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2011年8月 月次レポート(村松恭平 スイス)

月次報告書(8月)
村松恭平

短期派遣EUROPAプログラムの支援を受け、2011年8月よりジュネーブ大学・欧州研究所(Institut européen de l'Université de Genève ※以下、IEUG)にて研究を行う機会を頂いた。派遣初月である今月は、住居確保や滞在許可関連の手続き、研究に集中できる環境基盤をまずはしっかりと作ることを最優先とした。以下にて活動の内容と研究の進捗を報告する。
①住居確保と住居環境について
この街で予算に合った住宅を見つけるのは、学生のみならず、ジュネーブで新しく住居を探す誰にとっても非常に困難である。("Une grave crise du logement sévissant à Genève depuis plusieurs années""ここ数年の深刻な住宅不足の危機"とまでジュネーブ大学の事務の方から注意を促されていた。)特に学生にとっては一般的なアパートの一室を借りるのは家賃が非常に高く、需要は集中的に学生専用の寮やアパートに集まる。研究所からのアドバイスも受け、派遣決定からすぐに住宅確保のため様々な学生寮・アパートへ十数件打診したが、結局のところ日本出発時点で見つけることができたのは、たった1件(しかも8月分のみ)であった。しかし私の場合非常に運がよく、長期滞在のキャンセルが1件発生したため、結果的に派遣期間中はずっとこのアパートに住めることになった。設備が充実し、立地も研究所や図書館から近いといったかなり良い条件で満足している。
②滞在許可証等の事務処理手続きについて
滞在許可手続きの完了は9月中旬の正式な大学登録処理を終えるまで待つ必要があるが、スイスへ入国する前にできる限りの書類は作成し送付しておく必要がある。滞在許可申請期間は遅くとも入国から3カ月以内と少し余裕はあるものの、手続きのスピードが遅く、(メールの返信もしばらくなかったので)実際に申請書類の不備や不足を指摘してもらおうと担当部局へ足を運んでみたが、まだ書類に目も通してもらえていなかった。提出する書類の種類が多く、面倒な手続きであるため、ジェネーブへ留学を検討されている方には住宅確保の問題と共に注意を促したい。
③Cours d'été de langue française(ジュネーブ大学・仏語夏期講習)への参加について
語学習得は今回の派遣の目的ではないが、9月から始まるマスターコースの講義・ディスカッションにスムーズに適応するため、仏語の集中特訓コース(8/8-8/26, 午前中のみ)に参加した。(本コースへの参加は、派遣先である研究所事務からの推薦を受けていた。)仏語能力に応じてきっちりとクラス分けがなされていたため、自分に合ったレベルでスキルアップができた。この中で研究テーマに関するプレゼンテーションも実践した。
④研究環境について
派遣先であるIEUGは、"欧州研究"(études européennes)に関し、学際的な手法で教育・研究を行う研究所として国際的に有名であり、欧州地域主義・連邦主義(fédéralism)的な思想を基盤に持つ。ジュネーブに国際連盟の本部が置かれていた事実の通り、この街が国際社会の中で歴史的に果たしてきた役割と、スイスの連邦制度・多文化共存社会からの影響も受けていると考えられる。研究所の開始は9月中旬からの為、今月はジュネーブ大学の図書館に頻繁に訪れた。文献調査と確認を行い、研究に関連する文献(仏文・英文)を多く見つけることができた。
⑤研究活動について
私の研究テーマは"Jacob Vinerと欧州地域の関税同盟構想"である。関税同盟は地域経済統合(国境を越えて財や資本、労働の自由な移動等を可能にさせる統合)に関する概念・統合形態の一つ(B.Balassaが提唱した経済統合の5段階説)として理解されているが、この地域ブロック化とも言える関税同盟に関する思想や議論を、その舞台となった欧州の視点に重点を置きながら分析を行うのがこの派遣の主な目的である。今回は、『欧州経済の統合』(原題:L'Unification économique de l'Europe, l'évolution du monde et des idées / édition de la Baconnière, 1957)のRAYMOND ARON氏(元ソルボンヌ大学教授)の記述に特に注目した。
"欧州統合"構想の初期は政治的意図から始まり、米国、ソ連の政治的・経済的・軍事的脅威を背景に、欧州が個別の国民国家ではなく"欧州連邦"として一つにまとまるべきである、という議論が特に西欧の一部の諸国で高まったことが大きなきっかけであったと説明する。記述の中で特に目を引いたのは、1914年以前の欧州では相互自由貿易がスムーズに機能していた(貿易に関して国家間で輸出量制限が存在しなく関税も低く保たれていた)ことを背景に、経済は、完全ではないにしろ"統合"(unification/intégration)されていた、という指摘である。この記述によって"統合とは何か?"という重要な基本的概念を考え直す必要性を実感したと共に、この相互貿易システムの機能を不可にさせた"各国政府の介入"の意味を再度、重要な問題と認識する良い機会になった。
今月は指導教官が国連会議の為日程が合わず面会ができなかったが、9月に面会日程を確保している。次の報告書では、研究の内容と進展を中心に報告したい。

 

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