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2012年7月 月次レポート(村松恭平 スイス)

月次レポート(7月) 村松恭平

ジュネーブにおける研究滞在も最終月となった。7月前半はこれまでの研究(特に文献の読解)を継続しつつ、新たな文献の収集に多くの時間を費やした。後半は、帰国の準備(文献の整理や日本への荷物の発送準備、その他銀行預金の国際送金等)を並行して進めながら、研究計画や現段階の論文を読み直し、これまでの研究の全体像を振り返った。
 特に参照した文献は、Mark Gilbert, European Integration, Rowman&Littlefield Publishers, Inc.(2012)の第2章、 « Enemies to Partners : The Politics of Cooperation in Western Europe 1945-1950 »の箇所、Jan Tinbergen, International Economic Integration, Elsevier Publishing Company, (1965)、Javob Viner, International Economics, George Allen&Unwin Ltd. (1951)の主に3冊。これ迄の研究内容と重複することは多かったが、別の研究者の視点を取り入れ、時代背景を更に詳細に捉えることができた。戦後の西欧が経済的復興を目指すにあたり、"米国との競争意識"に関しては注目しなければならない。当時の西欧は、戦争によって壊滅的となった社会を復興させるだけではなく、それ以降の経済的優位性を取り戻し、且つそれを保つ為、特に生産性と価格競争力の向上を目指した。関税障壁の撤廃や、それに続く関税同盟の形成(地域内における資源のmisallocationの再配分の狙いも含む)は、まさにこの米国との国際貿易競争に打ち勝つ為でもあった。また、1950年に創設されたヨーロッパ決済同盟(EPU)は、当時まだ主要国通貨の交換が難しかった状況において、西欧18カ国による相互間の債権・債務の清算がスムーズに行う機能を持っただけでなく、米国ドルに対する差別(=米国経済に対するブロック)を行う一つのシンボル的役割も担ったことが明らかになった。
 このジュネーブでの研究は、①戦後復興と欧州経済統合に関する議論とアイデア、②戦後西欧における関税同盟形成までの政治・経済的協調プロセス、域内貿易網復活を妨げる問題点、③関税同盟の性質と概念の分析、戦後の国際的枠組みの中での関税同盟の位置付け、といった内容を主に調査したものとなった。また、他に現在のユーロ危機の議論を"現地"の観点から追いかけ、考える良い機会となった。更に、貴重な文献を数多く収集できたことで、帰国後もそれらの文献を用いながら十分に調査できる見通しである。このような貴重な機会をいただいた短期派遣EUROPAプログラムと、その関係者の方々には深く感謝を申し上げたい。

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