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2009年3月 月次レポート(澤井志保 中国)

月次レポート(20093月)

                        博士後期課程 澤井志保

 

3月になり、今回の香港での調査を締めくくる時期がやってきました。

 

香港中文大学での受け入れ教員のナカノ先生、人類学学科のマシューズ教授には、調査をまとめる上での疑問や問題に関して、何度か面会して相談に乗っていただきました。また、香港大学の人類学学科のシム教授にもお会いして、フィールドで経験した事実をどのようなレベルで理論化するかという問題について、非常に有益なコメントをいただきました。

今回の滞在で、図書館での研究資料閲覧システム、大学院生への学費支援などの点において、香港の大学は非常に優れていることに気づきました。加えて、現在、香港で学ぶほとんどの大学院生が、英語または英語とのバイリンガルで研究を行っていることにも印象付けられました。友人いわく、10年前は状況がかなり違い、中文大学でも英語ができる学生は少数派だったということですが、今では、だいたい香港のどの大学でも、英語を使いこなすのは当然のこととみなされているとのことです。香港の大学が、グローバル化が進む学術研究の世界に素早く対応している様子を目の当たりにして、同じ東アジア出身の学生として学ぶことが多くありました。

 

FLP香港(家内労働者文学コミュニティ)についての調査では、この6ヶ月間の参与観察で、彼女ら女性家内労働者の活動内容の概要をある程度つかむことができました。しかし、全員が集まる定例ミーティングが月2回であることと、彼女らは休日においても、雇用者によって外出時間が制限されていることも多いため、忙しい彼女らと共有できる時間が想像以上に限られていたのは少し残念です。しかし、そのような非常に限られた休日の活動に、私のような外部者を受け入れてくれたこと自体に、心から感謝しています。いずれにせよ、個別インタビューができなかった部分は、メールでの質問票などのオルターナティブで、できる限り情報を補完することにしました。

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モスク内のハラル飲茶食堂でお別れ会

 

シェルターでのボランティアでは、インドネシア人のスタッフと相談した結果、希望者を対象に、文筆ワークショップを開催することにしました。このシェルターでは、労働調停や裁判などの緊張度の高い問題に直面している滞在者の気持ちをやわらげ、また、彼女らが新しい知識を吸収できるように、無料の広東語や英語レッスン、刺繍などのプログラムを開催しています。この文筆ワークショップに関しては、書くための技術を教えるというというよりは、日ごろから、多くの理由で自分の気持ちを押し殺してしまうことに慣れている彼女らに、まず自分の気持ちを言葉にして、外に表現する機会をもってほしいという願いを出発点として実現しました。ですので、ごく簡単な練習を何回か行った後、自分の経験をもとにしてショートストーリーを作成し、互いの文章を共有するという内容で行いましたが、彼女らが自由に書いた文章を読んで、彼女らがかなり高い文章力をもっており、また、非常に豊かな経験と感情を心の中に秘めているのだということがわかりました。今回は時間が非常に限られており、何かの結果を出すというよりは、今後のニーズを読み取るためのいわば実験的な催しとなりましたが、彼女らの書く力を少し過小評価していたことに気づかされた、うれしい経験となりました。このワークショップで作成された文章は、希望者を対象に、このシェルターの上部団体のホームページにて公開することになりました。

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ワークショップ風景         参加証明書とともに記念写真
                   
(被撮影者全員の了解のもとに掲載)

 

去年の10月に、心細い気持ちで降り立った香港でしたが、疾風のごとく6ヶ月が過ぎ去りました。多くの人たちと出会い、忘れがたい経験をしました。いろいろとやり残したことはあるのですが、ひとまず気持ちに区切りをつけて、この後シンガポールに出発します。

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