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2012年7月 月次レポート(江畑冬生 ドイツ)

短期派遣EUROPA 月次レポート(7月)
江畑 冬生(日本学術振興会特別研究員PD)

分野名: チュルク諸語研究
テーマ: サハ語の派生形態論

[現況概要]
 7/2日本を出国,イスタンブルを経由し同日夜にフランクフルトアムマイン着。7/8に最初のアパートに入居,7/25に現在のアパートへ転居。7/9よりドイツ語学校に通う。研究活動は極めて順調である。

[研究]
 欧州,とりわけドイツにおけるチュルク諸語研究の蓄積について学ぶという当初の目的を達成しつつある。
 フランクフルト市のゲーテ大学は欧州有数の言語研究の拠点であり,チュルク諸語研究を推進してきた伝統がある。受入研究者のAndreas Waibel氏は,チュバシュ語を専門としつつも広くチュルク諸語に通じ,古典語を含む印欧諸語さらにはバスク語やウラル諸語についての深い知識も有する。報告者のこれまでの研究は,サハ語の共時的文法構造の解明に重点を置いてきたが,反面,チュルク諸語の比較研究にはそれほど高い関心が払われたとは言えなかった。ドイツにおける史的研究の蓄積はたいへん高いレベルにある。報告者にとってフランクフルト滞在は,Waibel氏の指導のもと比較研究を学ぶ良い機会となっている。
 Waibel氏,妻のZinaida Waibel氏(ゲーテ大学講師),ロシアのタタルスタン共和国より滞在中のNadiya Galieva氏(カザン連邦大学博士課程),報告者の4人で,週に約1度のペースでチュルク諸語研究会を開いている。この研究会は書籍からは情報を得にくいチュルク諸語(ハカス語・ショル語・チュバシュ語・タタール語・サハ語)について,英語・独語・露語による議論が飛び交うユニークなものである。7/23には報告者が発表を担当し,「The Yakut language, compared with other Turkic languages」と題する報告を行った。
 7/9よりフランクフルト市内の語学学校に通っている。大学学部時代にドイツ語を学んだ経験はあったが,言語学の専門家として改めて学ぶドイツ語文法には新たな発見がある。1例を挙げると「1リットルの牛乳」はein Liter Milchとなるが,冠詞の性が名詞ではなく単位である「リットル」と一致する。冠詞の性が一致するのが名詞句の主要部では無い点が興味深い。なおロシア語で「1リットルの牛乳」はодин литр молокаとなるが,ここでは「牛乳」が属格で現れ名詞句主要部自体が「リットル」になるという相違点がある。なおロシア語では冠詞ではなく数詞が用いられるという違いもある。
 7/27には,語学学校の他の日本人学生を聴衆として,「言語とは何か,言語学は何を明らかにするか」と題する講演を行った。言語本質論・言語の構造・世界の言語について随時質問を受け付けながら語った。参加者からは「ドイツ語も世界に数千もある言語の中の一つであり,大きな語族の流れの中で徐々に枝分かれし変容して行った事が分かった」「言語学は奥が深く,難しいと思ってしまいがちではあるが説明が分かりやすく,親しみやすかった」などの感想が寄せられた。

[生活]
 日本を出発する前,受入研究者のWaibel氏と連絡を密に取りながら,滞在の準備を行った。最も大きな問題が住居であったが,Waibel氏の御教示により短期間のアパート貸し借りの情報を載せたサイトhttp://www.studenten-wg.de/により部屋探しをし,Rödelheim地区のアパートを出発前の段階で押さえることができた。しかし現地到着後,貸主との連絡・交渉がうまくいかず,結果的に破談となった。急遽ホテルでの滞在を延長し,代わりの住居探しを開始した。幸いにもWaibel氏の知人が海外出張中のアパートを快く提供してくれたお陰で「宿なし」となることは回避した。その後もアパート探しを続け,7/25には現在のアパートへ転居した。フランクフルト滞在期間の終わりまで現在のアパートに居住することになっている。

[連絡状況]
 上述の通り,受入研究員のWaibel氏(ゲーテ大学)には,研究面だけでなく生活面にわたっても全面的にバックアップしていただいている。一方,呉人徳司准教授(日本における受入研究者)とは,電子メールにより研究上の意見交換や国際シンポジウム(2012年12月)開催準備の打ち合わせなどを行っている。

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