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2010/6/24 平成22年度附属図書館講演会<読書への誘い>第3回



講師 井上 史雄先生(明海大学教授、本学名誉教授) 略歴

1942 年山形県生まれ。東京大学大学院・博士課程修了。博士(文学)。東京大学文学部助手、北海道大学文学部助教授、東京外国語大学助教授・教授を経て、現在、明海大学外国語学部(日本語学科)教授。東京外国語大学名誉教授。専門は社会言語学。現代の「新方言」、方言イメージ、言語の市場価値などをテーマに研究に従事するほか、NHK放送用語委員も務める。 1987年には第13 回金田一京助博士記念賞を受賞。

主要著書

『言葉づかい新風景(敬語と方言)』(秋山書店、1989) 
『方言学の新地平』(明治書院、1994) 
『日本語ウォッチング』(岩波新書、1998) 
『敬語はこわくない』(講談社現代新書、1999) 
『日本語の値段』(大修館、2000) 
『計量的方言区画』(明治書院、2001) 
『日本語は生き残れるか―経済言語学の視点から』(PHP新書、2001) 

講演要旨「開かれた本と図書館 ――「マイ・フェア・レディ」の言語情報――」 

 今日伝えたいことは二つあります。ことばは金なりということ、言い換えると、言語は市場価値を持つということです。その市場価値には情報量が影響します。市場価値は知的価値と置き換えることもできます。言語にはもう一つ情的価値もありますが、いずれにせよ言語は不動産のような仕組みを持っています。
 もう一つは、電子情報の利点、紙情報の限界についてです。情報の紙離れ、図書館離れが起きています。学生・研究者にとっては、文献がどこにあるかを記憶することが重要ではなくなり、いつでも検索できるようになったということです。

0.言語の知的価値と情的価値
 国内の会話学校での外国語の人気度や、東京外語大の卒業生アンケート等を経年で見ると、以前は西洋の言語に目が向いていましたが最近はアジアの言語に変わっており、日本における外国語の市場価値が変わってきたといえます。
 言語の市場価値の3要素は、①人口、②経済力、③情報量・文化と考えられます。①は将来予想を含めた言語別人口、②は言語別国民総生産の分析、③は言語別出版物とインターネット・ページのデータです。それぞれスライドで説明します。

1.文字情報 本の重要性
 本に収めてある情報の大部分は文字情報であり、図書館が提供するのも主に文字情報です。本の重要性は変わりませんが、図書館に頼らずにインターネットでさまざまな情報が得られます。
 本の読み方には、知的な読み方と情的な読み方の二種類があります。学生時代には知的な読み方を身に付けるべきですが、情的な読み方も必要です。情的読み方はじっくり精読になるのに対し、知的読み方は精読も必要ですが多読も重要です。そのためには速読術(または飛ばし読み)を身に着ける必要もあります。欧米の言語ではパラグラフの最初と最後の文に要点があり、速読がしやすくなっています。
 画像情報は情報量が大きくメモリを食います。画像情報は、それだけ豊かなものであると考えられます。以前は、画像情報を伝えるにも、紙を使っていました。紙は携帯に便利で、普通は消えないという良さがあります。一方、USBメモリなどの電子媒体は情報が消えてしまうことがあります。

2.画像情報の逆説
 社会言語学などでは、社会の意識を高めるのに以前は識字率の向上が重視されましたが、ある研究によるとテレビを普及させて視野を広げることが有効とされ、これも画像情報の有効性を示すと考えられます。
 少年時代、文字だけの本から、本に出てくる英国の邸宅を想像するのはとても困難でした。画像情報ですとそのありさまがよくわかりますので、画像情報はたいへん重要です。ただし、文学作品で人物を表現するのに、もし文字でなく画像情報を用いると、情報が具体的に過ぎ、余分な情報を伝えてしまうという問題が生じます。 文字にはポイントを伝えるという特長があり、画像情報であるTV番組に字幕を入れる手法が普及したのも、要約して伝えられる文字の便利さを用いているわけです。文字情報と画像情報は相補うものであるといえるでしょう。
 学生が論文を書くときにも、画像の活用をお勧めします。文章で書いたことを簡単な図や表で表すと、要約や単純化をして整理することができます。

3.情報の紙離れ 電子情報 電子ファイル
 近頃、本も紙離れをしています。電子書籍、電子ブックなどと呼ばれます。最初のSONYの電子ブックはCDの形でしたが、最近のKindle, iPadはいろんなことができます。日本ではケータイ小説があるので普及しないとの説もありますが、私はそれなりに使われるのではないかと思っています。SONYの電子ブックが普及しなかったのはコンテンツの不足のためとの説があり、やはり中身、コンテンツが重要です。社会言語学でいうところの、High, Medium, Lowのコンテンツ――学術書からかなり柔らかいものまで――が揃うことが市場拡大には必要でしょう。
 ところで、Wikipediaの便利さはご存じのとおりですが、Wikipediaの言語別充実度をグラフにすると、記事数・活動規模(書き替え数)とも英語が圧倒的です。一方、そのいずれも少ない言語が、東京外語大で教えられています。皆さんも記事の少ない自分の専攻言語でWikipediaに入力すると、その言語の話し手にとってすばらしい情報になるはずです。

4.「マイ・フェア・レディ」の言語情報
 この講演のために「マイ・フェア・レディ」の本やビデオを探そうとしましたが、やめました。すぐにインターネットで、有名な場面の動画を含めさまざまな情報が得られます。
 実例を詳しくプレゼンテーションでお示しします。

5.電子図書館と建物
 昔のコンピュータはとても大きなもので、膨大なマニュアルがありました。今はコンピュータも小さくなり、マニュアルもインターネットでたどり、手元にはありません。今は誰がいつ読むのかわからないのに膨大な量のマニュアルを備えることはなくなりました。図書館も同様になりつつあるのではないか、情報はもっと別のところから集まるようになっているのではないかと思われます。
 学生が図書館に来ない、本を買わないと言われますが、本を読まないことと、情報・知識を得ないことは別のことです。
 資料はいろいろな形でインターネットに出回っています。国会図書館の「近代デジタルライブラリー」では明治時代の文献の原典を見られます。かつては考えられなかったことです。国文学研究資料館国立公文書館のサイトでも、資料・史料の原典が確かめられます。青空文庫ではいろいろな小説を簡単に読めますし、ある語の各時代の用例の有無も簡単に探せます。
 利用するばかりでなく、コンテンツを増やし言語の知的価値への貢献をすることもできます。東京外語大の図書館(「東京外国語大学学術成果コレクション」)で紀要論文の公開をやっているのはいいことで、自分の論文が一覧できて便利です。他のサイトでは、私は出版の難しい英語論文を公開しています。
 Web検索の技法にも着目してください。Googleの検索オプション(例えば、「”  ”」や「site:  」)を活用すると、「メンチ」「ミンチ」の地方ごとの用例を調べたり、あらたまった語とくだけた語の用例を調べたりできます(荻野綱男氏の研究)。

 コンピュータがあることは自分の頭脳の一部分を外部に持っているようなもので、暗記せずに忘れていいことが増えました。たくさん覚え込むばかりで、自分の頭で考えられなくなっては困ります。
 機械の中の情報が増えた今日ですが、機械に入っていない情報も図書館の本にはまだまだあり、すべてが電子化されるまでは時間がかかるでしょう。せっかく大学にいるのですから、たまには図書館に足を運んで、どんな本があるかを見ておくことをお勧めします。量に圧倒される必要はありません。辞書と同じで、どうせ全部は読み切れませんし、面白い情報を見つけることが大事なのです。


当日のプレゼンテーション資料は、こちらからご覧いただくことができます。

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