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2008年11月 月次レポート(澤井志保 中国)

月次レポート(200811月)

                      博士後期課程 澤井志保

 

11月に入ると、大学生活にもだんだんと慣れてきました。香港中文大学での受け入れ教員であるナカノ先生のアドバイスで、ジェンダー・スタディーズ・プログラムの中にあるいくつかの授業に出席しているのですが、時間がたつにつれ、少し見ただけではみな同じエスニック・チャイニーズに思えたクラスメートたちが、実は香港人と中国本土から来た学生に別れるということに気づきました。私のクラスでは、香港人の学生たちは、ソーシャルワーカーなどの職につきながら、パートタイムで修士課程をとっている学生などが多くみられますが、中国本土からの学生はもう少し若く、学部を終えてからすぐに香港に渡ってきた人が多いように見受けられます。ということで、私のとっているのは、「ジェンダーと法」という英語の授業なのですが、法律についての議論が絡むため、すこし話がややこしくなってきた場合には、香港人であれば広東語に、中国本土からの学生であれば北京語にいきなり議論の言語がスイッチされることもしばしばで、私のような中国語を解さない人間には、いきなり何が起こっているのかわからなくなってしまいます。しかし幸い、授業を行う先生方は、英語、北京語、広東語のすべてが話せる方が多いので、北京語ないし広東語で事態を収拾しつつ、さらに英語で中国語を話さない外国人学生に説明するという離れ業でもって、上手に授業を展開してくださいます。このような授業の進め方を体験して、香港の多言語的社会状況を垣間見た気がしました。

また、クラスメートの中には、実際に自宅で外国人家事労働者を雇っている人が何人かいるので、私の調査分野を知ると、いろいろと自分の経験を話してくれて大変参考になります。私の調査では、どうしてもインドネシア人家事労働者の視点から物事を見ようとすることになるため、雇用者の視点からのコメントは、日々の自分の観察に対して、第三者の目との間でバランスをとるための貴重な情報ともなっています。加えて、受け入れ教員のナカノ先生に、ご自身が外国人家事労働者のサービスを利用されたときのことをいろいろ教えていただき、また、中文大学でフィリピン人の移民家事労働者についての研究をしている研究者の方を紹介していただき、面会して情報交換を行いました。

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香港中文大学キャンパス      キャンパスの頂上からのハーバーの眺め

 

一方、フィールド調査のほうは、11月の半ばに、私の調査対象である文学愛好者グループのFLP香港が、ジャカルタから有名作家を招待して、文筆ワークショップを行いました。このグループは、昨年も何人か同じようなイベントを行っていますが、今回のワークショップは、比較的小規模なかたちで、香港での会員との交流を目的として計画されていたようです。

この招待された作家は、FLPの創立者の一人で、FLP香港の創立時以来、さまざまなかたちで活動をサポートしてきた人です。このように、FLP香港とは以前から信頼関係があるために、メンバーたちにとっては、自分の家族のような存在になっているようです。FLP香港としては、この作家に来てもらって、会員と旧交を温めるとともに、この作家が主宰する出版社を通して、会員の作品の出版を実現させたいということで、ワークショップのほうでも、熱心な議論が繰り広げられました。この作家は、2週間ほど香港に滞在し、ワークショップの次の日曜日にも定例ミーティングに参加してくれました。この日は、ピクニックもかねて、香港島のはずれにあるビーチに出かけ、浜辺でお弁当を食べながら交流を深め、また、今後の活動予定と活動形態について少し深い議論が行われました。この日はよいお天気で、のんびりと過ごしつつ、FLPのこれまでを振り返って、またこれからあるべき姿を模索するような議論の場にもなりました。FLPでは、20歳から30歳前半までの、比較的若年層の会員が多く、結婚を機に帰国する人も多いため、会員の回転が速い部分があります。そのため、執行部の引継ぎを含め、この5年で順調に発展してきたグループの規模をどのように維持するかという点で、試行錯誤しているようです。30人あまりのメンバーがいると、個々の性格や活動についての希望などもばらばらになるので、それをどのようにしてまとめあげ、よい意味で宗教的・文学的に切磋琢磨の場にしていくかという問題は、切実なものであるようです。この日は、ジャカルタからの招待客も含め、すべての会員が、自分の意見を率直に伝え、日ごろのコミュニケーションの足りなさを補足する場となりました。また、ジャカルタから招いた作家から、現在のインドネシア語文学界でのトレンドについて聞くことで、インドネシアでの出版という目標達成のための情報収集という意味でも、貴重な場になったようです。このように、会員たちは、自分たちの力でジャカルタから作家を呼ぶことで、さまざまな必要情報を得るとともに、組織のメインテナンスと、今後の方向性の打診を、限られた休日を最大限に楽しみつつ行っているようです。

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文筆ワークショップ風景      浜辺にピクニック

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