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2011年6月 月次レポート(カン・ミンギョン ドイツ)

短期派遣EUROPA月次レポート(2011年6月)

カン・ミンギョン(ドイツ・国立ドイツ語研究所)

 春の2~3ヶ月間はほとんど雨が降らずその影響が心配されていましたが,今月に入ってからは時々雨が降り,そのおかげで暑さも和らぎ,過ごしやすい気候が続いています。日によって最高気温30度以上から20度以下まで,毎日の温度差こそ激しいものの,からっとした暑さで,雨も日本の梅雨と違って湿気もなくざっと降ってはすぐに上がるので気持ち良く感じます。大学の夏学期が終わり,宗教関係の祝日が3日もあったので,周りにはその前後でまとまった休みを取って1~2週間の休暇旅行に出かける人もたくさんいました。私は,友人の結婚式に招かれ,ドイツの結婚パーティーが体験できたので,それも一つ,良い思い出になりました。
 さて研究の進捗状況ですが,現在取り組んでいる論文の概要と関連データをまとめ,Engelberg先生と2回ほど面談の時間を持ちました。そこでは,主に方法論についての議論が中心になり,コーパス調査とは別にインフォーマント調査を行ってみてはどうかという提案をいただきました。使役交替現象を「動詞+名詞」のコンビネーションのレベルにおいて捉えるために,各動詞と結びつく項の名詞をコーパスデータに基づいて取り出し,交替が見られる場合と見られない場合(選択制限)の抽出を試みているのですが,コーパスに見られる・見られないというのはどうしても「たまたま」の部分があるため,手作業で行える規模のデータに基づいて何らかの意味的規則性を探るのは難しいのではないかというご指摘でした。インフォーマント調査もそのような曖昧性を排除できるものではないが,試しに小規模のテストをやってみようと考えています。なお,使役的表現のみの動詞については,何らかの動作主志向の意味要素を含意しているため非使役的表現が制限されるという説明が一般的になされていますが,中にはそのような意味要素を含まない形容詞派生動詞や使役的表現の主語として動作主(agent)のみならず原因名詞(causer)が可能な動詞も数多くあり,これらについては別なアプローチの分析が必要そうです。また,同じ語源とされる動詞でも言語によって統語的可能性が異なる場合があり(たとえば,英語のexplodeは他自両様であるのに対しドイツ語のexplodierenは自動詞用法のみで,英語のdestroyとドイツ語のzerstörenは同様に使役的用法のみだが,これらに対応するフランス語とギリシャ語の動詞では非使役的表現も形成可能である(Alexiadou et al.)など),この辺は必ずしも動詞の語彙的意味特性として説明できるとは限らないということがあります。英語の関連研究で,break, openのような典型的な使役交替動詞についてはcaused unspecified(使役的出来事が特定されていない→そのため非使役的表現が可能),destroyのような使役的用法のみの動詞についてはexternally caused(外的要因によって引き起こされる出来事を表す→そのため非使役的表現を形成しない)と特徴づけられることがありますが,これで両タイプの統語的相違を意味的に説明できたとは言い難いので,再検討の余地がありそうです。さらに,コーパスにおける出現頻度をどう解釈・意味付けできるかも重要な課題として残されています。現在インフォーマント調査について検討しているところですが,この原稿は当初の予定より時間がかかってしまっているので,なるべく急いで要領良く作業を進めたいと考えています。またインフォーマント調査に当たっていくつか参考にしたい点があるので,近々elexikoの担当の方にもお話を伺う予定でいます。

 

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