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2011年7月 月次レポート(カン・ミンギョン ドイツ)

短期派遣EUROPA月次レポート(2011年7月)

カン・ミンギョン(ドイツ・国立ドイツ語研究所)

 7月で大学が夏休みに入ったこともあり,研究所はいつにも増して各地からのゲストで賑わっています。滞在目的,研究領域,出身,立場,年齢などは様々ですが,「ドイツ語」というひとつの共通項ですぐに話が盛り上がり,数分話せばお互いの知り合いや関心事などで何らかの「つながり」を見つけることができるので,非常に国際的な環境で「世界は狭い」ことを日々実感します。
 今月は,主に2つの作業に取り組みました。まず一つ目は,春から取り組んでいる論文執筆の続きです。インフォーマントテストの可能性を検討しつつも,やはりコーパスで,しかし少し調査方法を変えてやってみました。具体的には,elexikoのやり方を参考に,IDSコーパスのKookkurenzanalyse(共起語分析)機能を利用して各使役交替動詞における名詞の対応を調査しました。そしてその対応のあり方に関わる要因としては,意味的要因のほかに,現実世界の有様(Weltwissen)と語彙化の関係や,またメタファー的表現はそもそも交替現象を示しにくいという特徴があるのでそういう点も含めて柔軟にそして多角的に考察する必要があることをEngelberg先生との面談等を通じて確認することができました。また,こういったコーパス分析を通じて交替現象に関わる状態変化動詞の実際の使用実態を明らかにすることの意義に関しても議論を深めることができました。
 次に2つ目として,上記との関連で,語彙的に使役的用法を持たない動詞の統語的手段による使役的表現形式(lassen構文と機能動詞結合zum ... bringen)に関するコーパス分析を同時進行で進めています。その際,意味的には物の状態変化に関する動詞と人間の行為に関する動詞,アスペクト的には完了と非完了の動詞を区別する必要がありますが,まずは物の状態変化を表す自動詞(platzen, bersten, explodierenなど)について,両形式の使い分けにどのような意味的相違が認められるかという観点でデータを眺めています。筆者の知る限り日本語でも使役他動詞とセル・サセル使役の区別は必ずしも明確にされていないように思いますし,ドイツ語でどこまで一般的な原理の抽出が可能かまだはっきりしない部分がありますが,使用頻度も含めて何らかの傾向が掴めたらと考えています。
 その他には,今月いっぱいで定年退職を迎える文法部門長のGisela Zifonun先生のための記念コロキウム&懇親会が今月下旬に研究所内で開かれましたので,私も参加させていただき,興味深い研究発表とディッスカッションを聞くことができました。特に結合価理論に関するJoachim Jacobs先生のお話や,Engelberg先生のコーパスを用いた結合価パターン分析に関する発表は大変参考になりました。後日Engelberg先生には関連テーマで一昨年から昨年にかけて共同で執筆した論文(動詞verbringenの語結合を分析したもの)をご紹介して,調査方法・考察内容に関するコメントを頂くことができました。結合価パターン分析は現在語彙部門で進行中のメインプロジェクトのなかのひとつに関係しているものなので,今後の展開にも注目したいと思います。
 なお来月は,ミュンヘン大学で開催される「サマープログラム:日独対照言語学」とワークショップに参加する予定で,しばらくマンハイムを離れることになります。

Kang7-1.JPG

派遣先であるドイツ語研究所の正面

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