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2011年8月 月次レポート(カン・ミンギョン ドイツ)

短期派遣EUROPA月次レポート(2011年8月)

カン・ミンギョン(ドイツ・国立ドイツ語研究所)

 今月は前半の2週間をミュンヘンで過ごしました。ミュンヘン大学で行われたサマープログラム「Deutsch-Japanische Linguistik(日独言語学)」に参加するためでした。ドイツ側からミュンヘン大学のElisabeth Leiss先生,ウィーン大学のWerner Abraham先生,ザルツブルク大学のHubert Haider先生,ミュンヘン大学の大学院生とポスドクの方々が参加し,日本側からも4人の先生方と数名の大学院生とポスドクの方々が参加し,統語論(Syntax),直示と前方照応(Deixis und Anaphorik),モダリティ(Modalität)の3つのトピックを中心とした講義を受け,議論を行いました。普段取り組んでいるテーマからは少し離れており,特に最初のHaider先生の統語論の講義は付いていくのも大変でしたが,やっていくうちに少しずつトピック間のつながりも自分の関心事との関連も見えてきて,様々な分野を幅広く勉強することの大切さを改めて実感しました。
 一例を挙げると,Leiss先生のモダリティに関する講義で扱われた,レキシコンと文法の区別,モダリティの語彙的表現手段と文法的表現手段,話法助動詞の証拠性(Evidentialität)とそれに関わる話法助動詞それぞれの相違などは私にとって特に興味深く,大いに参考になりました。周辺的なモダリティ表現として「scheinen + zu 不定詞」(...のように見える,...らしい)や「drohen + zu不定詞」(...のように思われる,...しそうである)についても触れられましたが,先行研究では,前者は認識様態の副詞(epistemisches Adverb)に相当すると言えるもので,証拠の出所ははっきりしないが証拠に対する判断の意味は認められる,それに対し後者には証拠の出所も判断もなく,認識様態的解釈も証拠性の解釈も認められない,という区別がなされているようです。両者の相違について興味があり,コーパスで少し調べてみたところ,drohenの場合はzu不定詞として完了相の動詞が現れやすいという傾向が見受けられました。もちろんさらに綿密な調査が必要ですが,もしそのようなことが言語事実としてあるとするならば,文法化の視点からの考察も可能だろうと考えています。今後扱ってみたいテーマの一つです。
 また,今回のサマープログラムでは「日独言語学」ということで,個人的には対照言語学の手法にも注目しました。講義や議論を聞きながら「韓国語ではどうだろう」を考えるのも楽しく,台湾やタイ出身の参加者もいたのでドイツ語・日本語の他に中国語・タイ語の視点からのコメントが聞けたのも,良い刺激になりました。現在取り組んでいるドイツ語の使役動詞・構文の研究に関しても,近いうちに日本語や韓国語との対照の観点を取り入れて広げていけたらと考えています。
 マンハイムに戻ってからは,引き続き,使役構文のデータ分析(lassen構文とzum ... bringen構文)と状態変化動詞に関する論文執筆に取り組んでいます。使役交替動詞の分析に関しては,基本的に,一つの動詞に使役的用法と非使役的用法の両方があるか否かという点が基準になりますが,日本語の他自動詞ペアに対応するドイツ語動詞は何かという観点で考えた場合,たとえば「倒す/倒れる(umwerfen/ umfallen)」のように,共通の前綴りにそれぞれ異なる基礎動詞(他動詞と自動詞)が結びついた動詞ペアが使役交替の関係を示すこともあるということを,先日ある書籍で知りました。これまでの研究で,ドイツ語には使役的用法のみの状態変化動詞が多いということが明らかになっており,それらの動詞において非使役的用法が制限される意味的要因を抽出することに分析の重点を置いていたわけですが,それと同時に,使役的表現と非使役的表現がそれぞれ別な動詞によって形成されるパターンについても体系的な分析が必要であることを,上例は示唆していると言えます。そういう意味でも,日本語・韓国語との対照という視点は有意義であると考えています。なお,9月中旬からはマンハイム大学の新学期が始まるので,いくつか講義を聴講してみようと考えています。

 

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