トップ  »  新着情報  »  2011年11月 月次レポート(村松恭平 スイス)

2011年11月 月次レポート(村松恭平 スイス)

月次レポート(11月) 村松恭平

 11月に入り、友人との会話も、新聞やラジオ・テレビ等メディアの取り上げる内容も、専ら昨今の"欧州債務危機"がその中心を占めている。もちろん日本でも大きく注目されてはいるが、実際にこの"震源地の近く"(※スイスはユーロ圏ではなくEUにも加盟してはいないという意味で"近く"を加えた)に身を置いていることもあり、この問題に対してとても敏感になっている。一般に言うこの"債務危機"は、その結末によっては欧州のみならず世界全体をも巻き込み、政治や経済、社会に大きな負の影響をもたらしかねない。例えば昨日(11/30)、欧州危機によって貿易量が極端に減り苦境に立つアフリカの記事を目にした。このように、危機は日々進行しており、現在(12/1)時点では未だ解決の兆しがない。

 今月は、ジュネーブに到着して以来数冊の文献から集めた情報や資料の整理を主に行った。欧州経済統合に関する様々な箇所から私の研究テーマに活かせそうな部分を引っ張ってきたものの、多くが収集しっ放しの状態で保存されていたので、再度これらの情報が自分の論文にどのように活かされるかを考えながら自分の意見を加えていった。(論文では他人の意見の寄せ集めではなく、あくまで"自分の意見"を主張しなければならないことをM.Jovanovic教授は度々強調されているので、この点には特に注意している。)また、これ迄参照した、または今後調べてみたい文献をまとめた"参考文献表"を作成した。この文献表をアップデートしていくことによって、自分がどの文献を参照したかをチェックしたり、今後調べようと予定していた文献を見落とさないことに役立つ。
 また、欧州統合の歴史の調査においてはDusan Sidjanski, The Federal Future of Europe - From the European Community to the European Union (The University of Michigan Press, 2000)を主に参照し読み進めることとした。著者は欧州統合において連邦主義者(federalist)の立場であり、米国で主流である新機能主義(neofunctionalism)では欠けている連邦主義的視点を中心に据えながら欧州統合の歴史とその背景の説明を試みている。
 次に、自身の研究を進めることと同時に上記の欧州債務危機の進行とその議論を追った。M.Jovanovic教授の講義においてもこの欧州危機をテーマとして様々な欧米メディアの記事や専門家のコメントを読んでいる。危機の本質は欧州経済統合の歴史やそのプロセスに深く関わってくるので、時代は違っているとはいえ無関心ではいられない。(第二次世界大戦前後の欧州経済統合の議論を中心とした)研究の延長線上に昨今の問題があると認識すれば、欧州危機で展開されている議論を追うことも、研究を深く掘り下げることに繋がるであろうと考える。
 研究内容もそうであるが、この債務危機の背景には、ヨーロッパに関わる"アイデンティティ"の問題も潜んでいる。今月はドイツのテュービンゲン大学の学生が研究所に訪れ、このヨーロッパ・アイデンティティの問題や、連邦主義(federalism)に関する討論会を行った。また、11/30にはスタンフォード大学のフランシス・フクヤマ氏を招いて、"ヨーロッパ・アイデンティティとは?"(Identités Européennes?)をテーマとした講演会も催されるなど、この問題を再考するよい機会となった。ジュネーブ大学ではこうした数多くの小~大規模なシンポジウムが催されるので、この派遣の機会を有効に活用するため、今後もこうしたシンポジウムに可能な限り参加していこうと考えている。

Muramatsu11-1.JPG※写真は、11/30に催されたフランシス・フクヤマ氏の講演会場(ジュネーブ大学/Uni-Dufour)の様子

 

このページの先頭へ