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2010年10-11月 月次レポート(岩崎理恵 ロシア)

2010年10月・11月報告

                                               報告者:岩崎理恵
                                        派遣先:ロシア国立人文大学

 報告者は、日露青年交流センターの2009年度若手研究者等フェローシップにて昨年10月よりモスクワに滞在し、研究を進めていた。この10月からは、2010年度短期派遣EUROPA制度を利用して、引き続きロシア国立人文大学にて研修を行っている。研究分野は20世紀ロシア詩文学であり、中でも19世紀末から20世紀初頭にかけて活動したロシア象徴主義の代表的詩人、アレクサンドル・ブロークの創作を研究対象としている。
 研修は、人文大学のロシア古典文学科主任で、ブローク研究の権威であるD.M.マゴメードワ教授による個人指導が中心である。2年目の今年は、アウトプットを重視したスケジュールを組んでいるため、週2回文学部の授業を聴講する以外は、自分のペースで論文執筆作業を進めている。原稿執筆の合間に、指導教授とのコンサルテーション、ロシア語の添削をお願いしている家庭教師の先生との個人レッスン、ロシア国立図書館等での調べもの等の予定を入れている。
 ただ10、11月はちょうど学会シーズンであり、こうした作業よりも、外に出て他の研究者とのコネクション作りに重点を置くことになった。特に、2010年はブローク及び彼の盟友で、やはりロシア象徴主義の作家・詩人アンドレイ・ベールイの生誕130周年の年に当たるため、さまざまな記念行事が企画されており、前々から楽しみにしていたのである。
 まず、10月10日から12日にかけては、モスクワで行われた国際学術会議「A.ブロークの創作の源泉及び文脈としてのバイオグラフィー」に参加した。今回は一日目がモスクワ郊外シャフマトヴォのブローク博物館保護区でのエクスカーション、その後2日間はロシア科学アカデミー世界文学研究所内での報告会、というプログラムであった。(シャフマトヴォについては以下のリンク参照)http://www.jrex.or.jp/ja/03_2009fellow_ja_03.html
 これまで論文や著作でしか知らなかった研究者らと知り合い、その報告を聞く機会に恵まれ、非常な刺激を受けた。中でも感激したのは、「ロシア象徴主義の歴史」の著者であり、イギリスを代表するロシア文学研究者、アヴリル・パイマン教授にお会いできたことである。こうした「大御所」と並んで、若手研究者と知り合えたことも、嬉しい収穫であった。今回、ブロークの詩の日本語訳について報告したモスクワ大学アジア・アフリカ研究所のニーナ・ファリゾワさんとは、詩の解釈と訳詩への移しかえという共通のテーマについて、今後も協力して研究を進めていくことができそうである。報告者にとって、これが初めてのブローク学会であったが、この場で出来たつながりを大切に研究に生かし、来年はその成果を報告したいと思っている。
 次いで10月25日から30日にかけては、国際学術会議「変容する世界におけるアンドレイ・ベールイ」が開催された。こちらは、学会の一環として、モスクワ旧アルバート通りのアンドレイ・ベールイ記念館で開かれた展覧会「キリル・ソコロフの挿絵によるアンドレイ・ベールイとアレクサンドル・ブローク」オープニングにのみ立ち会った。画家キリル・ソコロフは前述のパイマン女史の夫であり、残念ながら2004年に亡くなっている。この日は開会の辞を述べたパイマン教授のほか、入館者の中にも、ブローク学会ですでに見た顔がちらほらあった。
 11月最終週には、サンクトペテルブルグに研究旅行に出かけた。25日から27日にかけては、サンクトペテルブルグ国立大学文学部で開かれていた国際学術会議「ロシア詩学-100年の総括と発展の展望-」に出席した。これは同大学(旧レニングラード大学)の元教授で、「ロシア詩作法」の著者であるV.E.ホルシェヴニコフの生誕100年を記念して企画されたものである。2日間にわたり詩テキストの分析と記述の方法、フォークロア詩研究、比較詩学、詩学理論と現代詩におけるその実践など、様々な観点からの研究成果が発表された後、最終日には表題通り、詩学研究の歴史とホルシェヴニコフ教授の業績を振り返る場が設けられた。ただ、1日に3つのセクションが同時並行で進行する中、掛け持ちで後述する別のイベントにも参加していたため、いささか断片的な理解しか残らなかったのは心残りである。
 11月28日は詩人アレクサンドル・ブロークの生誕130周年記念日だったが、これに先駆け、コロムナ地区のブロークの家博物館(詩人が晩年の9年間を過ごしたアパート)で開かれていたイベントにも参加した。27、28日にかけて恒例の「ブローク講座」が行われ、ロシア文学研究所、通称プーシキン館の研究者を中心に、20名ほどの関係者が報告を行った。博物館本体も開館30周年という節目の年を迎えたこともあって、モスクワからの参加者も多く、ブローク学会の際は体調不良で姿が見えなかった、出版社「プログレス・プレヤーダ」のスタニスラフ・レスネフスキー編集長も駆けつけ、いろいろと面白いエピソードを披露してくれた。また、ロシア文学研究所が発刊している論文集「アレクサンドル・ブローク 研究と資料」の最新刊もお披露目された。
 このように、この二カ月は忙しくも充実していた。今回見聞きしたこと、考えたことを糧に、また気持ちを新たに自分の研究に取り組んできたいと考えている。

 

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