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2012年3・4月 月次レポート(桑山佳子 スイス)

短期派遣EUROPA月次レポート
2012年3-4月

博士後期課程 桑山佳子
派遣先:スイス・チューリッヒ大学

 2012年3月20日からチューリッヒ大学文学部東洋学科に博士課程の学生として在籍し、約11か月の予定でスイスでの研究活動を開始した。報告者はトランスレーション・スタディーズの立場から、ドイツ語・日本語の二言語で執筆活動を行う作家、多和田葉子を主な研究対象にして、文学テクストと翻訳および言語の関わりを研究している。チューリッヒ大学では、現地指導教員のダニエラ・タン先生との個人面談を中心に博士論文執筆のための土台作りを行いながら、ドイツ語能力向上のため大学内の語学センターに通っている。
 タン先生は日本の現代女性作家を主な研究対象としており、日本語の作品をドイツ語へ翻訳している。これまでの研究とこれからの方向性を説明した二回目までの面談では、今年1月提出の修士論文で検討した翻訳の自然さへの疑問という出発点を大切にしつつも、これまでの手法や思考に頼りすぎず、形にすることを焦るあまり視野を狭めないようにとの助言をいただいた。三回目以降の面談では多和田葉子がチューリッヒ大学に提出した博士論文、"Spielzeug und Sprachmagie"を素材に、多和田の翻訳および言語思想を読み解く作業を行っている。第三章で展開されている文字の概念と言語についての議論は、報告者のテーマに関わる特に重要な部分だと考えられ、次回以降の面談や読解を通してこの部分を整理していく予定である。
 授業については、タン先生のご助言をもとに、指導教員の山口裕之先生にメールを通じて相談しながら参加している。今回は日本学部門の責任者であるシュタイネック先生の博士課程向けゼミナールに参加した。この授業には日本の仏教思想や古典に関心を持った学生が集まっている。報告者が参加した回では江戸幕府が仏教について述べた文書が扱われた。漢文を書き下し文で読み、ドイツ語で説明し内容やことばの使い方について話し合った。報告者自身は漢文には高校時代以来積極的に関わっておらず、ドイツ語を学び始めたのは大学学部生からのことである。文書の内容は全くの専門外だったが、これまで接点が感じられなかった漢文とドイツ語を仲介する感触がとても刺激的だった。
 3月から4月にかけては生活面の手続き等と並行して研究を進める形になったため、集中して文献に取り組む時間が制約されていたが、約一か月のあいだに手続きもほぼ終わり、五月からは心おきなく研究に専念できる見込みである。以降は引き続きタン先生との面談と文献の読解、語学力の向上に力を入れる予定である。
 急な雨や冷え込みが続いたチューリッヒも、晴れた暖かい日が続くようになってきた。花があちこちで咲き、街の美しさを実感しつつ、この街で先生方のご指導を受けながら研究できることをとても嬉しく思っている。この機会を与えていただいたことに感謝しながら、来年2月までの派遣期間を充実させていきたい。

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