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2011年9月 月次レポート(カン・ミンギョン ドイツ)

短期派遣EUROPA月次レポート(2011年9月)

カン・ミンギョン(ドイツ・国立ドイツ語研究所)

 マンハイムでは気持ち良い秋晴れが続いています。夏休みが終わり,短期で研究所を訪問していた研究者たちもほとんど帰国したので,いつものメンバーで図書館は再び落ち着きを取り戻しつつあります。一方マンハイム大学では9月から秋学期が始まり(マンハイム大学は,他の大学より新学期の開始が1ヶ月ほど早く,春学期も2月に始まるそうです),大学図書館にも明らかに利用者が増えてきた気がします。そういえばドイツでは,大学の建物が町のいろんなところに分散されていることが多く,日本の大学のような「キャンパス」という感じはあまりしないのですが,マンハイム大学はSchloss(本来「宮殿」という意味で,ヨーロッパで2番目に大きいバロック宮殿として知られるマンハイム城)を大学のメイン建物として使用しており,かなり存在感があります。マンハイムの中心部は,Quadrat「正方形」と呼ばれ,アルファベッドと数字の組み合わせからなるブロック(A1, B2など)が格子状に交差する形になっていますが,それもSchlossを起点にして構成されています。Schlossからネッカー川に向かって南北に延びている道に沿って,左側はAからKまで,右側はLからUまで,そして左側は西に向かって,右側は東に向かってそれぞれ1, 2, 3, ...とナンバーリングされています。各ブロック内の番地も,Schloss左側のAからKでは半時計周りに,右側のLからUでは時計周りにそれぞれ振られています。市中心部にはメインストリートを除いてストリートの名前がないのも特徴ですが,道に迷うことがなく,特に外国人にとってはありがたいシステムと言えます(派遣半年にしていまさらながら少し町の紹介を書いてみました)。
 さて新学期ということで今月からエンゲルベルク先生の講義を聴講させていただいています。Schlossの中にある階段式の大きな講義室で行われ,ざっと見積もって200人以上の受講生がいます。言語学入門の講義で,9月は言語学についての一般的な導入と形態論を扱ったので,10月以降は音韻論,統語論,意味論,語用論が順次予定されています。ドイツの大学の講義を聴講するのは今回が初めてで,内容的にまた教授法の観点から勉強になるだけでなく,システム的なことでも発見があります。たとえば,この講義には4人のチューターが付いていて,学生は4人中の1人のチュートリウム(練習などのための補習授業)とセットで講義を受講することになっているようです。チューターは日本の大学のティーチング・アシスタント(TA)に相当しますが,運用の仕方はだいぶ違う印象を受けました。他に10月から始まるゼミもあるので,また様子をみて出てみようと考えています。
 研究に関しては,今月は,使役交替動詞の中でも,同じ意味の非使役的状態変化(起動相)を表わす構文形式として自動詞構文と再帰構文の2つの言語形式が用いられる動詞について分析を行いました。ドイツ語の使役交替動詞には,他動詞と自動詞で交替する動詞群と他動詞と再帰動詞で交替する動詞群の2つのタイプがあり,しばしば両者の意味的相違が議論されていますが,典型的な動詞・事例においては意味の違いが認められそうであっても,周辺的な動詞・事例に関してはあいまいな部分があり,この辺をどのように扱うかが一つの課題として残されています。また,1つの動詞が同じ意味で自動詞的にも再帰的にも用いられる場合があり,両講文形式が必ずしも意味的にはっきり区別されるとは言えないことを示唆しています。そこで,該当するそれぞれの動詞における両形式の用いられ方と使用頻度を調査しています。データを見ていると,両講文の使用頻度に大きな差が見られない動詞もあれば,結合名詞によって偏りが見られる動詞や地域間の差が大きい動詞もあり,動詞ごとにそれぞれ別な要因によって両講文が併用されている可能性もありそうな印象を受けます。このような点を考慮すると,両講文形式にある特定の意味特徴の相違を求めることは無理があるように思えます。しかし(まったく恣意的なものでもなく)そこに一定の「傾向」が存在するならば,それは典型的なものと周辺的なものの頻度(タイプおよびトークン)を手がかりに捉えられるものではないかということを考えています。それをコーパスに基づいて実証し,周辺的なものも含めて具体的に記述することが今後の課題です。10月には語彙部門のプロジェクト会議で発表をさせていただくことになっているので,みなさんの意見を伺ってみたいと考えています。

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マンハイム大学(Universität Mannheim, Schloss)正面

 

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