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2012年1月 月次レポート(蔦原亮 スペイン)

1月月次レポート 
蔦原亮
マドリード自治大学

 先月のレポートにも書いたように、今月はマドリード・コンプルテンセ大学のGarcía Fernández先生のもとを、現在分析中のデータ、ならびに、博士論文の方向性に関する相談をさせていただくために訪れた。García Fernández先生はスペイン語の動詞時制に関する専門家であり、報告者の博士論文のテーマが動詞形式であることから、マドリード自治大学のElena de Miguel先生から紹介していただいた。
 上述の「現在分析中のデータ」は二点。quererのような動詞が二人称現在形で使用されている条件節に導かれる帰結節に於いて、動詞を二人称・未来形で使用することが制限される事実。そして、主語の性質を述べるfue deという表現に於いて、de以下に動詞の不定形を用いることができない事実に関する自分なりの分析を述べ、先生からフィードバックを頂いた。
 そして、博士論文のテーマであるが、これは端的に言って非文性の研究である。現在報告者は動詞各形式を排除する要素を特定、少数のルールに収束させることを目指している。
 修士論文の段階では、動詞各形式が選択される理由を調査し、この理由を以て各形式の本質的な機能を規定することを目指していた。しかし、ある動詞の形式が選択される場合、多くの場合、選択される理由として地域差、文体、そして究極的には個人の好みという文法外の要因が挙がる。したがって、こうして規定されたポジティブなルール、要因を反証することは極めて困難であると結論せざるを得なかった。
 そこで、現在、形式の使用が文法的に排除される場合に着目している。そうしたケースを収集し、各形式の使用を妨げるルールを仮定する。そして、この仮定されたルールを以て各形式の機能を記述すれば、ポジティブなデータを用いた場合に比べ、反証の容易な、つまりより科学的な記述ができるのではないかと考えた。
 このようなタイプの先行研究は存在するのか、そしてこうしたアプローチの妥当性についてGarcía Fernández先生に質問した。先生の答えは、このタイプの先行研究は存在せず、容易ではないだろうが、興味深い研究になる可能性は十分にあると言っていただけた。そしてこのアプローチによる研究を遂行するためのアドバイスも数点いただいた。このアドバイスは、経験論的なデータを用いて、各形式を排除するルールを仮定し、コーパスなどから得られた各形式の使用例が仮定されたルールを遵守しているかを観察し、そうでない場合に合わせて仮定されたルールを修正していくというものであった。
 二月末まで、十一月から行っている、先行研究などで紹介されている各形式の使用が文法的に排除されるケースを収集する作業を継続したい。そして三月から、こうして収集したデータから、できる限り少数のネガティブなデータを仮定する作業に入りたいと考えている。

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