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2010年12月 月次レポート(藤野りつこ フランス)

短期派遣EUROPA月次レポート(2010年12月)

                                                         パリ第三大学通訳翻訳高等学院(ESIT)留学
                                                                                                藤野りつこ

12月に入ってから、パリでは雪の降る日が続きました。フランスでは、クリスマスは家族が集う大事な日であり、街中の至る所でクリスマスツリーや電飾が見られ、華やいだ雰囲気を醸し出していました。

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                 雪の日のオペラ大通り                ノートルダム大聖堂


<12月3日:EU委員会フランス語同時通訳ブースチーフによるMaster Class>

この日は、EU委員会において、フランス語同時通訳ブースのチーフを務める、Franz Lemaître氏による特別授業が一日開催されました。
午前中は修士2年生、午後は修士1年生対象と分かれており、午前中の授業に参加してきました。
この授業は、当初の予定を過ぎ、4時間近くかけて行われました。Lemaître氏は親しみやすい方で、ご自身の通訳キャリアから始まり、EU機関、特にEU委員会関連で発生する通訳の現場に関するお話、また、各言語の需要や採用についてなど、貴重なお話をお伺いすることができました。
授業の後半は、「EU共通農業政策」(Common Agricultural Policy, CAP)をテーマとし、学生が2名、それぞれドイツ語と英語のスピーチをし、それを数名の学生が同時通訳ブースに入って、英語やフランス語など、それぞれの言語コンビネーションに応じて通訳する、という演習を行いました。通訳が終わった後は、共通農業政策についてのディスカッション、そして、同時通訳への講評やアドバイスをいただきました。
通訳の現場での経験豊富な方からのアドバイスや、実際の現場の話、また、通訳者に求められるものについてなど、多岐にわたってお話いただき、大変興味深い授業でした。
その中でも、今日のEU機関においてはもはや2カ国語間のみを通訳できるだけでは十分ではなく、数カ国語間の通訳が可能な人材の需要が増えており、また、EU新規加盟国の公用語を通訳できる通訳者の需要も増えている、という話が印象的でした。ここからも、言語の多様性に重点を置くEUの多言語主義政策の一端をみてとることができるのではないかと思います。

<12月14日:国際連合教育科学文化機関(UNESCO)65周年記念式典>

パリのユネスコ本部で働いている友人を通して、ユネスコの65周年を祝う記念式典に出席する機会を得ました。約3時間にわたって開催されたこの式典では、潘基文国連事務総長からのビデオメッセージが上映され、また、松浦晃一郎前事務局長や現Irina Bokova(イリーナ・ボコバ)事務局長を含めた歴代事務局長などが出席し、それぞれスピーチを行いました。世界中の民族舞踊や伝統芸能なども披露され、セレモニーを彩っていました。
この式典では、英語、フランス語、スペイン語、ロシア語、アラビア語、中国語での同時通訳がつきました。舞台の袖に並んでいる複数の同時通訳ブースに一斉に明りがつき、二名体制で実際に同時通訳をしている様子を間近で見ることができ、圧巻でした。ロシア語通訳ブースには、留学先であるESITの先生も入っており、思いがけなく、普段授業を受けている先生の実際の通訳を聞くことができました。また、声を聞き慣れているせいか、通訳が耳に心地よく響いたのを覚えています。特に、ロシア語に関しては、ロシア語スピーカーが、ロシア語や英語、フランス語を混ぜて話す場面がありましたが、その切り替えも難なくこなされており、プロの貫禄を感じました。
式典中は、主に英仏間の通訳を聞いていましたが、スピーチで多用されるフォーマルな表現やその訳し方、時事問題に関する表現、間の取り方や声のトーンなど、そして、実際に通訳をする環境や雰囲気を体験することができ、多々参考になりました。
また、同時通訳だけでなく、スピーチ自体(内容や構成、デリバリーなどを含めて)からも学ぶことは多々ありましたし、スピーチの合間に行われていたパフォーマンスも非常に興味深いものでした。ユネスコという国際機関についても理解を深めることができ、非常に得るものの多い体験でした。

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                 ユネスコ65周年記念式典                同時通訳ブースの様子


12月17日に留学を終え、18日に日本に帰国しました。
ESIT留学中は日仏間の通訳を中心に行ってきました。普段、本学の国際コミュニケーション・通訳専修コースでは日英間の通訳演習を行っているため、滅多にできない貴重な経験となりました。また、通訳の際の方法や心構えなどに関しては、どの言語間での通訳をするにあたっても通じるものがあったとしても、実際にその言語を使って常に通訳訓練を続けることがいかに必要不可欠なことかということを、この留学期間を通して、身をもって感じることができ、これも大きな収穫のうちの一つだったと思います。
世界中から集まってきた、年齢も経験も言語コンビネーションもそれぞれ異なる、会議通訳専門職を目指す多種多様な学生とともに学ぶことができたことも、大いなる刺激となりました。
さらに、修士修了研究作成においても、ESITでの経験を反映させることができ、より充実したものにすることができました。この2ヶ月半は何事にも代えがたい経験となりました。

最後になりましたが、この留学をご支援くださったITP-EUROPA委員会の皆様方、及び、留学の実現にご尽力くださった関係者の皆様方に、この場をお借りして深く御礼申し上げます。

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