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2012年5月 月次レポート(村松恭平 スイス)

月次レポート(5月) 村松恭平

5月は、初旬にUni-Dufourで開催されたEU統合の歴史と危機に関連したセミナーに参加し、Uni-MailやUni-Bastionsの図書館にて資料収集や論文執筆の続きを行った。(※それぞれの位置については、以下の地図を参照。徒歩15分以内でそれぞれの場所を移動できる:http://www.unige.ch/dinf/ntice/BatDufour_en.html )これまで何度かセミナーや講演会に出席して感じたが、それぞれの研究者は現在の事象と過去の経験をロジカルに結び付けて分析・発表し、個々の説明も明確であり(研究者間の意見の違いはもちろん多く存在するが)、参考にできるところが多い。今回のユーロ危機の事態に関しても、現状の冷静な分析と共に、過去のどの時点に問題があり、時間の経過と共にどのようにシステムが変化してきたのかを明快に説明していた。私の研究テーマの軸である"経済統合"について様々な意見(e.g.戦後どのようにそれが変化し複雑化してきたのか)に触れることは、新しいアイデアを得る良い機会となっている。
 論文執筆に関しては、第3章にて関税同盟の性質をJ.Viner (The Customs Union Issue, 1950)の言説を中心的に引用・分析しながら執筆し、様々な保護主義政策を採ることによってそれが地域貿易ブロックの形成をより強化し、20世紀前半に一度崩壊した各国市場間の貿易ネットワークを再度結びつける役割を果たしたとして論じた。また、経済統合過程の中でcustoms union, free trade area, single marketの違いにも具体的に触れた。(この点に関しては、Raymond AronやSidney Dellの説明を特に参照した。)しかし、執筆してみてまだ調査が不十分に感じた為、他の文献(例えばJ.E.Meade, Trade and Welfare, 1954やThe Theory of Customs Union, 1968)等も入手し、調査を進めている。英語とフランス語の文献を行ったり来たりしているが、既に留学開始から10カ月が経ち、この作業にも段々と慣れてきた。
 次に、関税同盟形成に関連して、戦後欧州の復興という歴史的背景だけでなく、この戦後の時期からアジアやアフリカも含めた世界全体で地域経済統合(関税同盟)に注目が集まった経緯にも注目した。この時期に浮上した議論:すなわち、世界経済はfull multilateralismか、もしくは(差別を伴うものの)regional groupingのどちらによって経済的発展がもたらされるかという議論は、関税同盟がこのregional groupingの概念に深く関連しているという点で、無視できないものである。論文中ではしかし、この概念は必ずしも対立したものでなく両立するものとして認識され、経済成長を目的としてこのregional groupingが促進された(関税同盟もその一環)ことを主に論じた。(この議論の詳細な流れは、まだ今後調査をしていかなければならない。)
 これまで一通り執筆してきたものを指導教授に提出し、論文前半の段階で、新しい視点の提供や今後の役立つ文献等、いくつかコメントも既にいただいた。今回の短期派遣EUROPAプログラムも残り2カ月となったため、調査、文献収集共にラストスパートをかけていきたい。

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