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2013年2月 月次レポート(桑山佳子 スイス)

短期派遣EUROPA月次レポート
2013年2月

博士後期課程 桑山佳子
派遣先:スイス・チューリッヒ大学

 まずは、2月11日からチューリッヒ大学で行われたゼミナール「文字、文化、翻訳」について報告したい。このゼミナールはもともと学士課程の学生向けのものだったのだが、実際の参加者は修士課程一人と報告者を含めた博士課程の学生二人の三名で、結果として多く議論ができ、多くを学んだゼミナールになった。元々聴講のみの予定で参加したのだが、先生のすすめもあり報告者の博士論文のテーマに絡めて、多和田葉子のTalisman(1996)に収められたエッセイ"Das Tor des Ubersetzers oder Celan liest Japanisch"について発表させていただくことができた。アルファベットで書かれたテクストから漢字等が使われるテクストへ翻訳が行われる際、文字の視覚的効果が翻訳に与える影響について発表した。少人数でのゼミだったこと、授業のテーマと報告者の博士論文の方向性が合致していたことから、報告者自身の研究で浮かんでいた疑問点なども率直に話し合うことができた。また、文字そのものに対する日本語とドイツ語の感覚の違いについても詳しく知ることができた。このゼミの準備のために読んだ論文は、学部生向けのものだったためか日本語で書かれたものはなかった。しかし、どれも翻訳と文字の問題を考えるうえで欠かすことのできないもので、議論を通じて報告者自身の博士論文のテーマの方向性も確認できる、大変有益な体験になった。
 このほか、個人的な作業では2月には11月に行われたヒルデスハイム・セミナーの原稿を提出した。加えて、3月に行われるこのプログラムの報告会の準備も兼ね、これまで読んだ文献や書いたものの見直しとこれから読む文献の整理を行った。
 2月14日をもって、短期派遣EUROPAプログラムでの報告者のスイス派遣は終了となった。振り返ってみると、11か月は本当にあっという間だった。シュタイネック教授やタン先生、日本学の先生方そして友人たちからは研究の内容面でも、研究と生活のバランスのとり方などの面でも多くを学んだ。また、スイスにはドイツ語をはじめとする四つの公用語があり、同じドイツ語圏内でも地域によって異なるスイスドイツ語を話す。このような多言語状況が日常に浸透しているチューリッヒは、言語と翻訳の問題を考えるうえで報告者にとって最適な場だったと感じている。この成果をもとに、着実に博士論文の執筆を進めていきたい。

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