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2011年6月 月次レポート(説田英香 ドイツ)

6月 月次報告

説田英香
派遣先 ドイツ フライブルク大学
派遣期間 2010年9月21日〜2011年8月6日

 今月は主に博士論文のコンセプトの再検討に取り組んでいました。本報告では、私のテーマ設定に関する現状について、歴史学の分野における先行研究の流れを簡単にまとめながらお伝えしたいと思います。私のテーマは戦後ドイツ連邦共和国の移民史であり、博士論文では当初,1980年代におけるトルコ出身移民を対象に彼らの定住過程を考察する計画でした。
 1990年代以降、文書史料の公開とともに、歴史学の分野においても私のテーマに関わる詳細な研究が可能となり、様々な視点からの研究が行われています。それまでは主に刊行史料を用いた通史的・概説的な研究がバーデやヘルベルトらによって行われていましたが、90年代以降、それらの研究成果が問い直され,補われたり修正されたりしています。この時期に現れた研究の大きな特徴は、多角的な視点により歴史が描かれている点にあります。とりわけ言及すべきものとして、移民自身に焦点を当てた研究が挙げられます。そこでは第三者および研究者自身によるインタビュー調査、あるいは自伝等が史料として用いられています。また、一個別テーマの移民史としてではなく、ドイツ史の枠組みで移民の歴史を語る傾向が強くなってきています。これらの動きは、ドイツの歴史的記憶の中に移民を組み込むことにより、彼らのアイデンティティを位置づけるという目的から行われているものです。
 公開されている史料の現状も反映し、最も研究の蓄積があるのが、戦後50年代半ばから70年代前半までにかけての「外国人労働者(Gastarbeiter)」の歴史です。これに対して、私が博士論文で取り扱う70年代から80年代に関しては、文書史料に基づいた詳細な研究の蓄積は乏しく、基本的には刊行史料に基づいた研究が中心で、全体を見渡す研究がほとんどです。その例外として、ドイツ連邦文書館より刊行されたシリーズ『1945年以降のドイツにおける社会政策の歴史(Geschichte der Sozialpolitik in Deutschland seit 1945 )』に収録された、ヘルベルトとフンによる研究が挙げられます。
 私の主な関心はこれまで、ドイツ社会への「外国人労働者」の「統合 (Integration)」の問題を70年代から80年代を中心にして描くことでした。この時期のドイツの移民政策に関しては、マイナスな評価が定着しています。外国人労働者とその家族の「定住化」傾向にもかかわらず、政府は彼らの「統合」への取り組みをおろそかにし、その機会を逃した、という批判的な認識です。これに対し,近年,バーデの最近の著書においても指摘されているように、歴史的にドイツの「移民社会」への道のりを振り返ってみると、様々な問題や失敗があったとしても、他のヨーロッパ諸国と比較して、その道のりは決して一般的に定着しているような否定的なものではなかった、という肯定的な評価が見られるようになりました。また、90年代当初に現れた移民の「統合」への展望は、当時言われていたほど悲観的なものではなかった、と上記のヘルベルトとフンによる論文で考察されています。 
 このような、移住者の「統合」に関する相反する評価をふまえながら,歴史学では未開拓であったローカルなレベルでの「統合」への動きを考察することを主な関心とし、コンセプトの設定をこれまで行ってきました。しかし、今月のヘルベルト教授との話し合いの結果、その動きを全面的に追うことは方法的に難しいという結論に至り、考察対象、時期と共に狭く範囲を絞る方向となりました。現段階では、1983年に実現された「帰国促進政策」に関する議論が行われた1979年から1983年までに時期を絞り、それに関する一連の動きを様々なレベルで考察するという方向でコンセプトの設定を進めています。
 7月15/16日には年に一回行われているヘルベルトゼミのワークショップが行われ、そこで報告の機会をもらうことができました。15分報告、15分ディスカッションと、枠は非常に限られていますが、そこではこれまでの研究の内容についてと現段階でのコンセプトについて報告を行う予定です。

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