。今後の研究課題として取り組みたい。

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