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2012年2月 月次レポート(フィオレッティ・アンドレア イタリア)

 月例レポート
 (2012年2月、博士後期課程 フィオレッティ・アンドレア)(派遣先:ローマ大学、イタリア)


 2月は、前期の試験がおこなわれ、下旬から後期の授業が開始された。今月はまず、ローマ・ラ・サピェンツァ大学の博士課程入学の手続きを終えた。奨学生として授業料は免除になったものの、他の大学院生同様に事務経費だけは支払いが必要だった。共同学位指導での在籍のため、日本と学年を合わす形で、2011-2012年度に加え2010-2011年度分にさかのぼって支払った。これで、ローマ大学大学院・アジアとアフリカ社会、文化、文明課程の第二年度に正式に在学していることとなり、共同学位取得の準備が整った。
 先月は、小説の受容、すなわち十八世紀末以後小説の読み方がどのように変化したのかの検討が課題として浮上した。
 この問題に関して貴重な資料を手に入れることができた。その一つは、ロジェ・シャルティエ、グリエルモ・カヴァッロ編『読むことの歴史--ヨーロッパ読書史』大修館書店、2000年("Storia della lettura", a cura di G. Cavallo e R. Chartier, Laterza, 1995)という論文集であり、様々な学者によって古代ギリシャから今日までの西洋で書物がどう読まれてきたかが論じられている。分析の中心になっているのは、音読/黙読という区別である。音読がはるかに普及していた西洋の古典時代と異なり、十七世紀と十八世紀に音読が次第に廃れ、黙読が流行し始める。
 それ以外にも興味深い資料を手にした。『読むことの歴史』所収のラインハード・ヴィットマン(Reinhard Wittmann)による「十八世紀末に読書の革命は起こったか」という論文。また、最近同じLaterza出版社から出版された、イタリア十八世紀学会(SISSD, Società Italiana di Studi sul Secolo Diciottesimo)会長のロザマリーア・ロレテッリ(ナポリ・フェデリーコ2世大学教授、英文学)による『小説の発明。口承性から黙読へ("L'invenzione del romanzo. Dall'oralità alla lettura silenziosa")』も、十八世紀の読書史を詳細に扱っている。
 ロレテッリは、ダニエル・デフォー、サミュエル・リチャードソン、ヘンリー・フィールンディング、ローレンス・スターンなどの十八世紀の作者の様々な例を挙げ、音読が廃れ黙読が普及するとともに小説の新しい様式が誕生したことを示す。本の中では、朗読のメカニズムを視覚的によみがえらせるためにダッシュや星印などの飾りが使用され始めるのがまさにこの時代だと例証される。
 現代ではこうした小説のテクストが近代化されたバージョンで紹介されており、十八世紀に初めて出版されたときの特徴がもはや見られない。この点で重要な例外は、現代の出版でも、イタリア語訳もそうだが、初版のほとんどの特徴を保つローレンス・スターンの『トリスタン・シャンディー』である。スターンなどの小説はそれ以前の伝統的な文学との亀裂を証明してくれるため、私の研究にとってこの小説の分析は興味深い。
 日本ではこのような亀裂は明治初期に見いだされると考えている。ラ・サピェンツァ大学での授業を通してすでに研究を始めている話芸とともに、日本における音読のテーマにも今後触れていきたいと思う。
 来月は、今年6月に失効する日本の在留資格更新のため、一ヶ月東京に戻る予定である。この機会を利用して、イタリア滞在の前半に進めた研究に基づく論文を執筆するための資料を補充する。

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