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2013年2月 月次レポート(鈴木佑也 ロシア)

2013年度2月月次報告(鈴木佑也)

 今月は一月の月次報告で述べたように、中旬に学術会議での発表が控えていたので、その準備にほとんどの時間を費やすことになった。今回の助成による研究の一区切りとして、一部ではあるが、その成果を報告できたと思う。
 この学術会議は日本の文化と歴史を扱うテーマとなっており、私の場合は度々月次報告で指摘してきたブルーノ・タウトとフランク・ロイド・ライトが共に1920~30年代のソヴィエトと日本での滞在経験があり、外国人建築家から当時のソヴィエトと日本建築がどのように映ったかというテーマで報告を行った。
 もちろん、この学術会議での報告者のほとんどは日本の歴史や文化に関するものであったが、幾人かは私のような日本とロシアないしはソヴィエトの対象分野を比較する手法で研究報告していた。こうした手法は、おそらく外国文化研究において最もスタンダードであるし、自らが立脚する文化背景を再認識する上で有効な手法である。確かに、自らの研究テーマからやや離れた対象を扱うことになるが、こうしたことは研究に取り組んでいる際に見落とす傾向にある一般的な認識であったり、比較対象によって得られる対象が有している独自の点の発見を手助けしてくれる。そのため、自らが立脚する国の文化を研究する研究者との交流ないしは彼らが組織する学術会議等に参加することは私にとって有益であった。
 興味深いことに、この学術会議における芸術関連の発表では、我が国の伝統絵画(浮世絵、水墨画等)や文学が多かったが建築に関連した発表は私のみであった。おそらく、現地の建築関連学術会議ではそのような報告があるのだろうが、文化関連の学術会議で建築分野がほとんどないという状況はわが国のロシア文化関連の学術会議における状況と似ている(もちろん、わが国において該当分野における何人かの研究者がいるが、他の芸術分野に比べて圧倒的に少ない)。私の研究は文化事象としてのソヴィエト建築界の動向を分析することであるが、もちろんその頃に建造された建造物や建築プロジェクトも研究対象に含まれている。建築物は我々の生活において身近であるし、実用品としても接する機会が多いにもかかわらず、外国文化研究において、何故あまり取り上げられないのであろうか。もちろん、他の外国文化研究においてはそういうことはないかもしれないが、知る限りでは同じような状況である。こうした疑問は研究テーマと直接関連していない。だが、より根本的なところで自らが何故建築という分野を扱うのかということを突き詰めることになり、また常に自らの研究テーマの意義考察に立ち返らせてくれると考える。
 そのため、研究テーマ以外にも研究者としての姿勢を再び考えさせてくれる機会がこの学術会議に参加して得られたと思う。

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