トップ  »  新着情報  »  2009年2月 月次レポート(澤井志保 中国)

2009年2月 月次レポート(澤井志保 中国)

月次レポート(20092月)


博士後期課程 澤井志保

 

2月に入ると、急に気候が暖かくなってきました。今週は、日本の5月末ぐらいの天気が続いています。これまで日本の冬なみに寒かったのに、今では街で見かける人々はTシャツで歩いています。似ているようでいて、香港の冬の寒さは、やはり日本に比べるとずっと短く、過ごしやすいようです。

 

先月の私の発表を聞いてくださった方のご紹介で、香港中文大学の日本研究科の院生勉強会にて話題提供者として、現調査について日本語でお話しすることになりました。出席者は、香港人の学生の方と日本人の方と半々でしたが、とくに香港人の学生のみなさんは日本語の達人で、自由に日本語で議論しておられたのは印象的でした。また、出席者の中には、自宅に住み込みの外国人家事労働者を雇っておられる方がおられたので、雇用者の立場からの意見を伺うよい機会になりました。私にとってはなじみの少ない、香港の日本研究分野の方々と意見交換のできるよい機会になりました。この機会に先立って、指導教員のナカノ先生、そして香港中文大学人類学科で香港における移民労働者の経済活動について研究されているマシューズ教授に、前回の私の発表をさらに修正するためにアドバイスをいただきました。

Sawai2-1.JPG  Sawai2-2.JPG 

院生勉強会         勉強会後、学内で交流会

 

最近、調査の空き時間を利用して、外国人家事労働者むけのシェルターでボランティアを始めました。このシェルターは、雇用者に暴力を受けたり、法定最低賃金を下回る給与を受けるなど、経済的搾取を受けた家事労働者たちが、労働調停や裁判に訴えるにあたっての滞在場所として利用されており、現在は30名ほどのフィリピン人女性とインドネシア人女性が滞在しています。トラブルに巻き込まれたために、雇用者宅で仕事を続けることができなくなった家事労働者は、ボランティアや法律専門家の助けを受けながら、ここで2週間-何ヶ月にも及ぶ調停手続きを行わなければなりません。色んな不安に直面しながらも日ごろは常に明るい彼女たちですが、先日、いつものように仕事を終え、帰宅する際に、シェルター前の階段にひとりで座ってうつむいている滞在者の女の子を見かけました。他のみんなにするように、「帰るよー、お先に!」と声をかけたところ、その女の子は、インドネシアのポップスをMP3で聴きながら、声を出さずに泣いていることに気がつきました。まだ20歳ぐらいのあどけない顔立ちです。驚いて、「どうしたの、大丈夫」といいながら肩を抱こうとすると、無言で「大丈夫、気にしないで」というそぶりをしながら、彼女は私の腕を押し戻しました。とっさに、そっとしておいたほうがよいと判断し、そのまま足を進めましたが、やはり心配になって、階段の下から、彼女の姿を見上げてみました。でも、夕暮れの薄暗がりの中で表情はよく見えませんでした。この経験で、彼女らには帰りたくても帰るところがないのだということを改めて考えさせられました。香港ではすでに雇用者の家を飛び出しており、また、インドネシアには、いつ終わるかも不確かな法的手続きを終えるまで帰国することはできないからです。彼女らが、私にはわかりようのない辛さを抱えながら、一人で外国で生きていることと、そんな彼女らと共に時間を過ごすことで、彼女らを理解したような気になることの危うさに対する自戒の念を呼び起こされた一件でした。

このページの先頭へ