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2012年1月 月次レポート(堀口大樹 ラトヴィア)

1月報告書

堀口大樹

 最後の1か月となったが、最も充実した1か月であった。
 派遣期間開始の10月から12月初めにかけては、博士論文の骨子となる2回の学会発表の準備に追われていたため、本格的な博士論文の見直しは12月初めからのスタートとなってしまった。しかし5章からなる博士論文を、2章から5章、最後に1章という順番で、12月末に1回、1月中に4回、計5回現地教官に時間を個別に割いて頂き、博士論文の論旨について章ごとに指導を頂いた。派遣期間中に博士論文全体の要旨を何とか見ていただくことができた。
 指導方法は、日本語で書いている博士論文を章ごとにラトヴィア語でレジュメとしてまとめ、それを事前にメールで送り、現地教官から特に意見を仰ぎたい箇所をマーカーで示しておき、実際に会って指導を仰ぐというものである。レジュメは1章あたり、用例を含めて8枚から15枚ほどで、指導時間は1回あたり1時間半から2時間半であった。指導教官は現在アカデミー文法を執筆しており、派遣者の研究テーマである動詞アスペクトの箇所の執筆の〆切が1月であったことから、彼女にとってもタイムリーな話題であったようで、多忙であるにも関わらず、快く指導の時間を割いてくださった。
 1月の中旬から下旬にかけては、去年の2月に初稿を出した論文の見直しも行った。英語で書いた論文で、英語母語話者による英語の校正が必要という指摘を受けたため、ラトヴィア系アメリカ人の友人にメールで論文を添削していただいた。
 またラトヴィア語の学習を促進する国家機関のラトヴィア語局へ呼ばれた。派遣者は駐日ラトヴィア大使館でラトヴィア語教室を開催しており、日本におけるラトヴィア語学習の発展や教科書作成のプロジェクトについて語り、助言を得たり、ラトヴィア語局出版の教材を頂いた。
 1月の中旬は、派遣者が聴講していた学部生向けの授業を担当していた講師の方の博士論文の審査に立ち会えることができた。発表時間は30分程度、査読者3人による質疑応答が1時間、休憩を挟み、審査員約10名による審査発表という流れである。花を贈る文化が日本よりもずっと浸透しており、発表者や審査院、審査を聞きに来た人たちが互いに花を贈りあっているのが、日本とは異なる風景であった。また発表者の家族も審査に立ち会っていたのが印象的であった。
 12月の国内の学会発表で使用し、博士論文でも使用するのは、国営ラトヴィアラジオの「よりよく生きるには(K? lab?k dz?vot)」である。この番組はインターネット上で視聴、ダウンロードが可能である。2010年の春より用例の収集を始めており、これまで約150回分の番組をすでに日本で視聴していた。この番組は、生活の身近な話題から学術的な話題について、毎回ゲストを招く生放送の番組で、平日の9時から11時まで、1日に2つのテーマから構成されるラトヴィアラジオの看板番組である。この番組は、ニュース番組のようにあらかじめ用意されたテキストを一方的に読みあげるのではなく、話し手は言葉や表現を選ぶために言い直したり間を置いたりすることから、その場で自由に会話をしていると思われていた。さらに生放送のため内容の編集が後からできないこと、リスナーからの電話質問という番組進行に予測不可能な要素があることから、番組内の司会者、ゲスト、リスナーの3者のコミュニケーションは、展開を完全に予測することが不可能な"生の"会話であると思われた。
 話し手がテキストを読んでいないこと、どのような雰囲気の中でコミュニケーションが行われているか、ゲストはどの程度事前に司会者と打ち合わせをするのかを確かめるため、このラジオ番組のスタジオを以前より見学したいと思っていた。しかし、友人の姉が国営ラジオに勤めていたことをきっかけにして、すんなりスタジオにお邪魔することができた。        
 派遣者の思っていた通り、話し手はテキストを読んでおらず、番組の流れは非常にゆるやかで、自然な会話を体現していた。博士論文の見直しをする順番の点においても、このラジオ番組を資料としている最終章の見直しの時期にスタジオ訪問の時期を合わせることができた。番組の始まる前には、司会者とゲストの簡単な打ち合わせに立ち会わせていただき、番組前半は生放送の番組をガラス越しに見ながら、番組プロデューサーから番組の制作についてお話しを伺い、番組後半にはスタジオ内の隅に座り、司会者とゲストの会話をより身近に観察することができた。
 また派遣者がこの番組を日本で150本視聴し、ラトヴィア語の研究に使用していたことを番組制作側は良く思ってくださったようで、その翌日の回にゲストとしての出演依頼を頂き、「ラトヴィア、ラトヴィア人、ラトヴィア語について」というテーマで派遣者自ら出演をさせていただいた。会話の中心のテーマは、外国人から見たラトヴィアやラトヴィア人についてであったが、研究のために日本でこの番組を150本分聞いていたことにも触れてくださり、ラトヴィアの接頭辞についての博士論文を書いていること、どうしてこの番組を研究資料としているのかを話した。番組は1月20日に放送され、インターネットで試聴が可能である。(http://lr1.latvijasradio.lv/zinas/16905.htm
 また1月25日には国営テレビの朝の生放送番組「おはよう、ラトビア」(Labr?t, Latvija!)にも出演の依頼を頂き、日本におけるラトヴィアの認知度や日ラトの交流の分野を語ったほか、ラトヴィア語を研究し、博士論文を執筆中であることにも触れた。番組はインターネット上で閲覧可能である。(http://ltvzinas.lv/?n=zinas&id=4643 59:45から)
 ラトヴィアでは現在ラトヴィア語が唯一の国語だが、国内の人口の約4割がロシア語を母語としており、2月18日にロシア語をラトヴィア語と並ぶ第2の国語にするかの国民投票が行われる。こういった時期柄、ラジオでもテレビでも、ラトヴィア語を研究し、ロシア語も解する外国人としての意見を求められた。
 ことばの知識は決して邪魔にはならない。ラトヴィア人同士がラトヴィア語で話す際にもロシア語の単語や表現を使うこともあれば、ソ連時代のジョークはその部分だけロシア語で話すということもある。ラトヴィア人達とラトヴィア語で話している中で、彼らと同じタイミングでロシア語のジョークを笑うことができ、ロシア語を通じて、彼らに残るソ連時代の記憶を垣間見ることができる。そのことから彼らと共通の知識であるロシア語は、逆説的だが、ラトヴィア人と自分を近づけてきてくれた。しかし一方で、ラトヴィア語が唯一の国語でなくなれば、ラトヴィア語を解さなくてもラトヴィアを知ることができるようになり、外国人がラトヴィア語を学ぶ意義は半減してしまうであろう、という個人的なコメントをさせていただいた。
 11月の10日間の一時帰国をはさみ、10月から1月までの今回の派遣では、2回の学会発表や授業聴講、現地教官からの個別指導を受けることができ、博士論文の見直しやラトヴィア語を現地で外国人として研究することの意義を考えることができた。この派遣の経験を生かし、帰国後も頑張りたい。

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