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2010年11月 月次レポート(中村隆之 フランス)

短期派遣EUROPA月次報告書11月
                            中村隆之(東京外国語大学リサーチフェロー/フランス社会科学高等研究院)


先月に引き続き、今月もまた多くのことを学んだ月となりました。今月の主要な仕事としては、月末に立命館大学言語文化研究所主催の連続講座「グローバル・スタディーズ」の第四回目「カリブは周縁か」に報告者として参加することがありました。このため、今月は報告原稿の準備に勤しむ一方、授業に参加したり実地調査を行ったりすることで、より多角的に研究課題を検討する機会に恵まれました。

11月初旬から所属先の機関でのセミナー授業が開講しました。私が来年2月に報告する予定の日本研究所主催のセミナーに出席し、日本史家ギョーム・カレ氏の「正されるべき歴史:朝鮮王朝下の日本侵略の物語(17世紀~18世紀)」を聴講しました。朝鮮王朝下における歴史記述の時代的な変遷を辿ったこの報告では、歴史をいかに記述するか、歴史を記述するとはいかなる行為か、という抽象的かつ原理的な問いかけについて考察する機会を与えられました。と同時に、歴史家としてのカレ氏の謙虚な実証的態度、さらに日本語、朝鮮語を自在に操り、資料を読み解くその高い能力に啓発されました。研究課題との関連では、文学史をいかにどのような視点で記述するかという問いであり、フランス語のみならず他言語(この場合はとくにクレオール語)を勉強することの重要性を改めて考えさせられる機会となりました。

このほかに社会学者パップ・ンディアイ氏およびエリック・ファサン氏の共同授業「問われる人種化:ナショナルな構築とトランス・ナショナルな交通」の第一回目を聴講しました。ンディアイ氏は『黒人の条件:フランスのマイノリティについての試論』で知られており、私もまたこの著作を通じてこの授業に関心をもちました。セミナー教室に40名以上の受講者が詰めかけ、「人種化」、つまり人種としてのカテゴライズという今日的問題にたいする受講者の関心の高さがうかがえました。初回の授業では、導入にふさわしく、レヴィ=ストロースの『人種と歴史』から最近の著作までが時系列的に紹介されました。

授業以外では、翻訳・エッセイで活躍し、カリブ海文学の紹介者としても知られる管啓次郎氏(明治大学)の調査に同行し、パリの移民地区を見て回りました。今回の調査はストラスブール・サンドニ周辺で、アフリカ系の人々が美容室を営んでいる地区等を訪れました。また、この地区の周辺にニュー・モーニングという有名なジャズクラブがあります。別の日になりますが、この場所でマルティニックのクレオール詩人ジョビー・ベルナベのパフォーマンスが行われ、カリブ海に出自をもつと思われる多くの観客とともに参加することができたのは貴重な経験でした。

以上のように、授業や調査に出かける一方、報告原稿の作成も行いました。準備の過程で、西川長夫氏の『〈新〉植民地主義論』を精読することで、この著作を念頭に構想を練り直し、最終的に「『高度必需』とは何か? フランス海外県で〈新〉植民地主義を考える」という題名の原稿を準備しました。

一時帰国は、11月24日から12月2日の約1週間でした。立命館大学での報告は26日でした。司会は、比較文学者の西成彦氏(立命館大学)、パネリストには私のほかに、ラテンアメリカ文学研究者の久野量一氏(法政大学)、ジャマイカをフィールドとする人類学者で音楽文化研究家の鈴木慎一郎氏(関西学院大学)が参加しました。私は、2009年前半のフランス海外県のゼネストとその背景にある海外県問題を、写真を交えて解説しながら、海外県問題をグローバリゼーション下での植民地問題としてどのようにとらえられるか、ということについて報告しました。課題を残しましたが、今回、60年代に訪れたとされる海外県における消費主義が、この問題を考えるヒントになるのではないかという着想を得たことは収穫でした。司会の西氏のコメント、久野氏と鈴木氏の報告からは教わることが多く、報告者としては充実した会であったと思いました。

一時帰国中、東京で西谷修先生への面会や、研究資料の収集を行うことができ、パリでの研究生活の充実を図ることができたのは幸いでした。しかし、パリに到着後、不覚ながら盗難に遭遇し、パソコンをはじめとした貴重品を盗まれたことは悔やまれることです。幸い、日本から持参した研究書は無事でしたので、来月は研究態勢を立て直しながら、より一層研究に勤しみたいと思います。

 

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