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2012年4月 月次レポート(フィオレッティ・アンドレア イタリア)

月例レポート
(2012年4月、博士後期課程 フィオレッティ・アンドレア)(派遣先:ローマ大学、イタリア)

 イタリアに戻りローマ大学での研究活動を再開した。共同指導教員マティルデ・マストランジェロ先生と面会し、研究の進展と博士論文について相談した。以前説明したように、現在マストランジェロ先生は、落語や講談などの話芸を研究課題にしている。 こういった芸術表現を翻訳、上演する可能性や、特に西洋の大衆にいかに紹介すべきかについて考えている。そのためか、私が取り組んでいる問題に強い関心を示した。話芸は日本の近代小説の誕生に強い影響を与えたので、マストランジェロ先生のような専門家の指導は、私の研究活動の進展に欠かせない。
 面談では、2012年11月にヒルデスハイム大学で行われる国際セミナーで発表する予定のテーマ(「日本近代小説における発言の書き方」)についても相談した。その際、6月下旬におこなわれる大学院のセミナーでも発表するようにすすめられた。セミナーのテーマは「21世紀の中国、日本、韓国、チベット、台湾におけるナショナル・アイデンティティー」("L'identità nazionale nel XXI secolo in Cina, Giappone, Corea, Tibet e Taiwan")である。タイトルからもわかるように、私の研究とは直接的な関連はないので、「翻訳とナショナル・アイデンティティー」というテーマでまとめ、セミナーの趣旨から外れないようにするつもりである。
 発表では、特に丸山真男、加藤周一の『翻訳と日本の近代』という資料を参考にすることにした。この本はイタリア語にまだ訳されていないが、英語では"Translation in modern Japan"( Indra Levy編『近代日本における翻訳』)という論文集の中でAndre Haagによって論評されている。セミナーでは中国、韓国、台湾などの専門家も参加するので、イタリアでは発表されてなくとも英語で参照可能な研究はできるだけ紹介しようと思っている。丸山真男と加藤周一の問答という形で出版されたこの本は、日本の近代化、ナショナル・アイデンティティーにおける翻訳の役割という問題を分析的で比較的なアプローチで論じており、中国や韓国の事例に触れることも多い。
 今月は樋口一葉の小説の翻訳作業に関しては重要な展開があったため、それについても報告する。この前も報告したように、現在一葉の『にごりえ』の翻訳をおこなっている。小説の三分の二がほぼ完成しており、来月中に作業をすべて完成するつもりである。4月にヴェッキアレッリ(Vecchiarelli)というローマの出版社に相談し、『にごりえ』と、すでに完成している『たけくらべ』の翻訳、それに関する注釈、解釈を出版する許可を得た。
 ヴェッキアレッリ出版社は、日本文学や東洋文化を専門にしているわけではないが、アカデミックなものや文学的なものを扱っている。私の研究は一般向きというより専門的なものであるし、現在の出版状況では東洋関係の出版社からは難しいと思っていたので、理想的な方法だった。マストランジェロ先生も同社からの出版には好意的であった。
 本は来年、ヴェッキアレッリ出版社に長年にわたり貢献、協力している、Simone Dubrovic (シモーネ・ドゥブロヴィッチ)先生(ケニヨン・カレッジ准教授、イタリア語文学)によって編集された、 "Da lontano. Studi e testi"というシリーズの一つとして発表されることになった。
 5月の予定としては、2日〜4日にローマ・ラ・サピエンツァ大学でおこなわれる"La lettura degli altri. Traduzioni/riscritture, sguardi, rappresentazioni"という多文化研究セミナーに参加することになった。それについては来月のレポートで報告する。

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