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2011年2月 月次レポート(平田 周・フランス)

短期派遣EUROPA月次レポート(2月)
                                                                                                                                   平田 周

Hirata2-1.jpg 最初に、報告者が共訳者として行ったDémocratie, dans quel état ?の邦訳が『民主主義は、いま?』という邦題で2月15日に以文社から出版されたことをご報告させて頂きます。この間、様々な場面でお世話になった方々に、この場で感謝の意を捧げたいと思います。
 今月はパリ近郊に位置する人口13,000人ほどの小さな街、ランシー市にあるオーギュスト・ペレ(1874-1954)が建てた教会を訪ねる機会をもちました。ランシーのノートル・ダムは、「コンクリートの父」と呼ばれる建築家が建てた最初の鉄筋コンクリート造の教会として紹介されます。伝統的なゴシックの構造を持ちながらも、鉄筋コンクリートを用いることで細い柱に強度を持たせることに成功したこの教会は、それまで美的に醜いとされていた鉄筋コンクリートという材質を美的なものに高めたと言えます。また、教会自体の規模はそれほど大きなものではありませんが、ステンドグラスで四方が覆われた内部空間に入ると、ペレが学生たちに述べていた「純真な魂を見るためには光が必要だ」という言葉を、文字通り実地に則して理解できるような気がします。この教会が建てられたのは、第一次世界大戦が終結してから4年後です。ヨーロッパのコミュニティの場を形作る教区やそのコミュニティが集う具体的な場であると同時に象徴的な場でもある教会について思いを馳せました。

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               (ランシーのノートルダム(正面))           (ランシーのノートルダム(内部))

 研究のほうでは、2月17日にパリ第十(ナンテ―ル)大学で行われた、ルフェーヴルの日常生活批判のセミナールに参加する機会がもてました。セミネールの案内を教えてくれたサングラ氏を含めて、多くのルフェーヴル研究者と意見の交換が持てた貴重な機会となりました。
  このセミナーの参加を契機として、現在進行中の、ルフェーヴルの国家論の思想史的位置づけの研究だけでなく、ルフェーヴルの日常生活と都市との関係を改めて、当時のマルクス主義の潮流、とりわけアルチュセールの思想との関係で考察してみたいと思うようになりました。都市社会学における「ルフェーヴル・ルネッサンス」と呼ばれる状況があるなかで、なぜ、人間主義的マルクス主義と構造主義的マルクス主義という対立を再び取り上げる必要があるのか。アルチュセールの「理論的反人間主義」は、当時のスターリニズムにおける客観主義的経済決定論とそれに対抗する主体的人間主義の双方を批判するために、打ち立てられた定式です。しかし、しばしばアルチュセール解釈において言われるように、ヘーゲル、フォイエルバッハ、初期マルクス、サルトル、ルカーチ、ルフェーヴルを十把一絡げに「人間主義」のカテゴリーにくくることができるのでしょうか。アルチュセール自身は、無条件にこの言葉を用いることはできないと言っているのであって、むしろ問題となるのは、「人間主義」の条件づけではないのか。こうした人間主義の条件として、ルフェーヴルは日常生活や都市の主題を探求しているのではないのか。こうした考えから、現在、ルフェーヴルとアルチュセールの立場をそれぞれ〈実践の哲学〉と〈哲学の実践〉という類型をつくることによって、ルフェーヴルの思想史的な位置づけ直す研究に着手し始めました。

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