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2012年1月 月次レポート(村松恭平 スイス)

月次レポート(1月) 村松恭平

2012年に突入し、早くも一カ月が過ぎた。2月に入った現在、欧州各地が激しい寒波に見舞われており、ジュネーヴでも極寒の毎日が続いている。気温がマイナス10℃以下になる日も少なくない。私自身これまで経験したことのない程の寒さであり、道路が凍結し歩きづらいなど多少の不便さは感じているが、今は少しでも早く暖かくなるのを祈るのみである。
 1月はジュネーヴ大学/大学院はテストやレポートの準備期間であり、講義やシンポジウムはほとんど行われていなかった。一方、ジュネーヴ大学の図書館は、席を見つけるのが困難なほどテスト勉強する学生達で溢れ返り、テストやレポートの準備に熱心に取り組む学生達の姿が印象的であった。この期間は大体2月の中旬まで続き、その後、後期が開始されるといった日程である。
 1月の研究は、昨年の12月に集めた文献の調査と論文の執筆が中心であった。文献の中心的な内容は、戦後の西欧が協調し関税同盟の形成へと至る政治・経済的背景やプロセスと、時代としては更に広く包括するが、欧州がどのような歴史的な流れの中で"貿易ブロック"を形成してきたか、がその焦点であった。特に使用した文献は、①William Diebold Jr, TRADE and PAYMENTS inWESTERN EUROPE (HARPER&BROTHERS,1952)と、②SIDNEY DELL, Trade Blocks&Common Markets (Constable&Co Ltd,1963)である。これまでの研究の過程で、戦後の西欧の地域経済統合とこの"貿易ブロック"形成の間には密接な関係があると明らかになっていることから、この概念にも調査を広げることにした。以下は私の論文における方向性の一端である:
 論文の中では、経済思想的概念の枠組みだけでなく、政治の影響力にも配慮して執筆している。その理由は、関税同盟のみならず経済統合プロセス全体に関して経済的合理性の視点のみでその形成の背景を把握できないからである。例えば、②の文献の中では、単一市場の形成に関して多くの経済学者はその経済的合理性にむしろ疑問を投げかけていた、と述べられている。一方で同書には、経済統合を推進した政治家は経済的合理性を訴えていたという記述も存在することから、この複雑なイシューに関しては政治と経済の視点の両方を兼ね合わせながら言及することを心掛けている。
 また、欧州(特に西欧)において戦後の関税同盟の形成がどのような意味を持っていたかという問題を、過去の文献を比較しながら具体的且つ詳細に把握することは重要である。なぜなら、"関税同盟"や"経済統合"という言葉を使う学者・政治家によってそれらの定義が微妙に違うことが分かったからである。"単一市場"についても著書によってそれが意味するものは結局のところ曖昧であるし、Hoffmannが戦後間もない時期に言及した"経済統合"は、補足の言及に注目することによって、まさに"貿易の拡大と関税同盟の形成"を意味していたと具体的な概念に絞ることもできる。私自身これまでの研究の中で、戦後の西欧の経済統合は貿易の発展と関税同盟の形成が特に重要であったと現段階では確信している。
 次に、米国による欧州の戦後復興計画であるMarshall Planの内容が、欧州における経済統合を推進するものであったことも明らかになっている。Marshall Planが開始される前の西欧は、市場が関税や輸出・輸入規制によって"分断"され、国家間の貿易がスムーズに行えない状況であった。その状況を打破するための欧州協調を促進させたきっかけが、Marshall Planであったのである。この米国からの支援(または圧力)が関税同盟形成に与えた影響も決して無視できないので、論文の中で更に明らかにしていく。
 論文の執筆については、文献に書かれた事実に基づき、慎重且つ丁寧に書くことを心掛けている。ジュネーヴでの滞在はあと半年残っているので、関連した議論や周辺知識も広く押さえつつ、焦らず文献の調査と論文の執筆を続けていくつもりである。また、2月中盤以降シンポジウム等も再開される予定であるので、これらにも積極的に参加して、現地でしか味わえない経験を大切にしていきたい。
 

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