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2011年10月 月次レポート(村松恭平 スイス)

月次レポート(10月) 村松恭平

10月に入り、ジュネーブの朝夜はめっきりと肌寒くなった。気温がぐっと下がる日もあるので、体調管理には気をつけていきたい。少し振り返ってみると、8月にこちらに到着してから2カ月以上が過ぎ、滞在許可証や保険等面倒な手続きも終了し、普段の生活にも随分と慣れてきた。研究に関しても集中できる時間が増えたおかげで、徐々にペースが掴めてきたと感じている。生活全般の中で時間の使い方についてはまだまだ改善しなければいけない部分は多いが、焦らずコツコツと研究を進めていきたい。
 今月は、先月のレポートで少しだけ触れた①Frits Machlup, A History of Thought on Economic Integration (Macmillan Press Ltd, 1977 )と②William Diebold Jr, TRADE and PAYMENTS in WESTERN EUROPE (HARPER&BROTHERS,1952)の内容の豊富な二冊を中心に扱いながら研究を進めた。①に関しては指導教授であるM.Jovanovic氏より、本書が私の修士論文執筆のベースになるとの助言を受け、手にした書物である。そのタイトルの通り、経済統合の思想(idea)の歴史に注目し "統合"概念の流れや、経済統合の思想に関連した、またはその発展に貢献した様々な研究者や政治家などを具体的に挙げて紹介している。(国際)経済分野で"integration"という言葉が登場したのは1930年台以降であるというMachlupの記述は興味深く(それまではeconomic rapprochement, co-operation, solidarity, amalgamation, fusion, unificationという同類の言葉が主に使われていた。)この概念の検討は、何故西欧がこの経済"統合(integration)"を目指し、より具体的にどのような欧州を模索していたのかという疑問のスタート地点に立つための土台となる。
 Machlupは"統合(integration)"はその言葉の使用者によって意味や概念が微妙に(場合によっては大きく)異なり、誰もが一致するような定義を見出すのは不可能に近いと指摘するが、戦後欧州が目指した"統合"にその概念を絞って模索すれば、この言葉が当時持っていた意味は限定的なものとして捉えられると考えている。また、"欧州統合"構想の初期は政治的意図から始まったというRAYMOND ARONの指摘に可能性を探れば、戦後の"統合"概念の理解に関して重要な視点として、統合のスタートに大きく関与・影響したMarshallやHoffmanのような人物の言説もまた検証する必要がある。
 研究テーマに関して参考となる文献は非常に多く、しかもここジュネーブではそれらが比較的容易に見つかるので、今後はより積極的に多くの文献に当たっていきたいと思っている。(しかし資料収集だけ行って中身の吟味をしなければ意味がないので、その点は気をつけたい。)
 上記研究の他の活動として、欧州研究所が主催するMidis de l'Europeに参加した。(詳しくはhttp://www.
unige.ch/ieug/plate-forme/midis/Midis2011.html
を参照※仏語)月毎に替わるテーマはスイスが中心であることが多いが、欧州が抱える問題についてマクロな視点からのプレゼンテーションの後、識者と参加者が近い距離で議論をする。今回のテーマは"La Suisse, îlot de cherté ?"(そのまま直訳すれば、"スイス、物価高の小さな国"ではなかろうか。)欧州経済の中でもスイスの物価や貨幣価値は高く、その現状数値や問題についての議論であった。ご察しの通り、現在のスイス経済は日本と同じく通貨高に非常に苦悩している。先月ようやく中央銀行がスイスフランをユーロにペッグさせる政策を採ったが、それまではユーロに対して(更には日本円に対しても)一方的な通貨高に進行していた。想像し易いことだが、スイス経済を語る時(おそらく欧州の場合、どこの国もほぼ共通しているとは思うが)必ず他の欧州の国々との経済(貿易・投資・金融等)の結びつきを前提の基盤と置く。
 また、今月は国際連合欧州本部を訪れた。内部見学は指定の料金を払いガイドに付き従わなければならないが、説明を受けながら様々な会議室や、世界平和を願い各国から贈呈された美術作品、建物内の装飾などを見学できるのは、非常に興味深かった。ジュネーブにご訪問の際は、是非一度は見学をお薦めしたい。

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