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2011年8月 月次レポート(中村隆之 フランス)

短期派遣EUROPA月次報告書8月

              
中村隆之(東京外国語大学リサーチフェロー/フランス社会科学高等研究院)

  8月のパリはバカンス期間中です。中心地は観光客で賑わいますが、パン屋、書店、レストランなど、この 期間に長期休暇を取る店も少なくなく、通りによっては、やや閑散とした印象を受けます。曇りと晴れが交互に続くような日々で、太陽が出ていない日は肌寒いほどです。
 今月は主に『フランス語圏カリブ海文学小史』の校正作業をおこないました。本書は、2010年度から本年度にかけての主要な研究成果の一部となるため、初校校正にはあらかじめ十分な時間をとり、丹念に仕上げようと考えていました。さらに、ブックレットという物理的制限にたいして、ページ数を超過してしまったことも加わり、今月は、文字通り、本書の校正刷りを細部にわたって見直す日々を送りました。全体で65ページほどの分量になる予定です。なお出版は10月下旬を見込んでいます。
 このほか、エメ・セゼールの訳書『ニグロとして生きる』(立花英裕氏との共訳、法政大学出版局)、および昨年の立命館大学での発表に基づいて加筆・修正した原稿「『高度必需』とは何か? フランス海外県からポストコロニアル状況を考える」(『立命館言語文化研究』)という、本プログラムに関連する原稿の校正もおこないました。セゼールの訳書では依頼された人名・事項索引の作成に時間を費やすことになりました。これらは、9月から10月にかけて刊行される予定です。
 また、先月から取り組んでいたマルティニックの作家パトリック・シャモワゾーの小説『カリブ海偽典』(塚本昌則訳、紀伊国屋書店、2010年)の書評論文を書き上げました。こちらは、岩波書店が刊行する雑誌の11月号に掲載される見込みです。
 2010年度に引き続き、資料調査をしておりますが、今月でようやくエドゥアール・グリッサンの全作品を収集することができました。グリッサンの作品は1997年にガリマール社から一斉復刊されており、それらは現在も書店で手に入りますが、初版は基本的に絶版です。詩人自身が今年まで存命だったこともあり、現在まで校訂版が出版されていないため、それぞれのヴァリアントを確かめるには基本的にオリジナル版をあたり、現行版と比較する必要があります。第一詩集『島々の領野』(Un champ d'îles 1953年)は500部、第二詩集『不安な大地』(La terre inquiète 1955年)は406部、第三詩集『インド』(Les Indes 1956年)は756部と、それぞれ少部数のため入手が困難でしたが、今回ようやく第一詩集を見つけることができました。同じく異同の多い戯曲『ムッシュー・トゥサン』のオリジナル版(Monsieur Toussaint 1961年)も今月入手しました。
 なお、来月は2週間、グアドループ島およびマルティニック島へ調査旅行に出かけます。9月は台風の季節とされるため、くれぐれも安全に留意して行動したいと思います。

 

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