図書館基本構想

A 新図書館の基本理念

 大学図書館の主たる機能は、大学の研究・教育に必要な情報・資料の提供にある。そして、従来その提供対象はその図書館の属する大学の教官・学生が中心であり、徐々に拡大されてきたとはいえ学外への提供はそれに付随するものでしかなかった。また、学外所在資料の収集・提供についても情報・制度が不完全で、やはり不充分なままであった。しかし、現在では、ネットワークの発達等情報通信基盤の整備の急速な進展により、大学図書館の持つ情報・資料は広く公開され、大学図書館は大学内・大学間の学術研究・教育の支援システムの枠を超えて、社会全体の知的活動の核の一つとしての役割をも期待されるに至っている。こうした状況下で大学図書館は、従来の枠を超えた学術情報の発信・受信・中継基地として機能しなければならない。

 本学図書館は本学の性格を反映して、極めて多種の言語にわたる膨大な資料を蓄積してきた。(日本語・英語以外の図書が6割以上を占める。)そして、これらを今後も継続的に収集・保存管理しさらに蓄積していくことは、本学図書館が果たさなければならない独自の役割である。同時に、社会全体で大学図書館に期待される役割が大きくなっていく中で、学内外へ効率的な提供を行うセンターとしての機能の一層の充実は、本学図書館に課せられた大きな使命である。

 また、大学内にあっては、教官・学生等利用者の研究・学習のための情報・資料を入手し利用できる施設・空間としての機能を当然持たなければならない。図書館が提供する資料の媒体も多様化しており、ネットワークを通じた学外の種々の情報の利用も研究・学習活動に不可欠なものになっている。情報リテラシー獲得も含めて、そうした情報・資料の利用に図書館が直接支援し得る部分は大きい。また、特に学部学生にあっては図書資料から電子メディアにいたる多様な媒体を総合的に利用して学習・情報収集を行うための空間も、やはり図書館が提供すべきものである。

 こうした理念の実現のためには、一次資料自体も含めて電子メディアで提供するいわゆる電子図書館的機能の充実は極めて有効である。検索機能の向上、資料保存機能の向上、さらに図書館外へのサービス可能な範囲の拡大等、その意義は計り知れないものがある。もっとも、現段階では一次資料の電子化にはかなりの困難がともなうし、著作権の問題等本学図書館のみでの解決は難しい課題も多い。また、本学の研究・教育の性格から、印刷物媒体資料の提供要求は今後とも高いし、そうした資料の収集・保存及び提供を継続し一層充実させねばならないのは当然のことである。

 しかし、情報通信基盤の高度化・情報の電子化は時代の趨勢であり、そうした手段を充分に活用しなければ、本学及び本学図書館に対する社会からの要請に応えきれず、また本学の研究・教育への支援機能も充分に働かない。本学がこれまでの長い歴史の中で蓄積してきたものを継承しさらにそれを発展させるためには、電子図書館的機能を重視した、環境の変化・利用者の新たなニーズに充分対応できる図書館を目指さなければならない。

 従って、新図書館は高度な情報通信基盤・電子媒体情報の利用環境を最大限に活用して、

  • 大学の総合情報センターとしての、様々な学術情報、さらにあらゆる形態の大学に不可欠な情報の発信・受信・中継を行う「情報基地」として機能する
  • 本学の特質を反映した幅広い言語にわたる膨大な蓄積を維持・継承・充実し、言語文化研究・地域研究・国際交流等の分野における学内外の研究活動の拠点として機能する
  • 快適な居住性を有し、多様な形態の情報を能動的に獲得できる開かれた「情報獲得空間」として機能する

図書館でなければならない。

B 新図書館構想への前提

B-1 本学図書館の特質

 本学図書館は本学の性格を反映して、他の大学図書館に比べ取り扱う言語の数が極めて多く、また資料の言語別構成も大きく異なっている。(具体的には、蔵書に占める日本語及び英語以外の資料の割合が6割以上を占める。)このことが、図書館機能のあらゆる面において大きく作用し、図書館の特質を形づくっている。例えば、資料の分類においても主題と記述言語を組み合わせた分類体系を採用しているし、資料の配架も記述言語別に行われている。また、目録情報の作成に当たっては、(少なくとも現段階では)翻字等何らかの加工が必要な非ローマン・アルファベット資料の比率も高い。

 こうした資料の蓄積は本学図書館を特徴づける大きな要素であり、それらの保存管理、継続的な収集及び効率的な提供を行う言わば外国語文献の情報・資料センターとしての機能は、本学図書館の役割の内の大きな柱の一つである。

 日本語・英語以外の資料(特に非ローマン・アルファベット資料)は、一次資料自体も書誌情報もほとんど図書資料(一部マイクロ資料)であり、また今後の受入資料も同様の形態が多く、電子メディア形態での出版物は(少なくとも当分は)極めて少ないと予想される。従って、新図書館の建築・運営に当たっては、収蔵のための充分なスペースが必須のものとなる。また、資料保存の観点からも一次資料の電子メディアへの変換は有効な手段であり、そのための諸設備も充分考慮されねばならない。さらに、様々な資料の、人的資源も含めた収集・整理システムの確立、ネットワーク上での目録情報の公開は当然の使命としてなされなければならないし、情報提供手段としての一次資料自体の電子メディアへの変換とネットワーク上での公開も果たすべき役割である。

B-2 大学図書館を取りまく環境の変化-電子図書館機能への対応

 大学図書館は、大学の研究・教育に必要な学術情報を収集・保存し提供することをその主たる機能としてきた。そして、その情報媒体は長い間に渡って印刷物であり、それらにともなう種々の業務もまた紙を媒体として行われてきた。

 しかし、コンピュータ技術の進展により、情報の提供に付随する種々の業務(貸出・返却手続き、受入処理等)の処理、続いて目録情報のデータベース化・コンピュータ検索が進んで、一次情報自体の提供以外は機械処理が可能になった。現在では、こうした図書館業務の電算化による図書館サービスの方法はほぼ確立されているといえる。

 一方、学術情報センターを中心とした学術情報ネットワークが整備され、さらに、インターネットの発展、通信技術の進歩に出版形態の変化が相まって、印刷物として提供されていた各種の情報(一次情報を含む)が電子メディアで直接入手され得るようになった。また、既に印刷物形態で所蔵されている資料、今後印刷物形態で出版される資料についても電子メディアに変換してネットワーク上で提供するサービスが本格化しつつある。こうしたいわゆる電子図書館サービスは、今後大学図書館の機能の大きな柱になるものと思われる。

 しかし、少なくとも現時点では一次資料を完全に電子メディアへ変換して提供する電子図書館は、電子メディアの今後の多様化への対応も含めたシステム維持管理の技術的な能力、コストの点からも現実的ではない。(電子図書館システムがソフトウェア的にも標準化されることが最低限必要である。)その上、著作権者の許諾の獲得のように社会的結論を待たざるを得ない部分を含む課題も多い。

 また、資料の電子メディアでの提供が従来からの印刷物形態での提供に全てとって変わるとは考えにくい。資料の性格、利用目的によっては印刷物媒体での利用がより価値的効率的な場面は当然残るし、前述のように本学図書館の資料の性格上、印刷物媒体での受入資料の割合は依然として高いまま推移すると考えるべきである。また、既に蓄積した膨大な印刷物形態資料を全て電子メディアに変換することが利用頻度・変換コスト等様々な面を考慮してもなお必要であるかどうかは、充分議論されなければならないと考える。

 以上の点を総合すると、少なくとも本学図書館においては、電子メディアで一次情報自体をも提供する電子図書館機能と印刷物媒体を物理的に提供するいわば従来型図書館機能とは、一方が他方を凌駕するものではなく、むしろ相互に補完しあうものとして位置づけるべきであろう。

 従って、ネットワーク上での電子的情報・資料提供の設備的対応は充分に取った上で、電子的提供が効果的であるもの、技術的・コスト的に本学図書館で対応可能なものは電子的に提供しつつ、従来よりの印刷物媒体資料の管理運用・提供も一層充実させ、両者を言わば車の両輪として運用する図書館であることが必要であろう。

B-3 大学を取りまく環境の変化-生涯学習社会と地域開放

 大学及び大学図書館に期待される役割が、学術研究・教育のみでなく、生涯学習や地域に対する支援にまで広がってきている中にあっては、大学あるいは大学間での利用要求以外のニーズへの対応は図書館の大きな課題である。

 本学図書館への期待は、言語あるいは言語を通しての外国文化事情に関する資料の利用、レファレンスが中心であることは将来とも変化は無いものと思われ、利用者も研究者レベルが中心で、近隣地域外からの利用要求が多くなると予想される。また、大学図書館としての本来の目的から言っても、公共図書館との間での一定の住み分けは必要であると考える。

 しかし、それらを前提としたうえで、本学の特性を生かした地域への貢献は当然なされるべきものであり、地域住民を含めた学外利用者全体に対して開かれた専門図書館としての位置づけを行うべきであると考える。

B-4 大学間ネットワーク

 現在、学術情報ネットワークを利用して学術情報センターには各大学等の所蔵情報等のデータベースが形成され、それを利用して大学間の相互協力体制ができあがっており、所蔵情報を検索し、複写・貸出の依頼をオンラインで行っている。また、インターネット上に各大学等のホームページも開設され、利用者が学術情報センターを介さずに直接情報を入手することも可能になって来ている。

 今後は、大学間の垣根はますます低くなり、直接の来館利用を、さらには利用者への直接の貸出を相互に行う方向へ向かうと考えられる。特に、移転先の多摩地区は国立五大学間の緊密な関係が構想されており、また従来より国立大学間にとどまらない大学図書館の協力体制が整備されている地域でもあることから、本学図書館も他大学からの利用者は多くなると予想されるので、これに対する対応も検討されなければならない。

B-5 学内の学術情報/資料流通環境

 移転後は当然全学の各組織・研究室が学内LANに接続し、ネットワークを構成することになる。学内・学外の各種情報へのアクセスにおいて、ネットワークに接続した各端末は基本的に同等の機能を持つものとし、図書館内に設置された端末と研究室内の端末は、学術情報の入手について同等の能力を持つことになろう。ネットワークの運営・セキュリティ管理等は、館内に関する部分を担うことになろう。

 各種学術資料(図書・雑誌・AV資料等)は、その特性を考慮して、図書館以外の場所への配置も有り得るが、その場合は、資料の書誌・所在情報は公開されること、それぞれの配置場所が一定レベルの管理・運営機能を持ち、第一義的な利用者(例えば海事研であれはその所員)以外の利用も可能とする(一定の制限を設けるとしても)ことが前提である。

B-6 学内他部局・組織との関係

 現状の機構が維持されるという前提で考えれば、図書館以外で資料の所蔵・配置される可能性のある組織は、AA研・AVセンター・留日教センター・海事研・語研・総文研・共同研究室・個人研究室が挙げられる。ただ、資料の管理・運営機能を考慮すると、AA研・AVセンターとそれ以外とは分けて考える必要がある。

ア)AA研

AA研は全国共同利用機関であるので、AA研図書室は現行では独自の機構(委員会・事務職員・予算措置・選定基準・図書分類等)を持ち、利用者(共同研究員を中心とした全国の研究者)もかなり異なる。また、アジア・ アフリカ言語文化研究所附属情報資源利用研究センターの将来構想において は、AA研図書室はその中核の「資料センター」として位置づけられている。 従って、本報告書においては「図書館」とは別の組織として考えている。

イ)AVセンター

研究機能上、図書館とは別組織となる。それぞれが、その機能を充分に発揮するために独立して資料の収集・提供を行うことが妥当である。ただし、両者の所蔵資料の重複は当然起こりうるので、その調整(両者が共通に所蔵するか、一方のみとするか等)は適宜行われなければならない。

ウ)留日教センター

図書室機能については、図書館に合体するのが現実的である。教官については、下記エ)の研究室として位置づけ必要な資料を配置することになる。学生については、原則として学部学生と同様な資料の利用方法となるが、学部等も含めた留学生全体を対象にし得るとする日本語・日本事情等のコーナー(仮称)の設置等、その教育に必要な運用を検討する。

エ)海事研・語研・総文研・研究室等

AA研やAVセンターと異なり資料の収集事務等の機能を持たないので、一旦図書館へ受け入れた資料を配置することになる。ただし、その場合資料に関する情報は図書館に一元化される。また、そうした配置資料は配置先組 織の独占的・排他的な利用を認めるべきではなく、一定の条件はあるにしても学内外の利用者にも利用が可能であるべきである。

従って、資料はそうした運用が可能であるような管理体制の確立を前提として配置されるべきである。

C 新図書館の基本構想

C-1 施設の概要

 既に述べたように、新図書館は情報基地として、また快適な居住性を有した情報獲得空間として機能しなければならない。そのためには、多様な情報媒体に充分対応できる構成を考える必要がある。

 提供すべき情報は、基本的にはコンピュータネットワークを通じてのオンライン情報と、印刷物媒体の図書・雑誌資料とに大別できる。そしてその両方が充分に利用できる環境でなければならない。

 そのためには、情報端末等の設置スペースが充分であること、印刷物媒体資料が効率よく配置され利用が容易であることが必要である。また、多様な媒体の情報を機能的に利用できる多様な空間構成も必要である。特に学生の様々なレベルでの利用を重視した構成を考えるべきである。

 印刷物媒体資料は、当面現在と同量の受入傾向が続くとすれば、移転後10年の平成24年を想定し、登記資料65万冊、未登記資料15万冊相当(消耗品として購入し、製本登記しない新聞雑誌類)が見込まれる。また、閲覧席は学内利用者全体の少なくとも10%程度が必要となろう。(現状(7~8%)では、試験期等のピーク時には明らかに不足である。)従って、これらを無理なく収容できる大きさを持つ建物が構想される必要がある。

 さらに、利用者のアクセス、資料・機器配置の柔軟性を考慮すると、できるだけ低層で1フロアの面積を大きくとりしかも仕切のない空間が望まれる。そこが、収容効率を重視した印刷物媒体資料利用空間、居住性の高い閲覧スペースを重視した印刷物媒体資料利用空間、情報機器利用空間及び管理・事務空間で構成されなければならない。

C-2 運用の基本構想

C-2-1 電子メディアでの各種情報・資料の提供

 電子メディアで提供する情報・資料は、原則24時間利用可能とする。(メンテナンスのため、深夜に短時間休止することは有り得る)

1) 全学所蔵資料の書誌・所在情報

 全学所蔵資料の書誌・所在情報(いわゆる目録情報)を可能な限り機械可読形式で作成・蓄積し、学内LANに接続した各端末(図書館内外を問わず)からオンラインで検索可能(OPAC)とする。さらに、学外に対しても公開し、例えば自宅のパソコンからでもアクセス可能とする。

 また、OPACとして提供できないデータについても電子メールによる問い合わせを受け付け、図書館で蓄積・公開しているすべての目録情報について、館外で、直接来館したのと同様に入手できる制度・システムを構築する。

 提供するOPACは、従来の文字情報と画像情報の併用型とし、資料の標題紙・目次等を画像情報として提供する。また、配置場所のみでなく、貸出状況(返却予定日を含む)についても最新の情報を提供する。

 ただし、全所蔵資料情報のOPAC化は移転時までには困難であり、その部分については従来どおりのカード目録で提供することになる。

2)学外の資料に関する情報

 学術情報センターのデータベース(DB)に登録された情報については、 学内LANに接続した各端末から、図書館を経由することなく直接アクセス可能になる。その他の各種書誌・出版情報についても、学外のネットワークに接続することによって得られる情報は、基本的に図書館と館外の各端末で入手能力は同等になり、図書館はそれらの情報の提供と同時に入手方法のサポートも重要な業務になる。

 CD-ROM等のメディアで出版される各種出版情報は、必要なものは図 書館で購入・収集し、いわゆるCD-ROMジュークボックスの形で提供する。

3)本学所蔵資料の提供

 本学が受け入れ、所蔵する電子媒体資料は、可能な限りネットワークを介して提供する。ただし、著作権の点で制限されるものについてはこの限りでなく、図書館内で必要な機器を用いて利用することになる。

 また、印刷物媒体の所蔵資料についても、電子図書館的機能の充実・ネットワーク上での効率的な提供および資料の保存の両面から、電子媒体へのメディア変換・デジタル化を積極的に推進する。メディア変換については、当面段階的に行うことになるが、本学で生産される学術情報(紀要等)や貴重書・特別コレクション等は、学内のみならず学外・世界に向けて早急に発信されるべきであろう。

4)その他

 利用案内的情報、例えば開館時間案内・利用規則・館内資料配置等もオンラインで提供する。また、発注中・整理中資料についても(何らかの制限付で)検索可能とする。

 さらに、学内各組織で発生する情報のうち、オンライン化されたものについては、基本的に全て図書館でも提供する。

 さらに、各種情報の入手方法に関する指導も含めて利用指導を積極的に行うことが重要となる。そのためには、ビデオの作成、オリエンテーションの充実が必要で、そのためのスペース、設備も考慮されなければならない。

C-2-2 図書館所蔵印刷物媒体資料の提供・運用

図書館配置資料は、学生の利用を充分に考慮して運用する。

1)資料の配置

 印刷物媒体資料の配置スペースは、収容効率重視の空間と居住性の高い閲覧スペース重視の空間とで構成する。個々の資料の配置は、図書館で利用状況等を考慮して行う。記述言語、主題の構成が現状のまま推移するとすれば、学部学生の利用の多い日本語・英語資料、それ以外の言語の内の語学・文学の資料は閲覧スペース重視の空間に配置すべきである(現状に増加分を見込 むと全体の約30%、20万冊前後と想定される)。

 参考資料及び逐次刊行物資料(主として新着のもの)は、その特性から言って、居住性重視のスペースの中でも、できるだけ集約的に配置されなければならない。

 収容効率重視の空間には、それ以外の資料及び雑誌新聞のバックナンバーが配置される。そうした空間へは状況によっては、例えばより集約的な蔵書収納設備を設ける等の理由により、入場を制限することも可能な構成にする。

 また、ここに配置される資料の内、一定年代以前の古書あるいは保存状態の劣悪な資料等取扱いに注意を要するものについては、いわゆる閉架資料(保存に力点を置く資料)として運用することも考慮する必要がある。

 貴重書、大学関係資料等の特別な資料については、個別の仕切られた空間を用意し配置する。そうした空間の利用は当然一定の条件により制限される。

2)入退館管理

 貸出券併用のIDカードにより入退館を管理する。IDカードをスロットに差し込むことにより、ドア或いはゲートが開いて入館できるシステムを予想している。何らかの制限のある空間への出入りも同様の方式とする。

3)貸出

 IDカードと資料に貼付したバーコードラベルによりコンピュータ管理する。また、貸出・返却の手続きは原則として無人化する。(資料の特性により、貸出対象としない資料は当然残る)

4)複写

 図書館配置資料については、図書館内で容易に複写できる方法を導入する方向で検討する。現状では、著作権・課金の点から実現には困難があるものの、コイン式或いはプリペイドカード方式等の方法を導入して館内でのより簡便な複写を可能にすべきである。

5)開館時間

 電子メディアによる情報提供だけでなく、印刷物媒体による提供も時間的な制約が少ない方が望ましいのは当然である。また、学内ばかりでなく周辺地域を含む学外への対応の点からも、現行体制(休業中を除き平日20時、土曜日16時30分まで)にこだわらない運営が検討されてよい。

 そのためには、開館時間の延長や休日の開館に対応した自動入退館システム・自動貸出返却システム等最小限の人員で運営できるような設備の導入、選択的或いは部分的な開館等への対応が必要となろう。

 ただし、文科系大学図書館であり、病院・実験施設等深夜に機能する施設を持たないこと及び現在の利用状況(平日は18時30分を過ぎると、利用者は少なくなる)から見て、24時間開館は維持管理の負担を考えると少なくとも現段階では必要性は薄いと思われる。

6)学外者へのサービス・地域開放

 他機関の研究者・学生のみならず、地域住民に対しても可能な限り資料・情報は開放されるべきである。ただし、本学構成員の利用を妨げないことを前提としなければならないと考える。(個人への貸出はしない等)

 学外からの電子的ネットワークを介したアクセスは当然保証すべきである。

7)図書の分類

 現行方式を基本的に踏襲し、言語別に区分した上で主題分類を施す。これに図書を個別に識別できる記号を付与して、その記号順に配架する。

 当初から用途限定して収集した資料(例えば留学生用図書、共同利用大型コレクション等)は、別体系の記号を付与することにより別に配置する。

C-2-3 学外資料の提供

 印刷物媒体資料については、学術情報センターのILLシステム、海外の同様のシステムを利用して学外資料の借り受け、複写物の入手を行い、学内利用者へ提供する。また、電子的ネットワークを介して提供される各種の情報については、機器設備の点でも入手手続きの点でも積極的なサポートを行う。

C-3 提供すべき施設・設備

C-3-1 全体構成

 提供すべき情報・資料の特質等から言って館内は

○印刷物媒体資料提供スペース

・居住性を重視した資料利用空間

・収容効率を重視した資料利用空間

・その他(貴重書等)

○電子メディア媒体資料・情報提供スペース

・情報獲得空間

・電子メディア媒体資料利用空間

○その他

・管理部門

・ロビー等

で構成されることになる。

 そして、主玄関のあるメインフロアにカウンター機能及び前述した電子メディア利用ゾーン、外国新聞・雑誌コーナーを集約し、上部に居住性重視の資料利用空間、下部に効率重視の資料利用空間を置く構成も有力なプランである。その場合、メインフロアが2階に置くのが自然であるが、同時に1階からの入館も可能(車椅子であっても)となるよう設計される必要があろう。

 また、吹き抜け等を使って、メインフロアから他のフロア(特に上部の居住性重視の利用空間)が見えるようにし、一体感があり全体の構成が把握しやすいように構成されるべきである。

C-3-2 所蔵資料利用スペース

1)居住性重視スペース

居住性を重視したスペースでは、書架はできる限り仕切の無い空間に展開する。(階が異なるのも一種の仕切である)仕切を設けると蔵書数や構成の変化に対応しづらく、利用しやすい配架を行うことが困難になる。ただし、閲覧スペースは利用形態に応じて多様なスペースが用意されて良い。

 一般的な閲覧スペースは、多人数で共用できる大きな閲覧机と個人用のキャレルを組み合わせることにより単調でない空間を形成する。スペースの許す範囲内でキャレルを増やし、情報コンセント付のものも用意する。また、書架の間にスツールを置いたり、閲覧スペースの一角にソファ・サイドテーブル等を配置した空間を準備することにより様々な閲覧方法を提供する。学部等も含めた留学生全体を対象とした資料は、分類体系等を工夫して1カ所に集め、日本語・日本事情コーナー(仮称)として配置するのが望ましい。

 また、活発な議論を伴う空間としての共同学習室(場合によっては少人数の勉強会等にも使用できる)、特に静謐な研究・学習空間としての個室(ハンディキャップドユーザーの利用も想定される)、柔軟な運用可能な自習室等も重要な構成要素となる。これらはその性格上あらかじめ仕切られた空間を用意する。共同学習室や個室は様々な大きさのものを用意し、その用途・利用者を限定することなく、少人数の勉強会、視覚障害者のための対面朗読室、名誉教授を含む教官・研究者のための閲覧室あるいは研究個室等としての利用に柔軟に対応できるようにする。

 自習室は通常開館時は一般的な閲覧スペースとして利用し、休館時には独立した空間として外部から直接出入りできるように設計する。また、個室・共同学習室は、利用可能人数の異なる多種を用意し、利用形態に応じて使い分けるべきである。仕切られた空間は開架書架と別の層に準備しても資料の配置上は特に困難は生じない。

 逐次刊行物については、新着のものは居住性を重視した空間に展開されなければならないが、中でも代表的な外国新聞・雑誌は入り口付近にまとめ本学図書館の特性を表現する展示効果を持たせることも考えられてよい。

 参考資料は、資料の特性や利用頻度によって居住性重視空間と効率性重視空間にわけて配置されることになるが、居住性重視空間に配置されるものについては、集約的に配置するコーナーとして企画されるべきである。この種の資料は、今後ますます電子的メディアによる提供も増えることから、居住性重視空間にあっても、電子メディア利用機器と印刷物媒体資料が混在したスペースを想定する必要がある。

 電子メディア媒体と印刷物媒体の資料を同時に利用することは頻繁に起こり得ると考えられるので、後述する電子メディアゾーンのみでなく印刷物媒体の利用空間にもそれらの利用機器は適宜配置されるべきである。

2)収容効率重視スペース

 収容効率を重視したスペースは、収容効率を第一に考えて設計する。逐次刊行物のバックナンバー、外国語図書のうち専門性が高い資料等、利用頻度の低い資料・接架する前に利用を特定できる資料を配置するので、同時に多数が利用する可能性は低い。高書架、電動式の集密書架を多用して単位面積あたりの収容効率を上げる。その際、特に集密書架設置のためには、正方形・長方形の単純な空間を考えるべきである。また、例えば新聞資料のように形態に差のあるものはより効率的に収納できるよう、集密書架自体の規格にもある程度の多様性は考慮すべきであろう。

 なお、一定年代以前の古書、保存状態の劣悪な資料等を収納するスペースは、その他の資料とは仕切られた空間として準備する。

 また、閲覧席を設け、洗面所・トイレ等も設置して長時間滞在する事も可能な設備を用意する必要がある。

3)貴重書室その他

 特別図書、貴重書には独自の空間が与えられて良い。その場合、資料の性格上、利用の利便性よりも、図書館(職員)の管理が充分に行えることを重視して構想されなければならない。また、本学関連の資料を集中的に管理・利用する大学資料室(仮称)も準備されるべきである。

C-3-3 電子メディア媒体資料・情報提供スペース

1)情報獲得スペース

 メイン・カウンターのフロアでしかもカウンターに近い位置、入り口に近い位置に計画する。

 このスペースには、検索・閲覧用端末、カード目録、冊子体目録類を配置する。検索・閲覧用端末はOPACの検索のみでなく、電子メディアで提供される各種のレファレンス情報、利用のためのガイダンス情報、インターネット等を介しての外部の情報へのアクセス機能も持つ。また、電子メディアで提供される学内の一次資料の閲覧機能も併せ持ち、このスペースは新図書館の電子図書館的機能を象徴する空間とする。

2)マルチメディア・スペース

 さらに、ビデオ・音声テープ・CATV・CD-ROM・光ディスク・マイクロフィルムその他非印刷物形態資料全般を想定した、マルチメディア利用スペースを併置する。外部のそれらの資料にオンラインでアクセスする(例えばAVセンターで開発した資料を直接利用する)可能性も考慮する。

 このスペースは、音声資料利用の可能性を考慮して他から仕切られた空間として準備する。また、資料は原則として事務管理部門内に保管し、出納の便を考えてカウンターからそう遠くない位置に設置する。マルチメディア型のパソコン、マイクロ・リーダー・プリンターを準備し、AV資料目録検索用のツールも配置する。これらの空間は、前述の情報獲得スペースと隣接させ、電子メディア利用ゾーンとして位置づける。

C-3-4 事務管理部門

 事務管理部門は機能面で二種に大別できる。利用者と接する閲覧部門(現在の図書館で言えば4階部分)と直接には接触しない庶務部門・受入/整理部門(同7階部分)である。事務組織の効率上は両者が隣接した形で配置される事が望ましいが、やむを得ない場合は閲覧部門は主玄関のあるメインフロア、それ以外の部分は別の層(下層の方が事務の効率からは望ましい)に置くことも考えられる。

 また、通常の事務スペースとは別に、情報処理室とメディア変換室を用意する。特にメディア変換室は、電子図書館的機能の充実のためには不可欠であり、変換作業スペースと同時に試験的運用を行う研究開発スペースも準備されなければならない。

C-3-5 ブラウジングスペース等

 資料の利用/情報検索の第一義的機能からははずれるが、図書館全体の雰囲気の形成、長時間にわたる利用の際の気分転換のスペースとして、また学生の図書館利用への導入部分としてその意味は小さくない。国内新聞等の閲覧スペース、談話のできるコーナー、自販機設置コーナー、喫煙場所等で構成される。また、ビデオやパソコンを利用したガイダンス、オリエンテーションのコーナーも設置する。

 吹き抜け・大きなガラス窓等を使って開放感のある空間を形成する。閲覧スペースとの間で、音が遮断できるよう工夫する。入り口からメインカウンター周辺にかけての位置で、館内全体が視覚的に把握できるよう工夫する。また、小規模の展示等が可能なスペースを確保する。

C-3-6 増築スペース

 印刷物媒体資料の増加に対応した収容スペースの確保、電子メディア資料の増加に対応した機器設置スペースの両面から将来の増築は考慮されねばならない。そして、増築後にもこれまで述べてきた種々の条件が満たされるように施設・設備が構想されるのは当然のことである。

C-3-7 その他

・別の階からの動線がメインカウンター前に集約されるようにする。また、カウンターは居住性を重視した空間にもメインカウンターとの行き来が容易な位置に小規模なものを配置し、レファレンス機能を持たせることも考えられる。

・身障者等の利用を充分考慮して、車椅子等でのスムーズな利用が可能な設備の配置を行う。通路幅、段差、エレベーターの操作等細部にまで充分配慮する。

・検索端末は、所蔵資料利用スペースにも設置する。また、情報コンセントを館内各所に設置し、ノート型パソコン等により任意の場所から情報検索が出来るよう準備する。

・館内のサイン計画は前述した各スペース間の機能差がわかりやすく、資料配置の変更等にも柔軟に対応できてかつ統一性の高いものを工夫する。

・フロア間の移動・資料の運搬のためにエレベーターは必須であるが、利用者用と業務中心のものと2系統あることが望ましい。1系統しか設置できない場合には小規模なダムウェイターが準備されるべきである。業務用のエレベーターまたはダムウェイターには小規模な自動搬送機能も考慮されてよい。

・なお、図書館資料の枠を超えた広い意味での大学関係資料の収集・保存・展示等を行う組織(例えば大学博物館)は今後必要となってくると考えられるが、その組織と図書館の関係、資料の住み分け等については大学全体の問題として検討する必要があろう。

以 上