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2012年3月 月次レポート(新谷崇 イタリア)

月次レポート 2012年3月
新谷崇(博士後期課程)
派遣先:ピサ高等師範学校(イタリア)

 3月はローマで史料調査をおこなった。バチカン市国内のバチカン秘蔵文書館(Archivio Segreto Vaticano)とバチカン国務省・国際関係文書館(Archivio Storico: Segreteria di Stato. Sezione per i rapport con gli stati)で1週間ほど作業をした。博士論文で利用できそうな文書を入手でき、満足のいく調査となった。
 バチカンの文書館で作業するには、博士課程以上の研究職にあることが条件である。所定の書類を揃え、バチカン秘蔵文書館の文書館員との面接を経て、入館証が交付される。期限が短く設定されているため、定期的に更新する必要がある。国際関係文書館では別途、履歴書や申請理由書などを提出し、手続きをしなければならない。バチカン市国の文書館・図書館では年度が9月中旬から翌年7月中旬までとなっていて、身分と研究テーマに変更がなければ次年度の更新作業は簡易なもので済む。
 文書館の開館時間は基本的には午前中のみとなっている。ただし、バチカン秘蔵文書館では、申請すれば午後も入館できる。そのためには、史料請求を午前中におこないファイルを取り置いておかねばならない。なお、バチカンの二つの文書館で閲覧が許可されているのは、ピウス11世の時代(1922-1939)までの文書で、なかには史料編集などの理由で閲覧ができないものがある。
 バチカン秘蔵文書館にはバチカンに関わる多種多様な書類が保管されている。そのため、カタログだけでも膨大で、請求するファイルを決めるのも一苦労である。文書館員に助言を求めつつ、研究に関係のありそうな目録をまず絞り、さらに目録の中からキーワード、時代、テーマなどに沿って閲覧申請すべきファイルを探すことになる。今回わたしは、1922年から39年の国務省文書の中で、出版人関係を重点的に調査した。デロッシ・デッラルノという人物が、人種法についての記事を1938年に書き、バチカン国務省に献呈していた。その際のバチカン国務省とのやり取りが興味深かった。バチカン秘蔵文書館では複写の出来上がりに1か月もかかるということなので、文書をパソコンで書き写した。
 一方の国際関係文書館の方では、目録が時代と関係相手国に分類されている。分量も多くはない。わたしの研究では、「ピウス11世期(1922~1939年)」の「イタリア」が手にすべき目録となる。ファイル名に目を通し、ファシズム政権がおこなった農業プロパガンダである「小麦戦争」という項目を見つけた。国際関係文書館では、複写申請が簡易なので、ファイル二つ分のコピーを依頼した。
 現在わたしは、デロッシ・デッラルノという人物が1938年夏に始まる人種法の議論において、どのような思想をもちバチカンとファシズム体制の間を行き来したかについて、調べている。そのテーマについて、バチカン秘蔵文書館で今回入手した史料を活用し、来月末をめどに論文にする予定である。また、国際関係文書館で複写申請した史料は、先行研究を参考にしながら、今後じっくり分析していくつもりである。

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