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2010年8月 月次レポート(テーイプジャン・ユスプ トルコ)

UFS-ITP月次レポート2010-08
                                                                                                Tayyib Yusuf

 8月に入り、イスタンブルでは猛暑日が続き、まるで東京の暑さと湿度を思い出させる毎日だった。が、8月11日から断食月(ラマダン)が始まったということが大きな理由で、暑い日々にもかかわらず、イスタンブルでは普段よりも多くの大型イベントが開催されていた。レポートの最後に、その中の一件を紹介する。

 さて、派遣先機関における指導教員との連絡状況であるが、大学が夏休みに入ったということで、ウチュマン教授も8月前半は夏休みを取られたので、後半になってから連絡を取り、教授の研究室を訪問して調査研究の結果を報告した。また、先月メールにて教授に提出した論文に関しては、教授から「全部についてまだ目を通していないが、できるだけ早めに返答します」という返事を頂いた。教授の研究室では、書架にあった書籍や資料が箱の中に山ほど片づけられていて、教授によると、断食祭り(9月9日)の後、ウチュマン教授が所属するトルコ語・トルコ文学科が現在の所在地であるサルパザル(ベイオール地区にある)からシシリ地区に移転するという。

次に、この一ヶ月の研究状況についてであるが、主に、11月下旬にパリで行われる予定の国際ワークショップに参加することを目標として(最終的には不採用となった)、移民・移住問題に関するデータ収集を行った。対象として1860年代イスタンブルで創刊されていたオスマン・トルコ語の定期刊行物のうちTercümân-ı Ahvâl紙に目を通し、新聞に掲載されていたチェルケス人移住問題に関連する記事の統計・分析を行った。この中で、一紙を取り上げるだけでは、移住・移動問題に関するデータを量的に収集することができても、質的にはまだ不十分であると判断し、更に分析対象(ニュースなど)を発掘することの必要性を感じた。そして、1840年以降、特にクリミア戦争(1853-56)以降、オスマンの定期刊行物に反映された移住問題に関する記事も分析対象に取り入れ、1860年代の移住問題と合わせて分析することによって、伝統期におけるオスマン帝国の移住政策や移住問題と違い、衰退期や改革期におけるオスマンの移住政策や問題の変容の一端を明らかにする上で一つの試みになるのではないかと思った。それは、1860年代に誕生したオスマン・ジャーナリズムに関する思想史研究やケーススタディ(新聞の内容の分析など)といった研究方法以外に、オスマンの改革期であるタンズィマートにおける定期刊行物に新しい価値をもたらす研究になりうるということだろう。これからは、定期刊行物・資料の収集や解読以外に、こうした方向についても、史料を集めることを研究の一部としたい。

  研究活動のほか、現在のトルコで最も議論されている憲法改正問題について触れたいと思う。今年9月12日に行われる国民投票によって、憲法改正が承認されるか、されないかが決まる。ところで、この憲法改正は、イスラーム色が強い与党のAKP(公正発展党)が強く主張してきた事であり、軍による政治介入の排除などが改正の目的の一つである。そのため、国民投票に向けて、先月から与野党党首らの地方遊説が始まり、憲法改正を主張する与党の公正発展党とそれに反する野党のCHP(共和人民党)やMHP(民族主義者行動党)の間で論争が行われている。結果予測は難しいものであるが、テレビ、新聞やインターネット等メディアにおいては、憲法改正が与党である公正発展党の権力の強化をすることになるのか、あるいは、トルコの民主主義を本当の意味で強化することになるのか、という点で激しい議論が行われている。
 
Tayyib8-1.JPG 写真(右)は、「エヴェット(憲法改正に賛成)」というスローガンを掲げ、宣伝活動を行っている与党である公正発展党の宣伝車。

  最後に、冒頭で触れた大型イベントのうち、第29回トルコ書籍・文化フェアを紹介したいと思う。例年はスルタン・アフメットモスクの中庭で行われてきたフェアであるが、今年は8月17日からバヤズィト広場で開催された。約130以上の出版社が出店しているフェアで、展示されている書籍を分野別に分けてみると、約7割がクルーアンやクルーアン朗読するためのハンドブック、「イルミハール(İlmihâl)」と呼ばれているイスラームの基礎が詳細に紹介されている書籍、お祈りガイド、そして児童教育に関する書籍(やはりイスラーム的な内容がメイン)等、イスラームや児童教育に関連する書籍で占められている。2割はオスマン帝国やトルコ独立戦争に関する歴史書籍、残りの1割はイスラーム神秘主義や神秘音楽、そしてオスマンの書道文化等芸術・文化に関する書籍やCDという構成であった。こうした割合を、初めてトルコ語の出版社が創られた約280年ほど前のオスマン社会と比較すると、文明化の指標の一つである書籍や出版社の数が大幅に拡大し、特に宗教に関する書籍と歴史に関する書籍の比率が歴史変容の中でじわじわと逆転しつつあることが分かる。これは、トルコ社会におけるイデオロギー変容あるいはイスラーム勢力の拡大を表している一つの象徴のように思われる。9月5日まで続くフェアで展示されている書籍は大凡30~50パーセントの割引で販売される。一方、フェア会場の隣では、バヤズィト国立図書館の前に「ラマダンにおけるイスタンブル・イベント:バヤズィト舞台」という大きな表題が掲げられた舞台が設置され、ラマダン月は毎晩12時まで(フェアの閉店時間まで)「イラーヒー(İlâhî)」と呼ばれているイスラーム的音楽ジャンルの演奏を始め、様々な文化活動が行われている。「イラーヒー音楽」の中身はやはり神や預言者を称賛するものであった。

Tayyib8-2.JPG Tayyib8-3.JPG 
写真はフェア会場の一角と音楽会場

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