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2011年5月 月次レポート(カン・ミンギョン ドイツ)

短期派遣EUROPA月次レポート(2011年5月)
                                      カン・ミンギョン(ドイツ・国立ドイツ語研究所)

 今月は引き続き主に論文の作成に取り組むほか,研究所で開かれた2つのワークショップとEngelberg先生主催の博士論文執筆者のためのコロキウムに参加しました。
 現在執筆中の論文は,ドイツ語の状態変化動詞を使役起動交替の観点から分析するものですが,このテーマに関してはこれまで英語を中心に研究が展開されてきたため,ドイツ語の同現象を分析する際にもまずは英語研究における理論的仮説を検討にすることになります。英語とドイツ語は同じ語族で共通点も多く,参考になることは間違いないですが,しかし英語での仮説を通言語的に認められるものであるかのように安易にドイツ語に当てはめようとするのは危険,というのを最近改めて感じています。文献によれば,英語では使役交替現象を示す動詞がかなり多く,「状態変化」という概念が古くから非常に注目されているわけですが,ドイツ語の関連動詞を網羅的に調べてみると,交替動詞は意外と少なく,統語的に一見交替動詞に思える動詞でも用例をよく見てみると,非使役用法が「状態変化(完了)」ではなく「状態(非完了)」を表すものだったり,中間構文で「性質」を表すものだったりと,使役交替動詞とは区別されるものが多いことがわかります。このような語彙的制限(Verb restriction)に加え,結合名詞による選択制限(Selectional restriction)も認められ,実際に使役交替を示すケースは非常に限られていることが明らかになっています。今は,こういったことをドイツ語状態変化動詞の語彙化の特徴としてどのように位置づけられるかについて考察を進めています。
 5月初旬に研究所で開催されたInternetlexikographie(ウェブ辞書学)に関するワークショップでは,ベルリンブランデンブルク科学アカデミーのDWDSコーパスの最新情報を入手することができました。まさに現在行っている分析に必要な語彙情報(Wortprofil;共起成分の種類)の項目が新たに加えられていることを知り参考になりました。研究所のelexikoでも類似した語彙情報(Semantische Umgebung und lexikalische Mitspieler)の項目を見つけましたが,取り上げている動詞の数が少ないため,こちらもそのまま活用できるものではなさそうです。分析手法が気になりこのプロジェクトに詳しい方に聞いてみたところ,CCDBでまずKonkkurenzpartner(共起成分)を取り出したあとは,やはり手作業で分析・確認を行ったそうです。5月下旬にも関連テーマWortbildung im elektronischen Wörterbuch(電子辞書における語形成)で国際ワークショップが開催され,様々な研究発表を聞くことができました。メインテーマからは少しずれますが,私にとって特に興味深かった発表は,「学習者(上級)も母語話者と同じように語形成パターン(Wortbildungmuster)を使って新しい単語を作り出すのか?」という問題提起のもと,学習者コーパスと母語話者コーパスにおける分離・非分離動詞の使用を比較分析したものでした。その分析結果によれば,面白いことに,学習者のほうが母語話者よりも生産的に新しい語彙を作り,使用しているそうです。少なくとも,学習者は学習した語彙を使用するだけではないということです。このような分析を通して,新たに作られる語彙の使用傾向を調べるのも,語学教材・教育へのフィードバックを考えるのも興味深いテーマだと思いました。
 生活の面においては,今月中に予定されていた2回の引っ越しを無事に終え,気持ち的に落ち着きました。同じ月に2回も引っ越しをしたのは,当初の2ヶ月の契約が5月中旬に切れてからつい先日新しいところに入居するまでの2週間を別なところで過ごす必要があったためです。マンハイム大学のゲストハウスは100メートルほど離れた2つの建物で運営されており,その2つの建物を行き来したことになりますが,いずれにせよ,住まい探しで頭を悩ますことなく,派遣終了時までゲストハウスで生活できるのは大変ありがたいことと感謝しています。

 

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