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2008年9月 月次レポート(幸加木文 トルコ)

ITP- TUFSレポート 2008年9月
                                                                                                           幸加木 文

 2008年9月次の派遣先機関における指導教員との連携・連絡状況であるが、イスタンブル・ビルギ大学欧州連合研究所のアイハン・カヤ准教授に英語論文を提出し、丁寧な査読のもとトルコ現代政治・社会研究の専門的観点から極めて重要な指摘を頂き、今後読むべき文献に関する示唆も受けた。また、大学において入学手続きおよび履修登録を行い、今学期の授業に関する変更事項等を確認した。
 研究の進捗状況については、同大学およびイスラーム研究センターの図書館にて研究テーマに関する資料収集を行い、読解を進めた。また、友人の紹介で関連研究を行っているトルコ人研究者と会い研究テーマと問題関心を伝え、関連情報や会うべき人の紹介などのサポートを依頼し快諾を得た。さらに、これまで一般書店で購入した書籍のリストを作成すると同時に、スルタンアフメット・ジャーミィ内で開催中のブックフェアにて書籍を入手した。その他、論文の推敲作業およびトルコ語の新聞記事翻訳を行った。
 生活状況としては、先月暮した学生寮から一般のアパートに入居し、種々の支払いに関する手続きや自宅ネットワークの修復等、生活および研究環境を整えるための様々な作業を隣人や友人の助けを得て行った。また、滞在許可を当局に申請したが書類不備とされ受理されず、再度申請しに行く予定である。なお、特筆すべきほどではないものの、丸一日を要することの多い日常的な些事が多々発生しており、一つひとつ対処することを「勉強」と受け止めるほかないのが実情である。
その他、今月観察したトルコ社会の出来事について写真とともに若干報告する。

 

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ラマザン期間中、断食明けの食事を供するために設置されたイフタール・チャドゥル(İftar Çadırı)と呼ばれるテントを、イスタンブルの至るところで目にした。これほど大規模に実施されるのは、現与党である公正発展党が政権の座についたここ数年の現象であるらしい。ただし、その日のイフタール提供者・企業名が大抵掲示されており、必ずしも市当局のみの財政で賄われているわけではないようだ。断食明け30分前にはすでに100メートルを優に超える長い行列ができていた。カメラを向けると機嫌よく笑顔を向けてくれる人が多かった。

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各ジャーミィから礼拝を呼びかけるエザン(アザーン)が1日5回発せられる。1日の中でも時間帯によってメリハリがあり、早朝のエザンは夜の帳をゆっくりと持ち上げるような霊妙な声音で明けの空にしみ渡ってゆく一方、日中のエザンは高く感極まるような声音で力強くアッラーの存在を知らしめる。またムエッズィン(エザンを唱える人)も朝夕交代制のようだ。日没後、ウスキュダル埠頭をボスフォラスから眺めると、ライトアップされた2つのジャーミィがあたかも門柱となってひとつの門を形成しているかのような光景が浮かび上がる。そのうちの一つイェニ・ヴァーリデ・ジャーミィでは、2基のミナーレ(光塔)の間に電飾メッセージが点されていた。頻度は不明ながら日によって変化しており、左の写真は「アッラーの命令を守れ」とある。

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ラマザン月に販売されるピデと呼ばれるパンを求めて、パン屋には毎日断食明けの1時間ほど前から行列ができる。フルンという専用かまどで次々と焼きあげられるピデを1人3~4枚ほど買っていく。熱々のピデを胸に抱えて家路につき、家族皆でエザンを待つのだろう。写真のパン屋はサフル(Sahur;日の出前の食事)の時間まで開店し住民の需要に応えていた。なお、このピデは塩とゴマのきいたシンプルな味ながら、トルコ料理の神髄ここにあり!と内心快哉を叫びたくなるような抜群の美味しさである。一枚1.5新トルコリラ(約135円)。

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スルタンアフメット・ジャーミィの敷地内で開催されていたブックフェア。ラマザン月のジャーミィの敷地内という時期と場所なだけあって、一般書やCD、DVDなどのほか宗教関連の書籍を主に扱う出版社も多数出店していた。全体的に30~50%引きと非常に魅力的なフェアである。著者が来場していた出版社のブースでは、若者の質問に答えたり即席のサイン会が開かれたりと、かなりの人垣ができていた。

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今月26日の夜は「カディルの夜(Kadir Gecesi, Laylat ul-Qadr, Night of Power)」と呼ばれ、預言者ムハンマドがアッラーから初めて啓示を受けた日として、また千の月よりも良いと認識されている日にあたっていた。集団礼拝が行われていたが、中に入りきれない人のためにジャーミィの壁にはスクリーンが設置されていた。午後11時頃、朗々と続いていたアラビア語のドゥアーが終わりトルコ語の説教が始まると、周囲の人たちの動きがじわっと変わった。立ち止って両の手のひらを上に向けて胸の前で構え、スクリーンの方(ほぼメッカの方角でもある)を見て一斉にアーミンと唱和する。この場に集う多くの人たちの表情を見、信仰に基づく行動パターンを直接観察しながら、外から推し量ることの難しい精神のあり様を垣間見る思いがした。

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イスタンブル・アジア側クズグンジュックより、対岸の瀟洒なオルタキョイ・ジャーミィを望む。同写真の右上には両岸を結ぶ大動脈、ボスフォラス大橋が見える。穏やかな日曜の午前に新聞を手に寛ぐ人たちの中で、「橋を架ける」というやや抽象的にも用いられる言葉や行為は、案外容易なことなのではないかという思いを抱く。少なくとも「架けるべき対岸」が見えている場合には。遠く霞む「対岸」に手を伸ばす気持ちで研究を進めたいと念じる。

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