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2012年10月 月次レポート(鈴木佑也 ロシア)

2012年度10月月次報告(鈴木佑也)

 今後の参考としてアーカイヴ利用事情と研究に関する情報を記して今月の報告にかえたい。まず国立文学芸術アーカイヴでは文書とマイクロフィルムの2つのタイプで資料が保存されている。共に一回に請求できるのが5つまでとなっており、資料によりけりではあるが1920−30年代のものは請求してからマイクロフィルムであれば9日、文書であれば2週間かかる。そのため芸術関連の第一次資料にあたる場合は2−3週間の滞在で資料を収集することは不可能である。また、複写は複写を請求しその請求書をもらって指定金額を銀行の窓口で振り込み、その後振り込み確認書を複写担当者に渡してから、初めて受け取ることができる。今の時期はどうやら利用者がかなり多いようで、確認書を渡してから1−2週間かかっている。そのため、予めアーカイヴのホームページで請求すべき資料を探してから作業を開始するのがよいであろう。日本以外の他の国の事情がわからないので、何とも言えないが、文学芸術関連のアーカイヴは非常に不便であり、日本のアーカイヴと比較して煩雑な作業が多い。そのため、今後アーカイヴで資料収集を計画しているのであれば、予めそのアーカイヴの事情(請求して何日かかるか、複写は可能か等)をチェックしておくのがよいだろう。こうしたことから、今月も休日を除くほとんどの時間をアーカイヴで費やすこととなった。
 次に研究テーマに関連することを取り上げる。我が国でもよく知られているフランスの建築家ル・コルビュジェの展覧会がモスクワで開催された。この展覧会のキュレーションをしているのが、日本の建築雑誌(A+U)にいくつか論文を発表しているジャン=ルイ・コーエン氏である。彼はコルビュジェとソ連建築のつながりを研究しており、コルビュジェ以外の当時ソ連で活動を行っていたフランス人建築家の研究も行っている。そのため、現在私が取り組んでいるテーマである"外部から見た全体主義下におけるソ連建築"と近い。展覧会の内容自体はコルビュジェのモスクワでの活動とその当時のソヴィエトにおける建築状況に関する展示がなされており、かつて東京の森美術館で行われたコルビュジェの回顧展と比較した場合、コルビュジェ自身を知るには物足りない。だが、彼を知っている鑑賞者であれば、特に建築関連の鑑賞者であれば、彼の活動がモスクワに与えた影響もしくは逆の点を理解する興味をこの展覧会から得ることができる。そのため、息抜きでもあるが、研究という観点からしても参考になる展覧会であった。
 コルビュジェの実作はモスクワにおいて1作品しかないとはいえ、日本や他のヨーロッパ諸国同様に当時のソヴィエト建築に多大な影響を与えており、彼を中心とするCIAM(国際現代建築家会議)にソヴィエト建築界がコミットメントするか否かが1932年から1935年までの間にソヴィエト建築家同盟ないしは共産党地方委員会で審議されている。結果として歴史が証明するように、ソヴィエト建築はコルビュジェのような建築家を受け付けない全体主義と呼ばれる建築潮流に向かっていく。だが、その全体主義建築が確立されたとする1932年以降に上記したような審議があったという事実は定説に異議を唱えるものだ。そのため、丹念に資料にあたりそのことを証明していくのが今後の目標である。
 またコーエン氏が建築美術館において特別講義を行い、講義後にいくつか研究に関する助言を彼から頂けたのも幸いであった。これを機にますます研究に励みたいところである。

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