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2010年9月 月次レポート(中村隆之 フランス)

短期派遣EUROPA月次報告書9月

                       中村隆之(東京外国語大学リサーチフェロー/フランス社会科学高等研究院)

 バカンスの季節が終わり、新学期が始まりました。居住先である国際大学都市にも世界各地からの留学生が到着し、にわかに活気付いてきました。バカンス中の8月には人通りもまばらだった近隣の道路は、朝は通勤客で混み合うようになり、眠っていたパリの街が動き出したかのようです。

 多くの大学院の授業は例年9月末から10月中旬にかけて始まりますが、所属先である社会科学高等研究院の授業は11月から始業になります。従って、私は現在ポスドクの身分のため研究機関には研究員として所属していますが、勉強のためにこちらの大学院の授業にも出席したいと考えています。

 今月はそのような次第で大学都市にいることが比較的多い月となりました。国際大学都市には国名や地域名を冠した大学寮が広大な敷地に点在しています。日本からの留学生は日本館に住むことが多いですが、私の場合はカンボジア館です。敷地の中央にある国際会館は、劇場、食堂、図書館などを備える複合的施設です。今月はこの国際会館内の図書館に通い、研究と論考の執筆を行いました。

 具体的な研究内容としては、先月に引き続き、論集『ブラック・ディアスポラ』のための論考の執筆を行い、完成させました。その後は、今月末に提出しなければならない別の論考に取り組みました。これはアメリカ合衆国南部の英語作家ウィリアム・フォークナーとグアドループ島生まれのフランス語詩人サン=ジョン・ペルスを、エドゥアール・グリッサンの視点を通して論じたものです。この論考は、短期間で準備しなければならなかったため、不消化な部分を若干残した感がありますが、寝食の時間をのぞけば文字通りこの論考執筆に大半の時間を費やした結果、期間内に完成させることができました。

 この論考の資料収集のために上述の図書館のほか、人間科学館の図書館(所属先の施設の図書館)や、エコール通り沿いの幾つかの書店にも通いました。サン=ジョン・ペルス関連の資料を収集するなかで、ペルスをカリブ海地域の文脈から読むという研究の一流派がいつ頃からどのように生まれたのかを知ることができたのは、研究課題に繋がる実りある収穫でした。

 また、研究の一環として、今月はパリ造幣局の特別展「アフリカ大美術へのオード」を見学しました。これは『プレザンス・アフリケーヌ』誌の創刊者アリウーヌ・ディオップが依頼し、アラン・レネとクリス・マルケルが1950年代に作成した短編ドキュメンタリー『彫像もまた死んでいる』で撮影したアフリカ美術の一部を一般に公開したものです。

 ドキュメンタリーを作成する際、二人の監督は、ギリシア・エジプト美術はルーブル美術館に収蔵されているのに、アフリカ美術はなぜ人類博物館に収蔵されているのか、という問いを考えざるをえなかったといいます。このような問題意識のもとに構成された展示は、展示品の鑑賞的価値のみならず、展示品と収集者、展示品と鑑賞者の関係までも考えさせる好企画であったと思われます。先月鑑賞したケ・ブランリー博物館の特別展「コンゴ河」に引き続き、フランスにおけるアフリカ美術についての考察を促す、大変興味深い展示でした。

 

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