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2010/2/1 平成21年度附属図書館講演会<読書への誘い>第2回



講師 永井進先生(法政大学教授、本学ドイツ科S42年卒)略歴

1944 年千葉県生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科卒業。一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。法政大学経済学部助手、助教授を経て、教授。法政大学経済学部長、同大学多摩図書館長、図書館長、理事を歴任。近代経済学、マクロ経済学などの理論を出発点として、環境経済学、環境再生論の分野にも造詣が深い。

主要著書

『現代テレコム産業の経済分析』(法政大学比較経済研究所、1994)
『ものの値段はどうやって決まるの?—流通のしくみ』(ポプラ社、1994)
『環境再生—川崎から公害地域の再生を考える』寺西俊一・除本理史共編著(有斐閣、2002)

訳書
ポール・デビッドソン『ケインズ経済学の再生——21 世紀の経済学を求めて』(名古屋大学出版会、1994)

講演要旨「環境と経済」 

(1)公害の経済学への契機
大学院のゼミの指導教官であった都留重人先生より、1970年に東京で行われた国際シンポの記録をいただき、経済学から公害を考える契機となった。1970年代は、公害に関する議論や対策面で大きな展開がみられた。国連人間環境会議がストックホルムで開かれた1972年、都留先生は『公害の政治経済学』を出版され、経済学から接近した公害論の先駆となった。同書は、市場の失敗としての外部不経済ではなく、資本主義市場経済を価値面と素材面で捉えることの重要性を提起し、価値面が素材面を分断し、市場が素材面を包摂できないところで外部効果が生じるという議論を展開した。

(2)公害の政治経済学
都留先生は、公害の定義を発生源、環境汚染という現象形態、汚染被害という3段階で行った。企業は、集積による外部経済は積極的に内部化するものの、外部不経済というマイナス面については看過するという指摘を行い、後者については、発生源から汚染への展開については「量」の「質」への転化、そして、汚染から被害への転化についての因果関係の困難性をあげて説明し、公害概念を定義した。また、資本主義市場経済は無駄の制度化によって環境破壊をもたらすことを、減反政策による農地の遊休化の半面で、大規模に海浜を埋め立てて、工業用地や農地を作り出すという動学的な非効率性の事例などを挙げて説明し、所得というフローは増えるものの、自然環境という共有資源は浪費され、フローでは表示できない福祉が損なわれることを示した。また、公害にかかわる費用概念を整理し、汚染者負担原則の重要性を指摘。

(3)70年代の公害対策の進展、
70年代には、環境規制がローカルイニシアティヴ(自治体による公害防止条例や公害防止協定の制度化)によって進められ、汚染防止の費用負担が定着し、たとえば、75年の公害防止投資額はピークの1兆円に達し、全体の設備投資に占める比率も20%近くにまで上昇。工場から排出される硫黄酸化物は60年代半ばの約300万トンから、今日では、約30万トンに削減。現代の中国のそれは、年間、2000万トン以上になっており、環境ガバナンスと費用負担が大きな問題。公害被害の救済については、公害健康被害補償法(1972年)が整備され、72年のOECDによる汚染者費用負担原則(PPP)は、日本において定着し、それが国際的にも影響を及ぼした。この点については、橋本道夫の著作が示唆深い。この原則は、資源リサイクルと廃棄物処理が問題となる90年代以降に、EPR(拡大生産者責任)に転換し、排出源は、いわゆるエンドオブパイプの対策から、クリーン技術の導入へと転換し、省資源、省エネルギーが進んだ。

(4)社会的共通資本(コモンズ)、社会資本
都留先生は、海浜を埋め立てによる工業用地の造成を、美しい庭を潰して台所を作るという言葉で言い換え、所得を増やすために環境という社会的共有資源が減耗することを指摘。ストックを増やすことが生産であり、減らすことは消費であるというI,フィッシャーの先駆的な見解に従えば、所得を増やす生産は消費であるという転倒した見方ができる。そして、所得のように数量化が困難なストックによる福祉の重要性を指摘。この考え方は、1970年の国際シンポにおいて、公共信託財産としての環境の位置づけと、環境権の確立の重要性の指摘につながる。さらに、今日のサステイナブル社会の基礎になっている。社会的共有資源には、行政によって整備される社会資本も含まれるが、市場経済のもとでは、価値面を重視し、外部効果を生み出す社会的共同生産手段としての社会資本の整備は進むが、共同消費手段としての整備は遅れ、公害を促す要因になることは、海浜埋め立て、ダム建設、高速道路建設などの公共事業に表れている。地球温暖化をめぐる今日の状況は、70年代の経験が生かされるべきである。


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