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2012年8月 月次レポート(桑山佳子 スイス)

短期派遣EUROPA月次レポート
2012年8月

博士後期課程 桑山佳子
派遣先:スイス・チューリッヒ大学

 8月は、文献の読解を引き続き進め、下旬には学会に参加した。
 まず、文献では多和田葉子"Spielzeug und Sprachmagie"を読了し、指導教員からいただいた参考資料であるヴァルター・ベンヤミンのテクスト"Spielzeug und Spielen―Randbemerkungen zu einem Monumenralwerk‟と‟Rastelli erzählt..."を読み込む作業を行った。遊び、言語と翻訳についての考察にようやく小さいながらも一区切りがついたように思う。
 また、8月は派遣先のチューリッヒ大学で開催された"Deutschsprachiger Japanologentag‟(「ドイツ語圏日本研究者会議」http://www.zuerich.japanologentag.org/)に参加した。ドイツ語圏各地から日本学を専門とする研究者が集まり、8月28日から30日までの三日間、経済学、社会学、言語学、日本語教育、文学などのセクションに分かれ、それぞれの発表が行われた。今回は、報告者にとって特に興味深かった二つの発表について報告したい。
 まず、チューリッヒ大学のエドゥアルド・クロッペンシュタイン教授が、自身が関わっているプロジェクトJLPPについて発表された。文化庁が2002年から行っているJLPP(Japanese Literature Publishing Project、「現代日本文学翻訳・普及事業」 http://www.jlpp.go.jp/index.html)は、日本の文学作品をドイツ語、フランス語、英語、ロシア語などに翻訳し、普及をめざす事業である。ドイツ語へは内田百閒、山田詠美、丸谷才一らの作品が翻訳されている。教授はこの企画に当初から参加しているとのことで、この10年間の経過について発表され、討論では出版社と作品の普及の関係について質問が投げかけられた。報告者の研究はテクストそのものの読解が中心になっているが、テクストをとりまく外部の状況にも常に敏感でありたいと思う。
 ベルリン自由大学のイルメラ・日地谷=キルシュネライト教授の「日本文学研究―居場所のない学問分野?」(Literaturwissenschaftliche Japanforschung―Kein Ort. Nirgends?)も興味深い発表だった。日本学において、経済学、政治学に比重がおかれ、文学研究を選択する学生の数が減少傾向にある。ドイツ語圏の日本文学研究はどこに進めばよいのか、国文学研究や英語圏の日本研究、あるいはゲルマニスティックや比較文学研究に対してどのような立場をとりながら発展するのか、という問題意識に基づく発表であった。報告者は日本出身の日本語・ドイツ語で書く作家を対象にしてスイスのドイツ語圏で翻訳研究を行っており、この議論は自身の学問的立場にとっても切実な問題である。
 来月は、二週間のドイツ語集中コースのあと、タン先生との7月以来の面談と、外語大の指導教員である山口先生のチューリッヒ訪問が予定されている。両先生との面談の準備として、再度自分の研究を整理したい。

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