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2012年4月 月次レポート(笹山啓 ロシア)

短期派遣EUROPA月次報告書(2012年4月)
報告者:博士前期課程2年 笹山啓
派遣先:ロシア国立人文大学(モスクワ)

 4月1日、中部国際空港から韓国を経由し11時間ほどのフライトでモスクワに到着。今回が初のロシア長期滞在ということで勝手の分からないことも多い中、月の前半は諸所の事務手続きや生活の準備に忙殺される格好となった。
 とりわけ住居探しには手間取った。当初はロシア国立人文大学の学生寮への入居を考えていたが、寮の使用は原則的に正規の交換留学生や大学院への留学生等が優先されるということで、学期途中に大学付属のロシア語研修センターに入学したに過ぎない身分の報告者は、数度の交渉も空しく入居はかなわなかった。そこでインターネットの不動産検索サイト(http://www.cian.ru/)を活用し、先駆けてモスクワに留学されていた東外大大学院博士後期課程所属の先輩の助力を乞うて、郊外のアパートの一室を手ごろな値段で間借りすることができた。インターネット上の情報を眺めた限りモスクワの住居事情は決して良いとは言えず、信用の置けない不動産業者も多く存在すると聞く。またほとんどの貸主は借主に対し、年齢や性別、契約期間、国籍、人種などに関する様々な条件を課しており、これらが外国籍の人間にとって高い壁となることもある。ロシアで部屋探しを余儀なくされた場合、こういった点に十分留意して事に当たることが望ましいだろう。
 研究の進捗状況に関して。今回の滞在中指導を仰ぐのはロシア国立人文大学のジャンナ・ガリーエワ先生である。ガリーエワ先生は大学の現代ロシア文化センター・プリゴフ名称研究室の主任を務められ、現代ロシア文学の動向について大変造詣の深い方である。先生とは今月数度面会の機会を持ち、修士論文の方向性について、また参照すべき資料についてアドバイスを頂いている。このやりとりの中で、ペレーヴィンに関する論考、またロシアのいわゆるポストモダン文芸に関する書籍が既に相当量刊行されているということが分かり、差し当たってはそれらの把握・収拾に努めているところである。研究計画に記載した未公刊の学術論文の調査にも追って取り掛かる予定だが、6ヶ月という長いようで短いロシア滞在で質・量ともに満足できるだけの資料を効率よく確保すべくスケジュールを組まねばならないとは、些事に気を取られるうち早や1ヶ月が経過してしまった今とみに痛感するところで、優先すべき事柄を後回しにしないためにも、今後ますます能動的に情報を収集していく必要がある。現在は生活も落ち着き、週4コマのロシア語研修に通いつつ研究活動に従事しているわけだが、今月の収穫としては、なんと言ってもこの3月に出版されたばかりの『ペレーヴィンと空虚の時代』(原題:«Пелевин и поколение пустоты»)を挙げねばならないだろう。これはペレーヴィンのデビューから最新作までの創作活動を網羅した初の本格的評伝である。本作の込み入った内容についての論評はひとまず置くとして、存命の作家についてこうして1冊の著作がものされたということ自体が、この作家がロシア文学史上において確固たる地位を築きつつある現状を示唆しており、少なくともペレーヴィンを学術的な研究対象と考える報告者のような人間にとっては慶賀すべき出来事と言える。このほかにも、現代ロシア文学を研究する上での基本文献とも言うべき著作の数々や、報告者の関心にうまく添うような資料を発見できており、ロシア本国での活動の意義深さをひしひしと感じる毎日である。

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