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2012年9月 月次レポート(鈴木佑也 ロシア)

2012年度9月月次報告(鈴木佑也)

 本助成による研究を始めるにあたり、既に渡航先に滞在しているため、住居探しや滞在先での手続きといったことがなく、すぐに課題とするテーマの研究に取り組むことができたのは幸いであった。全体の流れとして、2−3ヶ月目は資料収集にあたり、残りの半分を課題とするテーマに関する論文の執筆にあてるつもりでいる。9月はその資料収集にあたる上でほとんどを過ごすロシア国立文学芸術アーカイブで研究作業をおこなった。
 このアーカイヴは、その名の通り、国が管轄する芸術部門における歴史文書を扱っており、このアーカイヴ以外にもその他の分野であれば別の国立アーカイヴが存在する。研究対象が建築分野なので、このアーカイヴのみならず、建造物の立地やその着工段階の行程を記した文書が保管されているモスクワ市立アーカイヴ、建築に関する法律ないしは条例を保管するアーカイヴなどにも足を運ばなくてはならない。しかし、テーマを『ソヴィエト全体主義下(1930年代から40年代)における外国人建築家の活動』に限定しており、その中でも日本とつながりのある建築家(特にブルーノ・タウト、フランク・ロイド・ライト)に絞ろうと考えている。彼らは実際にソヴィエトで建築物を建てたわけではない(前者は設計を行ってはいるが)。そのため、彼らをソヴィエトに招聘する経緯や彼らの国内での紹介のされかた、または彼らの活動が当時のソヴィエト建築界においてどのような位置を占め、またソヴィエト建築界から観て彼らにどのような『価値』があったのかということに焦点をあてた研究となる。
 こうした資料はまず当時の建築雑誌にあたる必要がある。しかし、この作業はアーカイヴでの資料収集よりも楽に資料が収集できる国立図書館で行えるため現段階では行わない。むしろ、国家樹立から未だ十数年しかなく、加えて国家の建築様式を模索しようとしたソヴィエト建築界を整備するため建築家達が奔走し、海外とのやり取りを直に記録したものはアーカイヴにしかない。建築家個人の資料は上記した文学芸術アーカイヴにあるというのは検討がつくが、ソヴィエト建築界(団体の改組や様々な決めごと、建築競技設計に関する審議など)に関する資料が同じアーカイヴにあるということはあまり知られていない。これはこのアーカイヴにソヴィエト建築家同盟のフォンドが存在しているからである。こうした研究資料の所在を的確に把握することに最初の一ヶ月を費やすことになった。
 他のロシア国立アーカイヴもおそらくそうだろうが、資料の複写がかなり難しい。この『難しい』というのは物質的にも経済的にもということである。研究に必要な資料がほぼマイクロフィルムのため、一枚およそ130円ほどかかり、かつ保存状態が悪いものが多いので複写をしても後々読めないということがあり得る。現段階では必要な部分を書き写すという作業にほぼ一日を費やしている。そのため、研究成果の形となる論文の構想を練るということが未だできないのは残念であった。次の月においてはなるべく集めるべき資料を限定し、構想に時間をかけられるように作業を行うことを目標にしたい。加えて研究テーマに関連した学術的な発見があり次第、この場をお借りして報告したいと考えている。

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