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2008年度派遣 中間報告(細淵倫子 インドネシア)

研究テーマ:パサール・ミングーにおける下層社会とネットワーク

(生活空間としての市場: ネットワークと社会変容)

派遣大学 インドネシア大学 

現地指導教官 ウントゥン・ユウォノ教授

 

   

 

中間報告

 

博士前期課程2年 細淵倫子

 

 

【概要】

              本研究者は、インドネシアの首都ジャカルタ南部に位置するパサール・ミングーをフィールドに、社会言語学、社会学、地域研究の教授指導の元、インドネシア大学と連携し、研究テーマ「パサール・ミングーにおける下層社会とネットワーク」を「生活空間としての市場:ネットワークと社会変容」の角度から現地調査を行っている。本研究は、メガシティ、ジャカルタに存在する、「貧困」という現象を「下層」と呼ばれる人々の目から考察し、そのうえで、この人々が所属するコミュニティ、そして、その社会の構造を分析することを目的としている。この分析は、従来の研究に新しい成果をもたらすと共に、インドネシアにおける社会支援団体へ指針を与えると共に、この地域の町内会におけるコミュニティ維持のための素策として大いに役立つことが期待される。

              近年、首都ジャカルタに研究の目が向けられるようになってきてはいるものの、ここでの研究は、民族を測りにした、従来の同郷ネットワークで考察するものである。しかしながら、2010年ジャカルタ都市計画からもわかるようにジャカルタは年々、外観的にも、内観的にも大きな変化を遂げている。そのため、従来の同郷ネットワークの枠組みで、この大都市ジャカルタに存在するコミュニティを語ることはもはや有効でない。

              また、グローバル化進展により、世界の様々な地域において、従来の固定的な階級、階層概念は揺らいでいる。もちろん、メガシティ・ジャカルタも例外ではない。本来創られてきた、上層、中層、下層という枠組みはもはや存在しない。所得、消費の差異で仕分けられた世界銀行による既定で、ジャカルタ社会は、もはや諮ることが出来ない。ウェバーが述べたように、気づかぬうちに人々の視点の中にもこの階層概念が構築され、より細分化されたこの階層が存在している。そうしたなか、パサールミングーでは、様々な民族、階層が協調、時には、相反しながら市場システムを維持している。

 

 

 

【研究成果】

       パサール・ミングーという地域は、今、ジャカルタ内の中間層市民に最も注目される、地価が高騰する地域である。警察官住宅地、振興住宅地のある地域に隣接する高官や中間層が多く住む地区、中間層、新中間層の住む住宅地区など、様々な階層、民族が暮らす。現在、本研究者が研究を進めている地区は、パサール・ミングーの伝統市場がある市場地区である。この地区には、伝統市場を中心に、ジャワ人、バタヴィア人、パダン人、マドゥーラ人、スンダ人、華僑が混在し、定住している。また、この地区には、市場がある故、そこで成功する機会を狙った若年層がジャワを中心とした農村から次々と流入してくる変動的である。この地区には、市場周辺部に存在する農業省住宅地に住む住民登録書を持つ新中間層である合法住民と市場裏手地区、または、線路沿い地区にすむ居住許可の持たない非合法移住民が暮らしている。農業省で働く高官を家族に持つ世帯を除き、この地区には、伝統市場で成り上がった、「新中間層」と、その下で働く店舗従業員、野菜売り、露天商などが共存し、市場の維持を行っている。この市場は (1)従来の雇用システム、とそれにより構築された(2)店舗内でのヒエラルキーと文化、また、それを支える、オランダ時代の民族居住政策とスハルト政権下における移民政策によって創られたジャワ伝統を保持する(3)野菜売りを職とする人々の大規模なジャワ人コミュニティで成り立っている。

       本研究では、この混在する雑多コミュニティのシステムの中に位置する下層と位置づけられる人々を理解するという試みに、多様な角度から調査を行っている。まず、集住地域分布と雇用システムを把握するため、パサール・ミングーにおいて、参与観察、聞き取り、実態調査を行い、地域分布マップを制作した。その上で、この地区に住む下層に位置づけられるジャワ人若年層に焦点を当て、ジャワ人若年層の使用言語変化、生活スタイルの変化から見る、ジャワ人若年層のアイデンティティ変容が、都市・ジャカルタにおいてどのように成立しているのかを分析し、論文としてまとめた。

       また、市場を中心としたこの地区の「下層」と呼ばれる階層の様々なコミュニティに入り、現在参与調査を行っている。バイク型タクシー、露天商、また物乞い者の生活スタイルを記述、そこに存在するネットワークと社会構造を分析を現在進めている。

       また、引き続き、ジャワ人以外の若年層労働者に焦点を当て、そこにおけるネットワークと、社会、コミュニティ構造と変容を、彼らのアイデンティティの変化の過程を通して調査を行っている。

 

       本研究の一環として行ったジャワ語使用の分析は都市労働地域パサール・ミングーと農村地域をつなぐネットワーク、文化変容、コミュニティ変容の分析に繋がる。参与観察、アンケート、聞き取りの調査を元にしたこのパサール・ミングーにおけるジャワ人若年層の言語使用研究は、論文の形にし、公表。本論文、「Pemakaian Bahasa Gaul dalam Kaum Remaja Jawa di Pasar Minggu」をインドネシア大学人文学部BIPAプログラムに提出、1220日に最優秀賞を受賞している。本論文は、より詳しいジャワ語言語分析を加え、インドネシア大学人文学部研究誌に投稿予定である。

 

 

 

【今後の課題・問題点】

今後の研究として、以下の7点について調査を行う。

(1) 露天商、バイク型タクシー運転手の生活と、雇用、ネットワークを知るために、聞き取り調査と参与観察、(2) 夜のパサール・ミングーに登場するベンチョンに聞き取り調査、(3) パサール・ミングーにおけるジェンダー、セクシュアリティを知るためにアンケートを実施、(4) パサール・ミングー固有の「団体」の使用状況とそのネットワークを探るため、政府組織、民間組織のトップにパサール・ミングーについて聞き取り調査、(5) パサール・ミングーに長く住む住民にパサール・ミングーの歴史について聞き取り調査、(6)オランダ時代の文献をもとに、パサール・ミングーの歴史を記述(7) 「貧困証明書」受領者を対象に参与観察。

 

 

 

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